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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第七章 お師匠様のおもてなし編
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力より強き心を


「――ですが、都へ近づくにつれて新しい噂も聞きました。勇者が奇跡の復活を果たし、今は嫁を貰って楽しく暮らしているというではありませんか。何が本当のことなのか、私は後者が事実であることを願い、ここに来ました。そして……来て良かったと、今は心からそう思っていますよ」

「師匠……」「シノさん……」


 シノは常にまぶたを閉じている。

 それでも、その穏やかな表情に慈しみや喜びが込められていることが、クレスはもちろんフィオナにもよくわかった。


するとそこで、シノの表情がスッと変わって引き締まる。


「しかし、想定外のこともありました」

「想定外? どういうことでしょうか、師匠」


 クレスの疑問に、シノは落ち着いた声で返した。


「聖都へやってくる際、途中の森で新しい洞窟を見つけました。おそらく魔物の生息しているダンジョンだと思われるものです」


「「!」」


 クレスとフィオナが同時に驚愕の反応を見せる。

 思わず立ち上がったクレスが言った。


「ダンジョン……!? そんな、この聖都の近くでですか!?」

「ええ。なにぶん森の中に隠れていましたから、発見が遅れていたのでしょうね。ここに来る途中、既に騎士団の方へ連絡は済ませてきましたが、以前ここに大型のオーガが現れたと聞きました。その魔族も、おそらくあのダンジョンから現れたのでしょう」

「あのときのキングオーガか!」

「あ……なるほどです! だから、あんな大きな魔族が聖都まで来られたんですね……!」


 同時に得心する二人。オーガの襲来によって聖都の騎士団は周辺の警戒を強めていたが、その原因がようやく判明したということである。


 さらにシノが言った。


「騎士団はすぐに調査隊を出すとのことですが、ダンジョンの詳しい場所を知っているのが私だけなので、案内を頼まれてしまいました。協力するのはやぶさかでありませんが、ひょっとすると戦いになるやもしれません」

「戦い……そういうことですか。師匠、ならば――!」

「却下します」


 クレスが続きを言う前に、その言葉を切るように止めてしまうシノ。


「勇者として戦う力を失っているのでしょう。お前を連れていくようなことはしません」

「師匠、ですが!」

「クレス」


 静かな声、だった。


「“力より強き心を持ちなさい”。忘れてはいないでしょう。今のクレスにも変わらず強き心が宿っていること、嬉しく思います」

「……師匠」

「ですが、強き心の生かし方を見誤らなぬように。家に残したフィオナさんを万が一にも悲しませるような選択をしてはなりません」


 シノの声は静かで、美しく、凜々しい。

 クレスが隣のフィオナを見る。

 すぐに落ち着きを取り戻したクレスは、また椅子に腰掛けた。


「――はい」

「よろしい」


 今度は逆にシノが椅子から立ち上がり、刀や荷物を手に取る。


「数日後、私は騎士団とダンジョンへ向かいますが、その前にクレスとお嫁さんの顔だけを見ておきたかったのです。今日は来て良かった。フィオナさん、クレスのことをどうか宜しくお願いします。お茶とクッキー、ごちそうさまでした」


 シノは深々と頭を下げ、そのまま家を出ていこうとする。


そこでフィオナが立ち上がり、声を掛けた。


「あのっ!」


 振り返るシノ。和装の裾が揺れた。

 クレスもフィオナの方を見やる。


「フィオナさん? どうかしましたか?」

「え、えっとですね……わたしも一緒になら、どうでしょうか!」

「「えっ?」」


 シノと、そしてクレスの声が揃う。

 フィオナはおたおたしながらも、なんとか気持ちを落ち着けつつ話す。


「クレスさんは、とても強くて優しい方です。シノさんは、よくおわかりですよね」

「フィオナさん……」

「だから、困っている人は放っておけないんです。みんなのために、力を尽くせる人なんです。そんなクレスさんだから、国のそばにダンジョンがあるなんてわかったら、心配で仕方ないと思うんです。そこにお師匠様が行かれるというのなら、なおさらだと思います」

「フィオナ……」


 隣で見上げてくるクレスに、フィオナはにこりと笑いかけた。

 それからまたシノの方を見ると、そちらに歩み寄って続ける。


「クレスさんとご一緒に、わたしもダンジョンへ行きます。それなら、一人残されることにはなりません。わたしは、どんなときでもずっとクレスさんのおそばにいると決めているんです」

「フィオナさん……。しかし、ダンジョンに魔族や魔物が残っている可能性も……」

「大丈夫ですっ! キングオーガや上位魔族の方々とも戦いましたし、魔王メルティルさんとも一緒にお茶会をしました!」

「――え?」


 わずかにだが驚いたような声を上げるシノ。

 フィオナは大きな胸を張り、ぽんと胸元を叩いて言った。


「クレスさんがいてくれる限り、もう恐いものなんてないんです! 最強のお嫁さんを目指しているんです! だから是非、クレスさんと一緒にわたしのことも連れていってくださいませんか!」


 目を輝かせるフィオナ。


 シノはしばらく何も答えられずにいたが――、


「大丈夫ですよ、クレスさん。二人一緒なら、きっと何も問題ありません」

「フィオナ……君は、いつも俺の気持ちを感じ取ってくれるね」

「お嫁さんですから♪ それに、もしもまた街が襲われたら大変です。これからの新居とお店を、わたしたちの未来を守るためにも、ここで不安は拭いさっておきましょう!」

「……ああ、そうだね。二人一緒なら、問題ない」


 クレスとフィオナが仲睦まじく手を取り合っている様子を見て。


 やがて、シノは小さく微笑んで口を開いた――。


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