後片付け①
土魔法によってできた洞窟からゼエルとスズは、馬車が破壊された場所に戻った。
理由は、アリカとイリカの様子を確認するためだった。
だが、戻るとアリカの姿はあったものの、イリカはいない、ということにスズはすぐに気が付いた。スズは戻る間中ずっと、アリカとイリカのことを心配ていたのだ。
「えっ、イリカはどこに?」
9大魔王ルキフグのエンブレムが入った制服を着ているものに訊く。スズを護衛するために、スズ、アリカ、イリカたちには秘密に隠れていた者たちだった。だが、今回の異常事態が起きたこともあり、表に出てきたのだった。
スズのそばにいて、質問された者は、イリカが倒れていたであろう場所を見て、
「イリカですか……、イリカは、自分の力で自分自身を守れず、敵にさらわれました」
と、冷たい声で言う。
スズはこぶしを握り、歯を歯切りするように噛みしめ、
「イリカは、イリカは、水魔法によって魔力を奪われ、気を失っていたはずです。
そんな状況では、自分で自身の身を守れるわけないでしょう?」
「ですが、ここはすでに戦地です。
自分の身くらい自分で守らなければ。
ましてや、イリカは、自分の身を犠牲にしたとしてもスズ様を守らなければいけない護衛です。
今回、敵にさらわれたということは、力が足りなかったと言えるのでしょう」
「――くっ……」
悔しそうな声をあげるスズ。
今そばにいる隠れてスズを護衛してきたこの者に、この場で言い合いをし続けても意味がなく、さらわれてしまった事実が変わらない以上、早くイリカを助ける方法を考えなければいけないのだ。
なので、イリカを救出する作戦も含めて考えられる者。この場では、護衛をまとめている長官を連れてくるようにスズは言うと、スズが知っている者が来た。
その者の名前はミーイヤ。身長はそんなに高くなく、上品そうな顔だちを少女になる。スズの正規の護衛であるアリカとイリカが失態をおかしたので、どこかうれしそうな表情をしている。
スズはアリカとイリカの失態に対して、喜ぶような者と話をするのは嫌だな、と思ったものの、ミーイヤと話をしなければ、話が進まないから、今は仕方がないと思った。
そして、ミーイヤはスズの前に来てから、王族に対する丁寧なあいさつをスズに行ってから、話し始めた。
「お久しぶりです、スズ様」
「ええ、お久しぶりですね」
「イリカを助けたい、という話をさっき来た者から聞きましたが、はっきり言って無理です」
「それはなぜ?」
「まず第一に、イリカがどこにさらわれたかわかりません。
第二に、一連の敵が使う魔法力から一筋縄ではいかない相手だということがわかります。
そうなると、本拠地の守りはそうとうなもので、イリカを救出にいけば、誰かしら犠牲がでることになるでしょう。
イリカは、スズ様を守る使い捨ての護衛。使い捨ての駒のために、誰かへ死ねなんて命令することはできません」
「――なっ……!」
絶句する、スズ。
確かに、ミーイヤの言っていることは論理的かもしれないが、イリカはスズにとってとても大事な存在であり、ミーイヤも知っている。なのに、『使い捨ての駒』なんて表現するなんて許せない。
だが、ミーイヤはスズの感情をさらに逆なでするようなことを、ようやく意識が戻ってきたアリカに向かって言う。
「あら、ようやく目を覚ましたのね。片翼のアリカちゃん。
双子のイリカちゃんはさらわれてしまったわ。
やっぱり片翼では、スズ様の護衛なんて無理だったのよ。
あなた方のように、不完全な者たちが、スズ様の護衛という大事な任務に選ばれたのはおかしいと思っていたのよ。
そして、その予感は、的中。こうして、スズ様を危険にさらしてしまって」
(アリカとイリカを『不完全な者たち』なんて言うなんて……)
スズはミーイヤの発言に対して、怒りを覚える。
が、ミーイヤがアリカに向けて言った内容。スズが間に入ってアリカをかばっても解決しないと思い、口をはさまない。
そして、アリカは口惜しそうに、
「――う、うぅ……」
と、うつむき歯切りする。
ミーイヤの言っていることはもっともなのだ、という自覚はアリカにもある。
護衛の任務は結果がすべて。スズを危険な目に合わせてしまったのは、学園に来るときを含めれば今回で二回目。今回の件は、どうやってスズが助かったかまだ知らないが、アリカとイリカの二人でスズを守ることはできなかった。
護衛失格と言っていいだろう。
ミーイヤの言ったことに反論したいこともあるが、スズをちゃんと守ることができなかったということを考えると何も言い返す気持ちになれない。
一方、ミーイヤは、アリカが言い返してこないことをいいことに、口元を『ニヤリ』とさせ、
「ねー、ねー、アリカぁー、学園でのスズを護衛する任務にアリカとイリカが選ばれたときに、ものすごくうれしそうに私に自慢してきたけれども……。
実際には、任務を果たせなかった今、どんな気分?
自慢してきたときみたいな、笑顔をまた見せなさいよ」
と、アリカに近づきながら言う。
アリカは、ミーイヤから散々なことを言われ続け、さすがに頭にきたのか、ミーイヤを『ギリッ』っとにらみつけ、
「あんた、言わせてお――」
と、言い出したとき、スズが口を挟み、冷たい声で言う。
「アリカ。あなたは、城に戻りなさい。
今日をもって、私の護衛を解任させます」
「な、何を言っているんだ、スズ?」
「アリカ、あなたはイリカがいなければ、力を発揮できないでしょう。
だから、護衛を解任させるの。わかりましたか?」
「――くっ、」
「あーあ、アリカ、かわいそぉ。
けど、仕方がないよね、ちゃんと任務を果たせなかったんだし、片翼の未熟者だし」
「ミーイヤもアリカに対する発言はそこまでにしなさい。今後の私の護衛は今まで通り行いなさい。
それと、生徒会長のいる湖に行く順路を考えて私に早急に伝えなさい。ゼエルと二人で向かいます」
と、スズは言って、ミーイヤを引き連れ、地図を確認しだしたのだった。




