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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第六章 実家に帰らせていただきます編(新婚旅行編)

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特別な選択

 聖女の寝所へと連れてこられたフィオナ。

 ソフィアは廊下に誰もいないことを用心深く確認し、扉を固く閉ざした。万が一のために聖女の寝所に鍵はついていないが、そもそも勝手に入ってくるような者もいない。大司教クラスや側近のメイドはその限りではないが、それでも当然聖女から許しを得ている場合のみだ。だからこそ、ソフィアはわざわざ誰も入ってこないようにと釘を刺した。


「よし……これでおっけー!」

「ええっと、ソ、ソフィアちゃん?」

「フィオナちゃん、こっち座って」

「え? い、いいのかな……? ……失礼します」


 自らのベッドの上にフィオナを導くソフィア。


 二人は並んでベッドに腰掛ける。

 フィオナはちょっとドキドキしていた。

 ここは、母イリアの魔術によって過去の世界へ飛ばされたとき、こっそり覗いた聖女のための部屋である。部屋の造りや装飾品などは今でもほとんど変わりがない。だからこそ、あの世界が過去であったことも間違いないと実感出来た。

 あのときこのベッドに座っていたのはソフィアの母――先代聖女のミネットであったが、今はそこにソフィアと並んで座っている。聖女の部屋に入ってしまったという緊張感のようなものがありつつ、同時に、本当に大切な話があるのだろうという確信もあった。


 ソフィアが真剣にフィオナの方を見つめて口を開く。


「フィオナちゃん」

「は、はい」


 フィオナも正面から向き合う。さすがに緊張が強くなった。


 すると――ソフィアはふっと笑った。


「ふふっ! さっきは嬉しかったなぁ。『お姉ちゃんには、甘えてもいいよ』って言ってくれて。わたしね、ずっと優しいお姉ちゃんが欲しかったの! だから、冗談でもあんな風に言ってくれて嬉しくって、ついフィオナちゃんを連れてきちゃったっ。ここでなら、もっと甘えちゃっても怒られないかなぁ。なんてっ」


 屈託のない笑顔。


 フィオナにはすぐにわかった。


 やはり、ソフィアは真実を知っている。

 そして、本意を探っている。


 今、ソフィアはどのようにも対応(・・・・・・・・)出来るように(・・・・・・)振る舞っている(・・・・・・・)


 フィオナが真実を知っている場合でも、知らない場合でも。そして、知っていて知らないフリをする場合でも。

 その上で、自分に委ねてくれている。


 そのことがわかったフィオナは、少しだけ悩んだ。

 今までの関係でいたほうが、良好に進むこともあるかもしれない。お互いに知らないフリをしていた方が、賢い選択であるかもしれない。



『――ねぇフィオナ、ソフィアと仲良くしてあげてね。たった二人の姉妹なんだから』



 村での母の言葉が蘇った。


 フィオナにとって、“家族”は特別である。

 それは誰にとっても当たり前のことのはずだが、当たり前に家族を特別だと考えられる者は少ない。


 母たちと過ごした『リンドブルーム』の家。

 養親である『ベルッチ』の家。

 そしてクレスとの未来を作る『アディエル』の家。


 すべてがフィオナにとって特別な家族だ。繋がり、支え合っていける家族の大切さを、フィオナはよく知っている。家族がいなければ、自分はこんなに幸せにはなれなかった。


 だから、フィオナは特別で当たり前の選択をした。


 ソフィアの目を見つめて、両手を広げる。


「いいよ。もっと甘えても」

「え――」

「たった二人の、姉妹なんだから」


 フィオナは笑いかけた。

 それは、聖女や友達へ向ける笑顔ではなく、家族へ向ける笑顔だった。


 ソフィアは呆然と目を見開くと、やがて込み上げる気持ちをぐっと堪えるように口元を引き締めて、手を握り、それからぼそっとつぶやいた。


「…………どうやって、知ったの?」

「クレスさんと故郷の村に戻ったときに、お母さんが教えてくれたの」

「え? でも、フィオナちゃんのお母さんは……」

 

 驚いた表情を浮かべるソフィア。フィオナはうなずいて話した。


「うん。わたしがどんな人のお嫁さんになるのかチェックするために、魔術で魂だけを残してたんだよ。いろんなことがあって、びっくりしちゃった」

「そ、そう……なんだ。訊いたわたしの方が、びっくりしちゃったけど……」

「ふふ、そうだよね。本当にびっくりしたけど……でも、嬉しかったな」

「え……?」

「血の繋がった家族が生きていてくれたことが、わかったから」


 その言葉に、ソフィアがぴくっと動く。

 ソフィアはうつむき、かすかに震えながら言った。


「……フィオナちゃんは、それでいいの?」

「うん」

「わたしが……妹で、いいの?」

「うん」

「認めちゃっていいの?」

「うん」

「本当に――っ!」


 ソフィアが顔を上げる。


「本当に………………わたしの、家族で…………いいの……?」


 ソフィアの大きな瞳が潤んでいた。


 フィオナは、ゆっくりとうなずいた。


 そしてすべてを肯定するように微笑む。


「うん」


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