学園に入学する前②
今、ルシゼエルはセントラル学園に向かうため、荷物が積み込まれた馬車の中にいた。
セントラル学園には馬車で3日くらいかかる予定となっており、セントラル学園に向かう一行は馬車が5台と護衛として10人の騎馬隊がいる。護衛がついたのは魔王ルキフグの3女がいて、セントラル学園に今年入学するためだった。もちろん、アリカとイリカも魔王ルキフグの3女と同じ馬車に乗っている。アリカとイリカは魔王ルキフグの3女の護衛ということだった。なのでセントラル学園に一緒に行くルシゼエルの実力を知りたいこともあり、部屋のドアを壊して見に来たらしい。
ルシゼエルが乗っている馬車は荷物を運ぶ馬車になる。人が乗るために作られた馬車ではないので作りが悪く、椅子がなく、とてもよく揺れる。ルシゼエルがそんな馬車に乗っているのは、滅んだ辺境の村の生き残りだと身分を偽っているためだった。
ルシゼエルは荷物を運ぶ馬車に乗っているが、天界にいるときに戦争の訓練なども受け、もっと粗悪な馬車にずっと乗っていたことあるのでそのときに比べればまだいいものだ、と思った。
ルシゼエルは馬車に乗り、時間をつぶすために本を読んでいる。ただ、本を読んでいるのは、今だけではなかった。魔王ルキフグ城にいるときは、知り合いがいるわけではないし、新参者には居場所を見つけずらかったので、本当に必要なこと以外で部屋から外に出なかった。なので、ルシゼエルはルキフグと会い出発までの1ヶ月の間はあまり部屋から出ず、ずっと歴史や地理、魔法についてなどの魔界の本読んでいたのだった。
それにより、魔界について色々知ることができた。天界と魔界で、同じ出来事について書いてあるはずなのに、内容が違うように書かれているものも多かったし、天界と魔界で違う言い伝えがあるところについては気をつけないといけない、と思った。うっかり天界で言われている内容で話してしまうと、天界にいたことをバレるきっかけを作ってしまうからだ。
ちなみに、羽根を黒くさせることもできるようにする、ということは優先順位の高い問題なので、そのことも調べた。
そのことはルシゼエルは知らないことだったからだ。
当然、天界では『羽根は《白》であるべきだ』という考え方があり、ルシゼエルが天界にいるときに羽根を《黒》にするなんていうことは考えもしなかったし、方法なんて考えたこともなかった。仮に天界で黒い羽根で存在した場合には犯罪者扱いになり、死刑や魔界に墜とされたりされることになるのだろう。
まあ、今の俺はその状態なんだけど、と自嘲気味に思いながら羽根を黒くする方法をルシゼエルは調べた。
そうして、魔界の本で調べたところ記述があった。どうやら、堕天した天使が魔界にいて子供を作ったときに白い羽根で生まれることがあり、羽根を黒く矯正させる必要があるので方法を研究されたらしい。
結論からすると、使う魔法によって羽根が白か黒か変わる、と本に書かれていた。
魔法は、羽根なしの天使や悪魔、人間が訓練すれば使える共通魔法があり、基本的に五代元素を操る魔法になってくる。それに加えて、羽根持ちの者は魔法を強化するために、光や闇の属性を混ぜて使うことができる。光属性の魔法を使うときには羽根は白、闇属性の魔法を使うときには羽根は黒、といった具合に変わるらしい。
現在、ルシゼエルはまだ闇属性の魔法を使えないので、しばらくは共通魔法のみの使用になるな、と思った。
本当は本で調べわかったから、当然、すぐに闇属性の魔法の練習をしたかったが、いろんな理由で部屋から出ずらく練習をできなかったのが悔やまれる。
じゃあ、部屋から外に出れないから部屋の中で魔法の練習、というわけにはいかない。使ったことのない闇属性の魔法を使い事故を起こしてしまった場合、爆発等が起き、部屋の壁などを壊してしまう可能性があるからだ。
そんな中、部屋から出て、魔王ルキフグ城内をウロウロしたことがあった。
それは、カミアンにもらった青い色の剣 《トライデント》について話を聞くためだった。タイミングは、ルシゼエルはルキフグと食事を食べて、部屋にいきなりアリカとイリカが来て変なことがあった次の朝になる。
だが、そのときはすでに遅く、緊急の要件があり、どこかに行ってしまったあとだった。
まあ、急いで《トライデント》の話を聞かなければいけない、というわけではない。学園が長期休みになったときにルキフグ城に行き、《トライデント》について話を聞けばいい、とルシゼエルは思った。
そんな風にルシゼエルが馬車に揺られながら、セントラル学園に向かい、半日がたったころになる。
急に馬車が止まったのだった。
しばらくして、ルシゼエルがいる馬車の荷物があるところのドアが開き、業者が、
「早く出ろ! この一行はいきなり正体不明のグループに襲われている。
お前は戦闘要員とは聞いてないから、早く安全なところに逃げろ!」
と、必死な表情で、叫ぶように言い、どっかに行ってしまったのだった。
ルシゼエルはこの場所には重要な荷物も乗っているにもかかわらず、馬車を置いて業者がどっかに逃げて行ってしまったのでどうしたものか、と思いながらゆっくりと降りる。
すると、馬車は小高い丘に挟まれている道に止まって、小高い丘の双方にいる敵のグループが上から打ちおろすように魔法や弓矢などの攻撃を仕掛けてきている。
それに対して、学園に向かう一行は、護衛するも者が魔法で防御壁を作り、敵グループの魔法や弓矢などの長距離攻撃を防いでいる。
こうなってしまったのは、おそらく、小高い丘に潜んでいた敵のグループに不意打ちを馬車は受けたのだろう、とルシゼエルは思った。
状況からして、学園に向かう一行は、地形的に不利。
その上、馬車側の方は人数が少ないこともあり、馬車側の戦況は良くない。100人対10人ぐらいの戦力差がある。
やられるのは時間の問題、というのは客観的に明らかだった。
ルシゼエルとしては、学園に向かう一行がやられてしまうと困る。できれば無傷で学園までたどり着きたい。
だが、目立つような行動をして、自分の強さを見せることはできない。
なので、学園に向かう一行で戦っている者を、さりげなく魔法で助けることにしたのだった。