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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第七章 お師匠様のおもてなし編

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後片付け


 主にフィオナが重要な部分だけをかいつまんでエステルへ適当な説明を済ませると、彼女はすぐに事の次第を理解してくれた。


「そう……そういうことがあったのね。ともかく、そちらも無事のようでよかったわ」

「ああ。しかしまたエステルに迷惑をかけてしまったようだな。すまない」

「エステルさん、身体は大丈夫ですか? リズリットも、怪我はないのっ?」

「は、はいっ。リズは平気、です。エステル先生の方が、たくさんがんばって……」

「私も問題ないわ。ああいうのとは相性が良い方だから」

「さすがエステルだな、対応が早い。街がどうなっているか心配だったから、帰ってきて安心したよ。君にはいつも助けられているな」


 ホッと息をつくクレス。彼にとって、エステルは昔から最も気の利く賢い仲間だ。

 信頼ゆえに出たクレスの言葉に、エステルはまんざらでもない様子で誇らしげに髪を払い、返答する。


「偵察用の魔物らしいことはわかったから、クーちゃんたちに関係があると思って、街を巡っては見つけた化け物を手当たり次第に凍結処置していただけよ。騎士たちがいつもより多く街を巡回してくれていたのが大きいわ。おかげで連携が取りやすかったし、都民には余計な不安を与えずに済んだもの。これも、クーちゃんのお師匠様のおかげね」

「む? ――そうか! 師匠が騎士団にあらかじめ連絡を入れていたのは……!」

「そうですね。こちらに被害が出ないよう対処したつもりですが、面倒をお掛け致しました」


 深々と頭を下げるシノ。エステルがそっと手を前に出すと、シノはすぐに顔を上げて小さく会釈した。

 エステルはわずかに焦げていた自身の髪先を見つけ、ひどくむっとした表情を見せながら話す。


「あの魔物、ほとんどはこちらの様子をうかがっていただけみたいだけど……子どもたちが追いかけ回していたものなんかが爆発してしまって驚いたわ。ああ、もちろん子どもたちに怪我はないわよ。“正義の味方”が身を挺して守ったのだから。そうよね、リズリットちゃん」

「はひっ! あ、え、えっとっ、リ、リズはたいしたことはしていなくて! 講義で外出していた帰りにエステル先生とお会いして、お、おはなしを聞いて! 臨時の実践授業ということで、ごいっしょに目玉の魔物を探してたんですっ。と、とにかく被害がなくてよかった、です…………はぁ~……」


 胸をなで下ろすリズリット。エステル先生との実践授業はよほど大変だったのか、目尻にちょっぴり涙が浮かんでいる。フィオナがそんなリズリットの頭を撫でると、リズリットは「えへへ……」と顔を綻ばせた。騎士たちの助力もあったとはいえ、エステルとリズリットはたった二人で人知れず聖都への被害を抑えたのだから、かなりの功労者であろう。教会から褒賞が出るレベルである。


 エステルは自分の髪から手を離し、またため息をついて言う。


「リズリットちゃんのおかげで助かったけれど……本当に最悪だったわ。休日返上で頑張ったのだから、褒賞とまでは言わないけれど、それなりの『ご褒美』くらいいただきたいわね。リズリットちゃんもそう思っているわ」

「ふぇっ? リ、リズはべつにっ……」


 エステルの言葉に困惑するリズリットだが、エステルがニコリと笑いかけるとすぐにこくこくと高速で首を上下に動かした。見事な上下関係である。


 するとクレスが「うん」と納得したようにうなずいて答える。


「そうだな。師匠の話では、敵の狙いは俺だったようだ。つまり今回の件は俺の責任と言えるだろう。エステルとリズリットさんには何か『ご褒美』を贈らせてくれ。俺が自分で考えると迷惑をかけそうだから……そちらで何か案を考えておいてもらえると助かる」

