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共有財産

 それから二人は先ほどの約束通り、祭り二日目の賑わいを堪能することにした。


 メインの大通りは先が見えないほどの人で溢れ、皆、楽しそうに買い物を行っている。

 二日目の今日は大陸中の様々な国から様々な商人が足を運んでいるだけあって、その品数と種類は豊富。食べ物から衣類、武器、防具、魔術用のアイテムに家具まで、ありとあらゆる商人が無数に並ぶ。一日見ていてもとても見きれないほどだ。


 また、昨日の事件で崩壊した建物を修復するため、大工たちに混じってアカデミー関係の魔術師たちがあちこちで動き回っている。以前にフィオナがやってみせたように、魔術の中には物体を浮かしたりと便利なものもあるためだ。小さなものなら物体の組織をつなぎ合わせることで疑似修復することも出来るが、建物レベルの大きさになれば難しい。


 そんな中で、クレスとフィオナはまず簡単な昼食を済ませた後、あれこれと買い物をしていく。

 主にフィオナのための調理道具や家財などを新調したが、結果としてかなりの量となってしまい、いくつかは後日取りにくることになった。本当はフィオナ用のベッドも購入する予定だったのだが、なぜかそれはフィオナが強く遠慮した。


 クレスは両手で荷物を抱えながら街を歩き、フィオナが慌ててついて行く。


「クレ――グ、グレイスさん! あのっ、こんなに全部お支払いしてもらうなんてダメですっ。わたしも、せめて自分のものくらいは……あ、に、荷物も持ちます!」

「いや、いいんだフィオナ。冒険をやめてからほとんどお金を使う必要がなかったから、それなりに蓄えがあるんだよ」

「で、ですが、わたしのためになんて……」

「フィオナだけのため、というわけではないよ。俺のためでもある」

「え? ど、どういう意味ですか?」


 パチパチと不思議そうにまばたきをするフィオナ。

 クレスは荷物を抱え直して言う。


「君が俺の『妻』になってくれるのなら、妻の生活を守ることは夫にとって大切なことだよ。生活を共にする以上、出来る限り君には不自由なくいてほしい。それに、そうなれば俺たちの財産は共有物だ。夫が妻のためにお金を使うことは当然だろう」

「クレスさん……」


 手を合わせながら惚けるフィオナ。

 クレスはそこで思いついたように言う。


「ああ、そうだ。いっそあの家を建て直そうか。今は一部屋だけでずいぶんと手狭だからね。あのままだとフィオナも不便だろう? 君に我慢してほしくは――」


 と、そこでクレスの服の裾をフィオナが引っ張っていた。


「ん? フィオナ?」


 クレスが振り返る。

 フィオナは、ふるふると首を横に振った。


「いいんです。あの家は、あのままがいいです」

「だけど……今のままで困らないかい? お互いのことが常にわかってしまうし、その、着替えとか、ベッドとか……女性にも、いろいろとあるのでは……」


 不思議そうに尋ねるクレス。

 だが、フィオナはまた首を横に振る。


「わたしは、あのままが好きです。クレスさんの匂いがする、あの温かい家が好きです。それに、生活する上でクレスさんに隠すようなことは何もないですから」

「フィオナ……」

「夫婦の財産は、共有物なんですよね。だから、ベッドも一つでいいんです」


 微笑みかけるフィオナに、思わずドキッとするクレス。


 それはつまり――そういうつもりなのだろう。


 フィオナは、そんな自身の発言にまたも赤くなっていた。周囲にまで声は漏れていないとはいえ、時折クレスの呼び方が元に戻ってしまうことからも、彼女の緊張がうかがえる。


「あっ、ご、ごめんなさい。わたしばっかり勝手なことを言ってしまって。あ、あの、やっぱりクレスさんが嫌でしたら、わ、わたしも別のベッドに……」

「……うん。それじゃあ、やっぱり新しいベッドを買おうか」

「は、はい……」


 しょんぼりと弱々しくうなずくフィオナ。

 クレスはすぐに続ける。


「今のベッドじゃ、さすがに二人は厳しいだろう。いっそ大きめなものに新調した方が、二人で眠るには楽なはずだ。そもそも、あの家にベッドを二つ置くのは圧迫感が強いだろうからね」

「……え?」

「戻ろうか、フィオナ」


 向きを変えて歩き始めたクレスに、フィオナはしばらく呆然とした後――


「……はいっ!」


 嬉しそうに返事をして、クレスの後に続いた。


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