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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第二章 同棲編

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ベルッチ家

 ダメ男になりそうな朝を過ごしたクレスは、それからフィオナと共に晴天の街へ出ることになった。


「わぁ……今日もすごい賑わいですね、クレスさん! って、あ、違います! えっと、『グレイス』さん!」


 慌てて名前を呼び変えるフィオナ。

 彼女の反応と慣れない名前にクレスは苦笑した。


「そうだね。皆、昨日のこともほとんど引きずっていないみたいでよかった」


 聖都セントマリア。

 昨日、祭りの最中に起きたキングオーガの襲来によって、街の一部は大打撃を受けてしまったものの、フィオナの活躍もあり、被害は最小限に抑えられている。今は多くの人々によって修復作業が始まっており、その熱気は痛々しさを感じさせない。むしろ、自分たちが平和ボケしていたことを自覚して気を入れ直したかのようであった。


 また、祭りの二日目が中止されるなく開催された事実も大きい。

 この程度のことで魔物などには負けない、人間たちの力を示してやろうと、そんな意味も込められての行動のようだ。


 なお、祭り二日目は商人たちがメインとなり、他国からも人が押し寄せるほどショッピングで賑わう日である。このたった一日で、商人たちは一年分の収入を稼ぐとさえ言われていた。


「そういえば、今日はフィオナの出番はないのかな?」

「はい。アカデミーの式典は初日のみですから。卒業も済ませて、わたしも今日から大人の仲間入りなんです!」


 ふんす、と鼻息も荒く気合いを入れるフィオナ。彼女が年齢的に本当の大人になるにはもうしばらく掛かるが、それでも成人資格を得たことは大きな機転になったようだった。実際、彼女が嫁入りに押しかけたのもそれを待ってのことだろう。


 クレスは穏やかな表情で話す。


「そうか。それならもしよければ、用事が終わった後で少し祭りを見物していこうか? フィオナが行きたいところがあればだけれどね」

「え? いいんですかっ?」

「ああ。俺もせっかく新しい名前を貰ったし、もう以前ほど顔を隠す必要もなくなったからね。それに、これから君が使う家具や日用品も多く必要になるだろう。家事はともかく、それくらいのお祝いはさせてもらってもいいだろ?」

「クレスさん……は、はい! 嬉しいです!」


 喜んでクレスの腕を掴むフィオナ。つい『クレス』呼びに戻ってしまったことにも気付いていないようだ。


 クレスは勇者時代、たくさんの人々と出会ってきた。そんな者たちの多くは、『勇者』という肩書きのクレスに少なからず影響を受けていただろう。本心からクレスにぶつかってきた相手は、幾人かの仲間くらいのものだ。

 だから、クレスに告白してその強い想いをぶつけてくれたフィオナの存在はクレスにとって特に新鮮で、今はもう信頼出来る相手となっていた。


「――おーいフィオナちゃん! これ持っていきな!」

「――フィオナ、こいつもどうだ! あんちゃん若いからよく食うだろ!」

「――せっかくだからサービスしてあげるよぉ!」


 道中、多くの料理屋台から声が掛かり、そのたびにクレスとフィオナは肉や野菜、フルーツなど、たくさんの食べ物をいただいてしまった。祭り期間中はただでさえ安いにも関わらず、二人が貰ったものはすべて無料である。

 先日フィオナがキングオーガを退治したこともあるが、単純にそれらは“お祝い”だった。


「なんつっても新婚さんだかんな! 将来の子供のために栄養も取れよフィオナ!」

「今日は祭りだ! 遠慮すんなよあんちゃん!!」

「フィオナちゃん、旦那にイイ物食わせてやんなよ!」


「はいっ! ありがとうございます!」


 店主たちに向かって笑顔で手を振るフィオナ。

 また、そんなフィオナの存在に気付いた街の人々も次々に祝福の声をかけてくれて、祭りそのものよりもフィオナの方が人気があるくらいだった。


 だがそれもそのはず。

 昨日フィオナがした『お嫁さん宣言』は既に街中の全員に知れ渡っており、アカデミーきっての天才美少女魔術師がどこの誰とも知れぬ男の嫁になったことは都民にとって最大の関心事(ニュース)なのだ。もはや平和を祝うための祭りは、フィオナの婚約を祝福するものに変化しつつある。


 そのため、傍らに立つクレスも自然と目立つことになってしまう。一応眼鏡(グラス)などで顔を隠してはいるが、あまり意味はないかもしれない。

 目立ちすぎては正体がバレる可能性もあったが……


「グレイスさん、どうしましょう。なかなか目的地に辿り着けませんっ。でも、皆がお祝いしてくれて嬉しいですね!」


 隣で嬉しそうに微笑む彼女を見ると、そういう悩みはどこかに飛んでいってしまう。



◇◆◇◆◇◆◇



 商人たちからずいぶんと足止めを食らった二人。

 昼前にようやく辿り着いたのは、街の中心部――聖女の暮らす城の聖域にほど近い閑静な高級住宅街。主に、聖女に仕える貴族や豪商たちが多く住む土地である。先日、キングオーガの襲来があったのは街の外側であったため、幸いにもこちらには被害がない。


 そんな場所の、ある立派な屋敷の前で二人の足は止まっていた。その土地は聖都の一般的な民家が数十は優に収まるほど広大で、周囲はしっかりと柵や塀で覆われており、庭には池まで用意され、色とりどりの花が咲き誇る。まさに豪邸である。


 フィオナは勝手知ったるといった様子で平然と正門を開け、中へと入った。


「クレスさん、どうぞ」

「あ、ああ」


 促されて敷地へ入り、中庭を抜けて、そのまま屋敷の玄関扉もくぐる。


 そこでは、老齢の男女が二人待っていた。



「――おかえりフィオナ」

「――おかえりなさい、フィオナちゃん。待っていたわ」



 フィオナは二人の元へ駆けつけ、それぞれと抱擁を済ませる。



「ただいま戻りました。ご無事で何よりです、おじ様。おば様」



 にこやかに応えるフィオナ。


 アカデミーは基本的に全寮制だが、休みの日には自由に街へ出られる。フィオナは休みのたびにこの自宅へ戻り、家族での時間を過ごしたらしい。三人の持つ仲睦まじい空気は、クレスにも伝わっていた。


 ――そうか。彼女は、ずいぶん愛されて育ったのだろう。


 そう感じたクレスは、遠き日のことを思い返していた。


 まだ幼かったフィオナをこの家に任せたのは――若き日のクレスだ。

 信頼出来る筋からの紹介だったとはいえ、その判断を下したのはクレス自身である。シャーレ教会を介したことで実際にベルッチの人間との面識はなかったが、大きな責任を感じていた。そして、目の前で家族の絆を確認出来たことは、クレスにとって一つの救いでもあった。


 フィオナはすぐにクレスの元へ振り返る。


「クレ――グ、グレイスさん! こちらがわたしを育ててくれた両親です。おじ様、おば様。こちら、わたしがご紹介したいグレイスさんです」


 クレスもゆっくりと歩いて二人の元へ。

 頭を下げる。


「初めまして、『グレイス』です。フィオナさんにはお世話になっています」


 フィオナの父と母は、揃って穏やかな顔をしている。


「初めまして、グレイスさん。今日は突然の話で驚きました。さぁ、どうぞこちらへ」

「街ではいろいろと大変だったでしょう? 紅茶でも飲みながら、ゆっくりお話ししましょう」


 こうして中に通されるクレス。


 ここは、高名な魔術師として知られるベルッチの屋敷。



 ――二人は、フィオナの両親に同棲を始めるための挨拶をしに訪れたのだった。


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