ジェイドヘルム(石ガイド)
『おばぁちやん……私に、お母さんがいないのはなぜ?』
凛花は祖母に普段は口にしない質問を投げ掛けた。
彼女は父を失った喪失感と、あいまって
これから訪れるであろう苦難に立ち向かうため心の支えを欲していた。
『今は、まだ全てを知るには早すぎるんだよ……凛花』
『お前が、もう少し大人になって
大きな試練にも耐えられるようになった時話すとしょうね。』
凛花と祖母が話し込んでいる最中、何処からともなく小走りに走って来る幼い男の子の姿。
身なりからして、このスラム街の住人では無いことは確かだった。
スーツにネクタイをして革靴を履いた子供など、この貧民街には存在しないからである。
男の子は凛花を見付けると一目散に走り寄り、ここを早く離れるよう手を引いた。
突然のことに凛花は、怯えて祖母にしがみついた。
『あなたはだれ!!』
『なぜ、私を連れて行こうとするの?』
祖母は男の子の襟に光る紋章に目を止めると凛花を、男の子と共に行くよう急き立てた。
『凛花、この子と一緒にお逃げ!!』
『この子は、お前の味方だよ。』
『この子が、ここへ来たと言うことはいよいよ始まったんどね。』
凛花は何が何やらわからないままに少年に手を引かれた。
『おばぁちやんーーー!!』
『おばぁちやんも、一緒にいこうよ!』
凛花の声に首を横に振る祖母。
『わしは、もう歳じゃから足手まといになる!』
『はよう!、お行き!』
黒塗りのセダンらしき車が近くで止まりドアが開いた。
美しい気品のある貴婦人が凛花と男の子を車に乗せた。
凛花の祖母と、その気品のある貴婦人は視線を合わせて互いに頷いた。
どうやら知り合いということが、二人の仕草から分かった。
バタンと車のドア閉まり黒塗りのセダンは路地を縫うように走り去って行った。
入れ替わるように大型のヘリコブターがスラム街の上空を舞う。
ザッザッザッと多数の武装した兵士たちがスラム街を進む。
手当たり次第に人々に銃を向けて脅し次から次へと拘束して行く。
2列一組で行進させられるスラム街の人々の中、凛花の祖母の姿もそこにあった。
高速道路を走る車の窓から凛花が下に見えるスラム街を見ると祖母が手荒に兵士こずかれて拉致され拘束されて列に組み込まれていた。
『おばぁちやんーーー!!』
凛花の苦悶叫び、届かぬ声が車内に響く。
凛花は貴婦人に向かって話しかけた。
『なぜ、わたしたちは、こんなひどい目に合わなくちゃいけないの!』
貴婦人は、涙を流す凛花にハンカチを手渡して答えた。
『あなたのお父さん、おばちゃん、そして、あなたが、最も正しい事をしているからよ。』
『それが、答えよ。』
凛花のとなりに座っている男の子が口を開いて彼女に語りかけた。
『ボクは君の兄さんだよ。』
『これから、一緒に手を取って大きな闇の力と戦おう。』
ジェイドヘルム(石ガイド)の渦の中へと容赦なく投げ込まれた幼い凛花の行く末は多難に満ちていた。