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後片付け③

「ゼエル、それじゃあ、打ち合わせ通り、今日から私の部屋に住みなさい」


 学園に戻り、生徒会長たちとわかれ、ゼエルとスズの二人きりになったときに、スズが自分の寮に向かいながら言ったのだった。

 スズの表情は、ややこわばっている。いつも一緒にいるアリカとイリカがいないから不安になっているのだろう。

 スズのそんな気持ちはすぐにわかるほど、表情に表れてしたが、ゼエルとしては、スズに気を使う必要はない。

 スズが打ち合わせ通りと言ったが、ゼエルはスズからミーイヤがいたときに『私の部屋で一緒に生活して欲しい』と相談を受けた。が、あのときちゃんと断っていた。スズと一緒に生活するなんて、めんどくさすぎると思ったからだ。

 にもかかわらず、スズは『打ち合わせ通り、今日から私の部屋に住みなさい』なんて意味不明なことを言ってきた。スズは正体不明の敵から襲われてそんなに混乱しているのか? と思ったが、気にする必要なんてない。


(そもそも、俺がスズの面倒を見ているのは、魔界の権力者である9大魔王の一人であるルキフグから力を借りるためである。

 だから、スズが命の危険にさらされたときに、義理として助けてやる必要性を感じたとしても、寝食を共にしてまでめんどうを見てやる必要なんてない)


 ゼエルはそう結論づけ、「いや、あのときも話したが、俺はスズの部屋に住まない」と言う。


「――え、ええっ……」

「当然だ。俺がスズの部屋に住む必要はない」

「――え、ええっ……」

「なぜそんなに俺を非難するような表情をする?」

「だって、私の彼氏じゃない? 彼氏だったら、一緒に生活して当然でしょ?」

「いや、彼氏って、偽の彼氏だろ?」

「偽って……、なんのことを言っているの? 私の本当の彼氏じゃない?」

「いろんなことがありすぎて、スズがとっても混乱しているのはよく分かった。

 だから、自分の部屋で一人でゆっくりとしたほうがいい」

「あっ、なるほど。ゼエルは私の部屋で生活するのが問題なのね?

 私がゼエルの部屋で生活してあげる。

 それだったら問題がないんでしょ?」

「問題ある。問題ありありだ」

「――んっ?」顎に人差し指をそえ、首をかしげるスズ。

「なぜわからない。俺の寮の部屋は男子寮だ。女がいるのはおおかしいだろ?」

「けれども、メイドは女の子で、ゼエルの部屋に住まわせているのでしょう?」

「そ、それはだな……」(お前の父親が勝手に送り付けてきたんだろ! しかも、あんななんだかわからない使えないメイドを)とゼエルは思いながら、「あのメイドには個室がある。だから女でも問題ない」と苦し紛れに(つっこみどころ満載な言い訳だな)と思いながらスズに言うゼエル。

 スズは、ゼエルの腕をつかみ、

「なら、私にも個室があれば問題ありませんね」

「個室って……、俺の部屋には、スズ用の個室の用意はない」きっぱりと言うゼエル。

「いや、あるではないですか?」

「はい? なにを言っている?」スズがなぜか自分のほうが正しいと強気に言うので、ゼエルは自分のほうが間違っているのでは? なんてちょっと混乱したが、気をちゃんと持ち直し、言うゼエル。

「私の部屋は、ゼエルの部屋に決まっているじゃないですか?」

「……へっ?」

「私の部屋は、ゼエルの部屋に決まっているじゃないですか?」

「いや、二度言わなくたって聞こえている」

「私の部屋は、ゼエルの部屋に決まっているじゃないですか?」

「三度言う必要はない。

 とりあえず、俺は、スズの彼氏でなければ、俺の部屋にスズの部屋はない」

「――えっ……」

「そんな、衝撃な事実を知ったかのような表情をするなっ」


 スズを突き放すように言い、腕を払うゼエル。

 スズは『むっ』とした表情になり、


「では、命令をします。私の部屋で生活しなさい」

「嫌だ」

「嫌だって、ゼエル、あなたは誰に言ってるの? 

 私は9大魔王ルキフグの娘。ゼエルにどんな事情があって、なにかを隠しているのはわかるけれども、今の段階の身分の上下関係はどうなっているの?」


 過去の流れから、ゼエルはスズよりも身分がしたとして行動してきたところから、それを利用することにしたスズ。

 一方、ゼエルは身分の上下関係なんて、やっかいな話を持ち出してきたな、と思った。

 本来であれば、ゼエルの立場は、スズの命令に従う必要はない。

 なので、スズの話に対する回答は、『対等』もしくは『身分の上下関係はない』になる。

 だが、それらの話はあくまでも本来の話なのだ。

 ゼエルは本来の話は秘密にし、隠してある。だから、本来の話はできない。

 そうなってくると、スズに対する回答は……、スズの部屋に住むしかない、といった流れになってしまうのだろうか……。

 いや、別の道があるはずだ。

 スズはおそらくアリカとイリカが学園からいなくなって一人でいるのが嫌なのだろう。おそらくそのはずだ。

 だったら話は早い。部屋で一人にならない状況を作ってやればいいのだ。


「スズ、俺がスズの部屋で生活することはできないが、代わりに俺のメイドをスズの部屋で生活するように言っておこう」

「あれっ、言ってなかったっけ? そのメイドはすでに私の部屋で生活することになっているって」

「――えっ……」驚くゼエル

「だ・か・ら、ゼエルのとこのメイドは、すでに私の部屋で生活することになってるの」

「おお、それはよかった。じゃあ、俺がスズの部屋に住まなくてもいいなっ」

「ダメよ。ゼエルは私の部屋で生活しなきゃ!」

「なぜだ? 別に俺じゃなくたっていいだろっ」

「なぜって……」


 ゼエルの質問に対してなんて回答するか考えるスズ。

 たしかにゼエルの言う通りなのだ。別にゼエルを自分の部屋に住まわせる必要はない。

 だから、ゼエルにこだわる必要はないのだ……。

 けれども、なぜか自然とゼエルにこだわってしまっているのだろうか……。

 それは、つきあっている関係の遊びをしていて徐々に心が動いていき本当にゼエルを意識するようになってしまったから? それとも、さっき正体不明の敵に暗殺されそうになったときにゼエルに助けてもらったから意識するようになってしまったというの?


(って、考えたって仕方がない。私の気持ちのままにするだけ……。

 だから、絶対にゼエルを私の部屋に住まわせるようにしてやる)


 強く意気込むスズ。

 そして、さらにゼエルを説得させようとして、どうやってゼエルを攻略しようか頭を回転させ考え出したとき、


「スズ様。イリカの件で、報告したいことがあります」


 と、声が聞こえてきたのだった。


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