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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第七章 お師匠様のおもてなし編

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街ブラ

 あれからシノの服を一式レンタルした後でセリーヌの店を出たフィオナは、シノを連れて街の温泉施設へ向かう。

 私服姿のシノはその美貌もあり、街の人々から結構な注目を浴びていた。シノいわく、普段は表情を引き締めてなるたけ凜々しく見えるよう振る舞っていても、人から注目されると内心はドキドキのソワソワで落ち着かない緊張状態に陥るらしい。まさかずっとそんな本心を隠していたとは思っていなかったフィオナは、感心すると同時に、ちょっとおかしく思えて笑いを堪えたものだった。


 ほどなく施設に到着すると、ちょうど湯を出て館内で涼んでいたリズリットと軽く会話をしてから浴室内へ。時間的にはまだ空いており、客の少ない中でエステルが気持ちよさそうに露天風呂を堪能していた。

 人見知りのシノにとってこういった公共の施設はかなり苦手らしいが、人が少ないことでだいぶ安心したようだ。それでも、フィオナと二人きりの空間以外ではすぐに素っ気ない敬語に戻ってしまうあたり、フィオナはなんだかシノがいじらしくて可愛らしいと思えるようになっていた。また、フィオナが背中を流そうとするとシノは最初遠慮したが、やがて大人しくしたがってくれるようになる。それからはエステルと共に湯に浸かるのだが、シノは当然ながら終始目を閉じて敬語だった。それがまたちょっぴりおかしくて、フィオナはついクスッと笑ってしまうのだ。


「フィオナちゃん、ダンジョンへ向かってから彼女とはずいぶん親しくなったようね」

「え? そ、そうでしょうか?」

「見ればわかるわ」


 小さく笑うエステル。フィオナは露天風呂の中でシノの隣にずっと寄り添っており、人見知りの彼女を守ろうとしていたのだ。


 エステルがシノに視線を送って言う。


「シノさん、でしたね。勇者(クーちゃん)のお師匠様とお湯に浸かれるなんて光景なことだわ。アズミ……というのは珍しい名前だけれど、マノ特有のものなのかしら。そういえば、こういった天然の温泉もマノから広まった文化と云われているのよね」

「そうですね。私の故郷は小さな島国ですから、こちらの大陸の方々とは名前や衣服、文化もだいぶ異なります。それでも、こうして湯に浸かるとやはり安心するものです」

「マノは温泉が多いと聞きますから、是非、一度は訪ねたいものだわ」


 エステルが露天風呂の湯を手ですくうと、指の間をサラサラと通り抜けていく。

 温泉はこの大陸にも多く存在するが、シノの故郷『マノ』は海に囲まれた島国であり、かつ火山が多いこともあって源泉の数が豊富なのである。そのため、風呂好きのエステルとしてはいずれ足を運びたいと常々思っている国なのだ。


 そこでシノが湯を肩に掛けながらつぶやく。


「私の国は船だと少し遠いですが、飛行艇技術がより発展すれば訪れやすくなるやもしれません。最近では、こちらのように外の文化を取り入れて近代化も進めているようです。もう長い間帰っていませんから、詳細はわかりませんが……」

「クレスさんが『魔王』を討伐してから、魔族の方々ともずいぶん交流が増えてきて、各地でいろんな文化が広がっていますよね! まだ争いの火種も残っているみたいですけれど……このまま、もっと平和な世界になってくれたらいいなぁ」


 手を合わせてしみじみと語るフィオナに、エステルとシノがそれぞれ口元を緩めたりとリアクションを取る。

 人と魔族――その代表となる勇者たち冒険者と、魔王率いる配下たち。彼らが争っていたかつての時代にも、親交を深めようとする人々と魔族は多からず存在していた。その者たちの努力もあり、今、種族の壁は壊されようとしている。世界は確実に良い方向へと向かっているが、人々から魔族への――そして魔族から人々への偏見が完全に消えるには、まだしばらくの時間が必要だと思われた。