「ええ、それでいいわ」

「はぇぇ!? ク、クレスさんからごほうび……れすか!? で、でででもっ」

「ふふっ、よかったねリズリット。クレスさんからなんて、羨ましいなぁ」


 ご褒美のおかげで多少は機嫌を取り戻したのか、うんうんとうなずくエステル。リズリットはなんとも恐れ多そうな感じであったが、フィオナに声を掛けてもらってからそわそわとし始めて、それからへにゃっと頬を緩ませた。


 と、そこでエステルの細い足首をごつい男の手が掴んだ。


「…………オィィィ……! 功労者のオレ様にも……酒とか女とかよこせやぁ……!」

「欲しがりね。私の足がご褒美でしょう?」


 そのおみ足による金的のダメージに苦しむヴァーンが「ツルペタ鬼畜女……」とつぶやき、彼の手がエステルの靴に踏んづけられたところで、聖城の方から昼を知らせる鐘が鳴った。



 やがてヴァーンがいつも通りに脅威の回復力を見せて復活したところで、クレスたちはいったんそれぞれ別れて行動することとなった。後片付けのためだ。

 エステルとリズリットは汚れた身体を綺麗にするため温泉施設へ。クレスとヴァーンはこの場に残っていた若干名の騎士たちと共に、駐屯所へ報告に向かうこととなった。


「んじゃ、オレらはさっさと騎士団行くぞ。報告ついでに報酬貰わんといけねぇからな。酒と女はとりま後にして、仕事分の金をたんまり貰うぜ。んで、その後でオレらも風呂いこーぜ」


 ガシッとクレスの首に腕を回して笑うヴァーン。

 クレスは真剣な顔で返答した。


「ああ。ところでヴァーン……一つ聞きたいことがあるんだが」

「ア? んだよ」

「お前は……男……だろうか?」

「大真面目な顔で何言ってんだ気持ちわりぃなボケ! オイフィオナちゃんこいつ借りてくぞ! そっちは任せたかんな!」

「あ、は、はいっ! クレスさんをお願いします!」


 半ば強引にクレスを引きずっていくヴァーン。クレスはまだぶつぶつと何かつぶやきながら思案していたようだった。どうやら師匠(シノ)が女性であったことが相当衝撃だったらしい。フィオナはちょっぴり心配になって苦笑いした。


「ク、クレスさん大丈夫かなぁ……。あ、シノさん、それじゃあわたしたちも行きましょうか。案内しますね」

「ええ、お願いします」


 最後に残ったフィオナとシノの二人は、クレスたちとはまた別の場所を目指して歩いた。



◇◆◇◆◇◆◇



 そして乙女二人がやってきたのは、セリーヌの服飾店(ブティック)である。


「セリーヌさん、どうでしょうか」

「んー、これはかなーり難しいかもね」


 店の奥。人目の付かない作業場で、シノが脱いだ和装を細かくチェックするセリーヌ。彼女の指先からは何本もの魔力の糸が生成されていて、シノの服に細かく絡みついている。傍らには異国の衣服に関する本などが開かれていた。

 主に『目玉むし』の爆発によってシノの服が無惨な状態となっていたため、このままではろくに街中を歩くことも出来ないと、まずは修繕のためにここへやってきたのだ。本来は依頼を受けたシノが騎士団へ報告に向かうべきだったのだが、この状況ではそれが出来ないため、代わりにクレスを向かわせたということである。


「そうですか……シノさん、ごめんなさい」

「フィオナさんが気になさることではありませんよ。私の国の衣服は作りが複雑なので、無理もないことです。特に私のものは古いですから」


 しょんぼりするフィオナと、そんなフィオナを慰める半裸姿のシノ。

 そんなやりとりを聞いていたセリーヌが、「フフン」とクールな笑みで手を前に出した。


「はいお二人さんちょーっと待った! 難しいとは言ったけど、直せないとは言ってないわよ?」


「「え?」」


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