後片付け⑩
「い、いったい……?」
困惑気味にゼエルへ質問を投げかけるスズ。
現状がまったく理解できていない。サタンが言っているのはすべて断片的。内容を確かめたいことがたくさんあるにも関わらず、サタンは消えてしまった。
(ゼエルはちゃんとサタン様が言ったことを理解しているの……?)
ゼエルは不安そうな表情をしていないが、どこまで理解しているのかわからない。それに、ゼエルがサタンに対して確認をとったりしていない以上、間違って理解している可能性だってある。
自分の大事な友人であり、部下の命がかかっているような重大な話。普通ならお互い行き違いがないように、確認を取り合うのが当然だ。
「どうやらサタンの命令により、俺の仕事に変わったらしい……。
まずはイリカがいるという砦がどういう場所なのか確認をしなければな。このまま現地に向かってしまったほうがいいだろう」
サタンがいた場所にゆっくりと歩きながら言うゼエル。
慌てている様子はない。むしろ落ち着いている。
(やはり、こういった難しい状況の対応に慣れているらしい)
スズはルキフグ城で9大魔王の娘として各国の将軍や宰相などの要人と顔を合わせてきている。そして、自国の兵士が軍事作戦を行っている場所にも行ったことも何度もある。今のゼエルからはそういった緊張感のある場所で見せる将軍たち以上の雰囲気を感じる。それに、魔界の神であるサタンから直接仕事を依頼されるほどの人物。それなりの実績があり、実力があるに違いない。
(だが、私はゼエルの実績など知らない。この場でちゃんとゼエルに確かめるべきだ)
スズはゼエルに走って近づき、ゼエルの肩を引っ張って必死に目線で訴えかけ、
「ゼエル、ちゃんと教えて。
なぜサタン様から仕事を直接依頼されるような人物なの?
それに今回サタン様から依頼された仕事がどのようなものだかちゃんと把握しているの?」
「…………」
ゼエルはうっとおしそうに、スズの手を払いのけてサタンがいた場所にあった紙を拾って、真剣に読みだす。
スズはゼエルがちゃんと答えないからおもしろくない。ゼエルに払われた手を再度ゼエルの肩にのせて引っ張り、自分のほうを見るようにさせながら、
「ゼエル、ちゃんと私の質問に答えなさい!」
と、言う。
すると、スズが引っ張っる力が強かったらしい。ゼエルが読んでいたサタンからの手紙が一枚落ちる。
「――んっ……?」
スズはゼエルが拾おうとする前にすかさず拾おうとする。
ゼエルが何も話そうとしないから、持っている手紙から何か情報を得ようとしたのだった。
そして、ゼエルよりも先になんとか拾ったスズは絶句する。
「――ここって、砦っていうよりも……、要塞じゃない……」