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凛花、奮い立つ!

救急車で急ぎ病院へ搬送される、貧民解放運動の旗頭、油葉大地。


車内で彼に付き添う右目一つの、隻眼の男、大地の義兄弟、日下部太陽(くさかべたいよう)が頻りに大地を励まし声を掛ける。


『しっかりするんだ!!』


『気を強く持て!!』


微かな声で担架に横たわる大地が彼の手を握り涙ながらに語った。


『太陽……頼みがある。』


『俺の命に万が一のことがあったら娘の凛花のことを頼む……』


太陽はしっかりと大地の手を握り返し答えた。


『何を気弱なことを言っているんだ!!』


『お前は俺たち貧民の希望の星なんだぞ!!』


『俺と一緒に、この腐れ切った世界を引っくり返すじゃなかったのか!!』


『さっきモニターでドクターと話したんだが幸い弾は急所を外れているらしい。』


『病院も近い所にある、必ず助かる!』


その時、車内で太陽に語り掛ける病院側の若い女性的スタッフ。


『この方の保健は、どちらの方に入っておられるのか、ご存じですか?』


(いぶか)しげに太陽は彼女の方を向いて答えた。


『身なりを見ての通り、俺たちは社会の底辺の住民、貧民だ。』


『保健などに入れるわけがないじゃないか。』


『金なら、後でいくらでも工面する!』


『今はこいつの命を助けてやってくれ!』


病院側の女性スタッフはポケットからスマートフォンを取りだし何やら話し出した。


すると今まで空いていた幹線道路にありとあらゆる路地から車が出てきて、たちまち渋滞となった。


『おい!!』


『これは、どうゆうことだ!!』


視界の先に病院があるのに、救急車が渋滞に巻き込まれて身動きがとれなくなった。


病院の女性スタッフは大地の質問には答えず無言で車を降りて病院へ歩いて行く。


振り向き様に左手の親指と人差し指でリングを作り左目を囲った。


『あいつも、またプロビデンスの息がかかった奴だったのか!!』


太陽は仲間と二人で担架に乗せた大地を車の渋滞をすり抜けながら病院へ急いだ。


『しっかりするんだ、大地!!』


一方、希望の広場に取り残された凛花は、取り合えず祖母に連れられスラム街へと戻った。


その日の食べ物にも事欠く人々の集う場所。


あるものは、空き缶を広い集め、わずかな金を稼ぎ、あるものは、ゴミ捨て場や残飯捨て場などから、その日の命の糧を得ていた。


女性は幼いころから自らの体と引き換えに住まいと生活の糧を一部の富裕層から与えられていた。


幼い男の子は兵士として日々、厳しい訓練に、かり出され、やがては一部の富裕層の世界戦略の駒として戦場へと送り込まれる。


そんな中、彼らの窮状を打破し根底から社会を作り直す英雄かつリーダーが油葉大地、その人であった。


彼は新しい通貨、貧民兄弟愛紙幣を発行させた強きリーダーとして多くの困窮する人民から愛された。


現世界を牛耳る、わずかな闇の住人にとって彼は邪魔物以外の何者でもなかったのである。


凛花は父の血痕が染まった希望の旗を抱き父の安否を思い祖母とともに眠れぬ夜を過ごした。


翌朝、スラム街の小屋から出た凛花と祖母の頭上に風に運ばれてきた一枚の新聞紙。


その新聞紙のトップには、こう書かれていた。


『貧民解放運動の旗頭、油葉大地氏、凶弾に死す!』


新聞紙を眺め、崩れ落ちる祖母の姿に幼い凛花は、全てを悟った。


流れ落ちる涙を、ぬぐいもせずキッと都市の中央に聳える高いプロビデンスタワー睨む。


凛花の右手には固く希望の旗が握られていた。

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