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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第六章 実家に帰らせていただきます編(新婚旅行編)
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クッキーあげます!

「ク、クレスさん。大丈夫ですか?」

「ん、あ、ああ……ちょっと頭がくらくらするが……。すまないフィオナ、助かったよ」

「いえそんなっ。そ、それよりも、えっと、ど、どうしてメルティルさんとリィリィさんがこちらに……?」


 クレスを抱き起こしながら魔王とメイドに視線を向けるフィオナ。クレスも頭に手を当てながらそちらを見た。

 メルティルは「ふん」と腕を組んだ状態で鼻息をもらす。そして眉尻を上げた不機嫌そうな目で二人を睨んだ。


「それはこちらの台詞だ。貴様らこそなぜ秘境にいる。こんな場所は貴様らでなくとも何の用もない不毛の地であろう」

「あ、私たちは里帰りで……」

「里帰りだと? ふざけろ。このような土地に人の住む場所があるはずなかろう。妾をからかおうなどと、いくらスイーツの娘でも容赦は――」

「ふ、ふざけてませんよ! えっと、す、すぐそこなんですけれど……」


 フィオナが指を差す方向に、メルティルとリィリィが目をやる。

 魔王が「ん――?」と訝しげに眉をひそめた。


「わたしの故郷で、ラクティス村といいます」

「まぁまぁ。本当にあんなところに村があります! すごいですねぇメル様!」

「……村だと? 馬鹿な。こんなところに人の村があるなど…………いや待て……」


 メルティルはなにやらぶつぶつと独り言をつぶやき、それから得心したように何度かうなずいてから腰に手を当てて言った。


「――そうか。貴様はアルトメリアの血筋だったな。隠れ里の一部を飛び地に移し、結界で守っていたか。やつらの高位結界術はなかなか見破れんからな」

「えっ……あの! や、やっぱりわたしがアルトメリアの血族だってわかっていたんですかっ?」


 すかさず尋ねるフィオナ。メルティルはまた「ふんっ」と鼻息をもらして言う。


「当然だ。であれば妾の助言を聞いて里帰りしにきたわけか。チッ。厄介なタイミングで……! しかもなぜこの場所なのだ。ありえんだろう不愉快だ……!」

「うふふっ、運命ですよ~メル様。それに、やっぱりあれは助言だったんですね~。メル様はお優しいです!」

「うるさい黙れ。あのときはただ借りを返しただけだ」

「はいはいそうですね~メル様かわいいですよ~♪」

「お前ほんと腹立つ!」

「ひゃんっ! あ、足を踏まないでくださいよぉ~~~!」

「ふん」


 ツンとした表情でふんぞり返るメルティル。リィリィは涙目になって踏まれた足を抑え、汚れたメイド服を払う。

 クレスとフィオナはお互いに顔を見合わせて、それからフィオナが声を掛けた。


「あのう……そ、それで結局、お二人はどうしてここに……」


 その質問に、メルティルが「ふぅ」とため息をついてから自分の手を前に突きだした。

 フィオナが「あっ」と声を上げる。


 メルティルが掴んでいるもの――それは小さくなったベヘモットだ。


 ベヘモットをぶらぶらさせながらメルティルが答える。


「この失敗作を処分しに来ただけだ」

「え? しょ、処分って……」


 フィオナが驚いた顔を見せたからだろうか。もうとっくに元気を取り戻していたメイドのリィリィがニコニコスマイルで説明を始めた。


「あ、大丈夫ですよ~。“処分”と言っても、ため込んだ魔力を解放して暴走しないようにするだけですから。フィオナさんのおかげで、もうその必要もありませんけれど!」

「あ……そ、そういう意味なんですか」

「はい~。ふふっ、手間が減ってよかったですねぇメル様」

「うるさい馬鹿! 別の手間が増えたわッ!!」


 おかしそうに笑うリィリィ。メルティルは不満げにまたもため息をついた。


 それからメルティルはさっさと振り返って歩き出す。


「まぁいい。用は済んだからな。こんなところに長居する必要はない」

「え? メル様もう行っちゃうんですか? せっかくお二人にお会い出来たのですし、ちょっとしたティータイムでもいかがです?」

「本物の阿呆かお前は! なぜこの妾がこんな馬鹿勇者とティータイムせねばならんのだ! メイドならもっと気を遣え!」

「ひえーすみません!」


 怒鳴られて耳を塞ぐリィリィ。

 そこでフィオナが声を掛けた。


「あのっ! ま、待ってください!」


 メルティルがくるりと振り返る。鬱陶しそうな視線にフィオナはちょっと怯えたが、勇気を出してそのまま続けた。


「さ、さっきわたしを見て《メル・ブライド》って言いましたよねっ? どういうことですか? わたしの掛けた魔術は《結魂式(メル・アニムス)》のはずですけど……この魔術のこと、何か知っているんですかっ?」

「む……そういえば確かに……」


 隣で納得するクレス。

 魔王ならば魔術のことにも詳しいはず。おそらくそう考えたフィオナは、自分が突然花嫁衣装になったことなどについて何か情報を得たいと思ったのであろうが、メルティルは「ふん」とつまらなさそうに答える。


「なぜ妾が貴様にそんなことを教えてやらなければならんのだ? 自分の頭で考えろ」

「もう~、メル様いじわるですよぅ。教えてあげればいいじゃないですかぁ」

「お前は黙ってろ! いいからさっさと行くぞ! こんな何のスイーツもないような場所にこれ以上いられるか!」


 そのままずんずんと歩いて行ってしまうメルティル。どうやら教えてくれるつもりはないらしい。

 しかし、フィオナは簡単に諦めなかった。


「クッキーあげます!」

「!?」


 お菓子袋からまた一枚のクッキーを取り出すフィオナ。その言葉にメルティルがバッと勢いよくこちらを振り返った。


「教えてくれたらクッキーを差し上げます! ほ、他にもまだハチミツを塗ったパンですとか、バナナを練り込んだケーキですとか、つ、冷たいジュースもありますよ!」

「き、貴様……!! この妾をスイーツで釣ろうとは……!」


 メルティルの憤怒の形相でこちらへ戻ってくる。そしてフィオナよりも低い身長でフィオナをじっと下から睨みつけた。


「良い度胸だ小娘。妾をこんなもので懐柔しようなどと片腹痛い。その気になれば貴様を殺して簡単に奪うことも出来るのだぞ。試してやろうか」

「! フィオナッ!」


 メルティルの鋭い爪がフィオナの首筋に当てられ、クレスが動こうとしたがメルティルの視線で動きを制止させられる。だがフィオナは動じることはなく、メルティルと視線を合わせたまま答えた。


「わたしを殺してしまったら、もう二度とこのクッキーは食べられませんよ?」

「!?」

「レシピを教えてくださった方の安全のためにも、その方の情報はお教え出来ませんし、そうなるとこれを作れるのはわたしだけです。少しお話していただけるだけで、このクッキーも、他のお菓子も差し上げます! こんな辺鄙なところですから、他にスイーツを食べられる場所もないと思いますよ?」

「ぐっ!? き、貴様……!」

「ですからどうか、知っていることがあれば教えてほしいです。この魔術のことを!」

「う、ううううう……!」


 ぎりりと歯ぎしりをするメルティル。その手もわなわなと震えていた。



「…………フ、フフフ。フフフフ! どこまでも妾を挑発するか。やはり面白い女だな。いいだろう、後悔するなよ――!」



 フィオナがごくっと息を呑む。

 魔王メルティルの瞳が紅く輝き――


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