後片付け⑨
「それじゃあ、ルシゼエル、さっそく仕事をしてもらう」
相変わらず軽い口調で言うサタン。
だが、イリカを救出するための仕事になるだろうから、達成が難しい内容なのだろう。
「あ、あのう、先ほどから出てきている名前『ルシゼエル』とはいったい……?」
サタンがゼエルのほうを向いて話しかけたあとに、一呼吸時間をあけたので、おそるおそるサタンに訊くスズ。
自分の命と大事な部下の命がかかっている話し合い。
内容についてわからない部分あれば当然に知りたくなる。
さらに、人物の名前となれば、特にだ。
スズの認識では、今この場には、自分、サタン、ゼエルしかいない。
普通に考えて、サタンが言っているルシゼエルとは、ゼエルのことだろうと推測できる。
だが、ルシゼエルという名前を、ゼエルから聞いたことはない。となると、ゼエルは二つの名前を使っていることになる。いったいどんな意味があるのだろうか?
それに、気になるのは、ルシゼエルと言う名前は、天界からの留学生の幼なじみの相手と言っていた名前。確か、死んでしまったと聞いているが……、関係があるのだろうか?
などと、スズは考えていると、
「今は、俺とルシゼエル話しているんだ。余計な口を挟むな!
スズ、お前はまだ自分の立場がわかっていないようだな。
もしこの場で俺の機嫌を損ねるようなことをしたら、お前が助けたいイリカを助けることができなるかもしれないんだぜ」
と、厳しい口調で言うサタン。
「おいおい、スズの気持ちもわかってやれ。
命がかかっているんだ。
サタンが話す内容がどういうものか気になって当然だろう」
スズの気持ちを考えて言うゼエル。
スズは、ゼエルのフォローに感謝しながらも、どうしてそんな話し方をサタンにできるのか疑問がますます深まるばかりだ。
「あー、たく、めんどくせーな。
仕方がねー、スズが気にならないように話をしてやる」
いや、そういうことを意図して言っているわけではないんだが、とゼエルは思いながら、さっさと早くこの場を終わらせて、仕事を始めてしまったほうが早いか、と思い、
「ああ、そうしてくれ、」
と言うゼエル。
「……え、ええぇっ、」
命がかかっている自分とは関係なく話が進んでいこうとしているのに、戸惑いの声をあげるスズ。
だが、サタンはスズのそんな様子を無視して話を始める。
「ルシゼエル、今回の仕事は簡単。とある砦を陥落させて、占領して欲しい。方法とかはすべて任せる」
「わかった」
「ああ、そうそう、その姿だと、なにかと都合が悪いだろう。天使のときの姿に戻ることもできるが、どうする?」
「どうするって、サタンは俺の天使のときの姿で行動して欲しいと思っているんだろう?」
「まあ、そうだ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「方法は簡単だ。魔界に来た時にルシゼエルに渡した剣へ光魔法をそそぎこめろ。そうすれば、天使の姿に戻れるはずだ」
「わかった」
と、ゼエルが言うか言わないかのタイミングでサタンはどこかに消えていた。




