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水着のお披露目

 それからはクレスとヴァーンの男二人が力仕事を引き受け、かんかん照りの中でリゾートらしくビーチパラソルやチェアの設置を済ませたり、昼食用のバーベキューセットなども支度し終える。旅慣れているだけあり、二人にとってこの程度の仕事はお手の物である。


「よし。こんなところでいいだろう。それにしても、今日はいちだんと暑いな……」


 日差しに手を向けるクレス。遮る物がない海辺は当然ながらジリジリと暑く、白い砂浜がさらに光を反射してあっという間に日に焼けてしまいそうだった。こういうときは水分補給が肝心である。


「ヴァーン。ご苦労だったな」

「おうサンキュ。お前もな」


 クレスが水筒の麦茶を差し入れると、チェアに腰掛けていたヴァーンが一気に中身を飲み干して声を上げる。


「かぁー! ここは冷やしすぎた麦酒(エール)でいきてぇところだが、まぁこれも悪くねぇ。こういうときだけはアイツもまぁまぁ役に立つな」


 二人の傍らには、保冷効果のある素材を使った大きめの革袋。その中にエステルが氷の塊を作って、そこに水筒やら必要な食材やらを入れて冷やしているのである。子供たちの好きな炭酸飲料(サイダー)や、瓜科の甘い果実『サイファ』も用意済みだ。


 今回はなかなかの大荷物となっているが、そのほとんどはこのリゾート地で借り受けたものである。ここ『ルーシア海浜』はその海の穏やかさ、近くに魔物たちの生息地もないことなどから、古くから海水浴適地の観光リゾート地として発展してきた。ほど近くには『海の家』なる飲食店、いくつかの宿泊施設なども存在する。クレスたちも、今晩はそこに泊まる予定だ。

 

 クレスたちが用意を済ませたところで、麦茶を持ったドロシーが駆け寄ってくる。


「あのあのっ! クレスさまもどうぞです!」

「ああ、ありがとうドロシー。君は遊ばなくていいのかい?」


 ドロシーからコップを受け取って尋ねるクレス。

 彼女は目をキラキラさせて答えた。


「レナちゃんといっしょにあそびたくて、待ってます! クレスさま、今日はみんなを連れてきてくれてありがとうございます!」

「そうか、思いきり楽しんでくれ。ああ、けど海はあまり深いところにいってはいけないよ。魔物がいなくても危ないからね」

「はぁい!」


 ペコリと丁寧に頭を下げてから、嬉しそうに水筒を持って笑う水着姿のドロシー。更衣室に行っているレナを待つため、彼女はその場でニコニコと座った。


 ヴァーンの隣に立つクレスは、海の方で遊びっぱなしの貴族令嬢三人組に視線を移した。クレスに気付いた三人はそれぞれに手を振ってくれて、クレスもそれに返す。


「ガキ共は楽しそうなもんだなァ」

「ああ。それにしても懐かしいな。こうしてヴァーンたちと海に来るのはいつぶりだろうか」

「あー、確か『絶海のなんたら』とかいう高位魔族ぶっ倒したのが最後だろ。いやあれは倒したことにはなんねーだろうが」

「ああ、思い出した。確か、常夏の国の近くで海が支配され交易が滞っていたんだったな」

「そーそー。んで、こっそり海に遊びに行ってたあいつらみたいなガキ共がさらわれてよ。お前がこれでもかってくらいあの魔族をボコボコにして泣かせたろ」

「ボコボコは言い過ぎだが……そうだったな。実際、あの後から海の支配が解けたらしいからよかった。きっと本当に改心してくれたんだろう」

「お前、相手がペコペコ謝ったらすぐ許しちまったからなァ……。ま、今となってはどうでもいいことだけどよ。――お、んなことよりお待ちかねのレディたちの登場だぜ!」

「ん?」


 クレスとヴァーンがそちらに視線を向ける。

 すると、『海の家』から水着に着替えた女性陣が姿を見せた。


 まずやってきたのは、エステルとリズリットだった。


「リズリットちゃんの水着、可愛らしいわね。とても似合っているわよ」

「はやややそんな! エ、エステルさんの水着の方がよくお似合いでしゅっ! 大人っぽくてかっこいいです憧れますっ!」

「そうかしら、ありがとう。素直な子には後でアイスでも作ってあげましょうね」

「ど、どどどうもです!」


 エステルの背が小さいこともあり、並んで歩いてくる二人は姉妹か学友にでも思えるほどよく馴染んでいる。


 エステルは、シックな黒のオフショルダータイプの水着を着用。トップスにフレアがついているのが特徴で、肩を出すスタイルが彼女らしく自信に満ちていた。胸元のボリュームこそ物足りないが、余計な肉付きのないスリムでしなやかな肢体は芸術品のように美しい。つばの広いハットを被っているのも、深窓の令嬢のようでよく似合っていた。もちろんサングラスも完備しており、日焼け対策も行われている。


 一方リズリットの水着は、ピンク色の花柄ワンピースタイプ。デザインこそ少々子供っぽいものだが、背伸びをしない水着選びは彼女のスタイルによく合っており、むしろこれ以上に似合うものはないというほどマッチしている。足元の花柄サンダルや、レンタル品であるアヒルの浮き輪も良きお供だ。長い髪も今日はしっかりと結ばれていて、まさに夏休みモードである。


 二人を迎えたクレスが早速声をかけた。


「うん。二人とも、よく似合っているね」

「ありがとう、クーちゃん。フィオナちゃんも、レナちゃんの着替えの手伝いを終えたらすぐに来るはずよ。そのときはちゃんと褒めてあげてね」

「あ、ありがとうございますクレスさんっ。リズ、こ、こんな可愛いの初めてで……おもいきってアルバイト代を使ってよかったです! 安くしてくれたセリーヌ先輩にもお礼を言わなきゃ……うふふっ!」


 リゾートでいつもよりテンションの上がっている様子の二人に、クレスは満足げにうんうんとうなずく。どうやら二人に声を掛けたことは迷惑ではなかったようだ。


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