 そこでエステルが湯から上がって岩風呂の縁に腰掛けると、口を開く。


「ところでシノさん。せっかくですから、幼かった頃のクーちゃんのお話でも伺いたいのですけれど」

「クレスの、ですか」

「あっ、わたしも是非聞きたいですっ! 十二歳のクレスさんにはお会い出来ましたけど、その後のクレスさんのことはまだ知らないことも多いので、シノさんに教えていただきたいです!」

「それは構いませんが……その前に、十二のクレスと会ったというのは……?」

「あ、それはですね――!」


 こうしてフィオナはシノとエステルと湯を共にしながら、あれこれとたくさんの話をした。その中で、シノの口からフィオナの知らないクレスのことを知れたことが何より嬉しく、フィオナは新たな出会いが自分にたくさんのものをくれるのだと、改めて教えられたような気がしていた。



 ちょっとした長湯から上がり『ユカタ』姿で館内に戻ると、既に湯を済ませていたらしい『ユカタ』姿のクレスとヴァーンが例の湯上がりスポーツ――『ペルシュ』で白熱の闘いを繰り広げており、数名の観客がヒューヒューと声を上げて盛り上げていた。また、二人の間ではリズリットが審判役をしており、あたふたしながら点を数えている。


「む。ヴァーン、フィオナたちが出てきたようだ」

「おっ、ようやく出てきやがったか女ども! ほれお前ら、昼メシ前にもう少しハラすかせておこうぜぇ! 目玉退治じゃあ足りねぇんだよ。つーわけでクレスのお師匠さんよ、オレ様と勝負しろやあああああ!」」


 手に持った木板をシノの方に放り投げるヴァーン。目を閉じたままのシノは無言で木板をキャッチし、ペルシュ台の方へ向かって歩き出す。フィオナとエステルも後を追い、また皆でスポーツを行うことになった。

 が、シノの圧倒的手さばきに負けたクレスやヴァーンがガックリとなり、特にヴァーンは「また女に負けたアアアアアア!」と人一倍悔しがっていたが、そもそも『ペルシュ』がシノの故郷『マノ』のスポーツであることを知って、さらに悔しがることになるのであった。



 その後は施設内で遅めの昼食を済ませた後、リズリットがいったん学院に戻らなければならないということで一人離脱。残った全員で私服に着替えてから街へ繰り出すと、エステルが休日を楽しむ予定だった店などに立ち寄ったり、スイーツを食べ歩きしたり、自然公園で森や池を眺めながらの散策を楽しんだり、少し足を伸ばして郊外の牧場へ行ったりと、主にシノへ聖都を案内する目的での観光――いわゆる『街ブラ』が行われた。シノはヴァーンやエステルのように拠点を持たない旅人であるため、ここ数年でだいぶ変わった聖都の内情なども知らないらしく、静かな表情でありながらも街ブラを楽しんでくれたようだ。


 ――しかしそれは、常にドキドキでソワソワなシノの心情を察して動いてくれたフィオナの世話焼きあってのものである。一人での行動を好み、人付き合いの苦手なシノにとって、こういった大勢で『遊ぶ』ことは何よりも不得手なのである。さらに慣れない服を着ているのだからなおさらだ。


「(……フィオナさん。う、うち、ヘンじゃない? 上手くやれてる……じゃろうか……?)」

「(大丈夫ですよシノさん! クールで凜々しいシノさんっぽい感じ出てます! 最後までわたしがお守りしますので、安心してくださいね!)」

「(うう……ありがとね……)」


 時折ひそひそとこんな会話を交わすものだから、いつの間にそこまで仲良くなったのかとクレスたちは首をかしげたものである。

 そんなフィオナの努力の甲斐もあって、シノが本当は人見知りであるということは他の誰にもバレることはなかった。夫の大切なお師匠様に恥を掻かせるわけにはいかないと、フィオナは気力マシマシで臨んでいたのだった――!


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