立志の時、来たり。
凛花は息絶え絶えとなつた父、大地の頭を膝の上に乗せて大粒の涙を落とした。
『どうして…………』
『どうして、お父さんが、こんな目に会わなくっちゃいけないのーーー!!』
わーーーっと大きな声で壇上で泣き出す凛花。
数名の救急班らしき物たちが、慌ただしく大地を担架に乗せて運び出す。
凛花は祖母の胸に抱かれて、その様子を涙ながらに見ていた。
『おばぁちやん……お父さんは、なぜあんなひどい目にあったの?』
老婆は孫娘の凛花の頭を優しく撫でながら語りかけた。
『お前の父さんを、よく思わない人がいて、こんな仕打ちをしたんだよ。』
『さぁ……わたしと、一緒においで。』
老婆は凛花の手を取り、壇上から降りて凶弾を放った男が警察に連れて行かれる所を見させた。
『男は不敵な笑いを浮かべて左手の親指と人差し指でリングを作り左目を囲った。』
老婆は凛花に、その男の仕草を目に焼き付けるように促した。
『よく、見ておくんだよ。』
『お前が、これから対峙しなくてはならない敵の正体があれだよ。』
『プロビデンスの目』
凛花は祖母の言葉を深く胸に刻み込んだ。
『お父さんを、こんな目に会わせたプロビデンスの目!』
『わたしが、必ずお父さんの仇を取る!』
『絶対に!!』
『そして、お父さんの旗をわたしが守って行く!』
長く険しい戦いの火蓋は切って落とされた。
後に地より沸き起こりし女神とも、救世の乙女とも、呼ばれし油葉凛花の立志の時となった。