魔王ルキフグ城侵入③
ルシゼエルがセバミンに案内された場所は、さほど広くない部屋だった。
中には、茶髪でオールバックの男が座って、落ち着いた雰囲気がある。黒い服を着ており、身長は普通より高く、体型は大柄ではない。だが、鍛えるべきところには鍛えておりちゃんと筋肉がついていて、引き締まっている。顔は引き締まっていて、様々な苦難を乗り越えてきているという印象を受けた。
おそらく座っている男がルキフグなのだろう、とルシゼエルは思った。
9大魔王の一人。魔界を代表する魔王なのだと思うと自然と緊張した。
なので、失礼がないよう部屋に入る前に一礼し、部屋に入ったあと、ルシゼエルと自分の名前を告げた。
一方、座っている男は、和やかな表情で、
「私が魔王ルキフグ家現当主、ゴウエン=ルキフグだ。
緊張しなくていい。
私の前の席に座りたまえ。
君のことはサタン様から聞いている。
魔界での生活は私に頼ってくれたまえ」
「はい。よろしくお願いします」
そう言いながら、軽く会釈をし、勧められた椅子のところに行き座るルシゼエル。
その間、ルキフグはルシゼエルの動きを軽く見ながら何か考えごとをしているようだった。
セバミンは飲み物を持ってきて紅茶が入ったカップを置いていく。
なので、ルシゼエルはお礼を伝えるために軽くお辞儀をする。
ルキフグはルシゼエルにどうぞ、と紅茶を勧めながら、
「城内のことは聞いている。
想像していた以上に行動が活発のようだね」
「あっ、いえ、ご迷惑をかけてしまってすみません」
「いや、いいんだ。
万が一のときのためのいい訓練になった。
それに《トライデント》を持ってるということは、カミアン将軍に認められたんだな」
「トライデントとはこの剣のことですか?」
と、言いながら深海の海のように青色の剣を鞘に入れたままテーブルの上にあげるルシゼエル。
もちろん、ルシゼエルはトライデントという言葉を初めて聞くが、カミアン将軍という名前は、さっき城内で争った相手なので覚えている。そこから、考えられるのは深海のように青色の剣だった。
ルキフグは剣を見て頷き、
「そうだ。その剣は大昔から受け継がれてきている剣で、重要な鍵の役割を果たすものらしい。
「重要な鍵の役割ですか。
そんな大事な剣を俺がいただいてしまってよかったのでしょうか?」
「譲る譲らないはカミアン将軍が決めることだ。
カミアン将軍が君に譲るって決めて託したんだ。
大事に使いたまえ」
「わかりました。
けど、それほど重要なものだったとは……。
今度会ったときに剣について話をするっておっしゃっていたのですが、何かご存知なのですか?」
「詳しい話は知らないから、カミアン将軍にちゃんと聞きたまえ。
ただ、聞いている話だと、カミアン将軍は先の大戦の出兵前に受け継いだって言ってたな。
カミアン将軍は先の大戦のときに一番の戦果をあげた方でね。
そして、持っているトライデントが青いので、《蒼海の英雄》と呼ばれるようになった方だ。
最近は歳をとって力が衰えてきたから、剣を譲る後継者をずっと探していてね。
けれども、後継者がなかなか見つからなかったんだ。
そんなときに、ようやく見つかって君に託したんだ。
大事に使いたまえ」
「はい」
しっかりと力強く返事をして、再び左腰にさすルシゼエル。
ルキフグは紅茶を一口飲み、
「さて、ここからが本題だ。
まずは君の羽根を見せて欲しい」
「……えっ、ええ…………」
どうして羽根の話になるのか不思議に思いながら頷くルシゼエル。
そして、椅子から立ち、羽根を出すと、純白の羽根が6枚出てくる。
あまりの素晴らしさに、はじで控えていたセバミンは、おお、と感嘆の声をあげる。セバミンは魔王の執事として様々な要人の羽根を見たことがある。その中でもルシゼエルの羽根は1番に素晴らしく、6枚もある。
羽根の枚数は基本的に《魂》の強さに比例し、魔法の量や使える魔法の力に比例していく。
一方、ルキフグは険しい表情をしており、
「やはり、サタン様から聞いていた通りか」
「どういうことですか?」
いつも通り普通に羽根を出したにもかかわらず、ルキフグからマイナスの雰囲気の声が出てきたので理由を訊くルシゼエル。
そもそもルシゼエルは生まれたときから羽根は6枚あったのだ。そんな当たり前のことにいちゃもんをつけられても困る。
ルキフグは紅茶をゆっくりと一口飲んでから、
「魔界で白い羽根は好まれない。
だから、その羽根を黒くできるようにまでは出してはいけない」
「えっ、それでは力が相当制限させられてしまうので困ります。
確か、白い羽根の魔王が何人もいた、と天界の本で読んだ覚えがあります。
なので、好まれない、ということに違和感を感じるのですが」
「確かに白い羽根の魔王は何人も出てきたことはある。
だが、どの魔王も出自がはっきりとしており、羽根を黒く変化させることもできた。
今の君では黒く変化することはできないだろう?」
「そうですが……」
「なので、黒くすることができるようになるまでは羽根を出すのを禁止する。
これは、サタン様の言葉だ。ちゃんと守るように」
「わかりました。
羽根を黒くできるようなるまでは出さないようにします」
仕方がなく了解するルシゼエル。
サタンの命令とあっては従わざるおえない、とルシゼエルは思った。
ルキフグは、うん、と軽く頷き、
「羽根は、表目的、基本的に使う魔法によって変わってくる。
まだ君は天界の魔法しか使えないのだろう。
魔界の魔法を使えるように訓練しなさい。
それで、セントラル学園に行ってもらうことになる」
「学校にですか?」
「あれだけの実力のある君が今更学校に行く、とういうのは納得がいかないと思う。
だが、これもサタン様からの命令だ。仕方がないが行ってもらう。
ただ、学校に行ってもらう理由は、魔界の魔法を学ぶという他にも理由がある。
それは、セントラル学園に禁術魔法の使い方が保存されているのだ。
それを使えるようになってきて欲しい」
「禁術魔法……。でも、それって、9大魔王であれば圧力をかけたりして知ることができないのですか?」
「できない。
禁術魔法は昔、9大魔王同士で争ったときに開発されたものになる。
なので、使えば魔界を滅ぼすことのできるほどの力があると言われ、禁術指定をされたのだ。
確かに、禁術魔法は物凄く危険なものだから、禁術魔法の伝承をやめさせよう、という話はあった。
だが、この世から消滅させてしまうのはもったいので、ごく一部の者のみに学問としての継承のみできるようにした。
それで、学問として極秘に継承をしているのがセントラル学園にいる誰かなのだ」
「誰かって、わからないのですか?」
「わからない。
誰が知っているかから、調査して欲しい」
「わかりました。
なんとか禁術魔法を継承している者を見つけて使えるようになってきます」
「よろしく頼む」
そのあと、セバミンは一度ドアから外に出てすぐに戻ってくると料理が運ばれてきたのだった。
そして、ルシゼエルはルキフグと和やかに食事をとったのだった。
料理の見た目はとても豪華だったが、天界の味付けとは違ったり、天界で食べないようなものまで料理にされてたのであまり美味しいとは思えなかったのだった。