入学式⑦
ルシゼエルとイリカ、ユミ、チサは生徒会室に来ていた。
生徒会室に入るとリビングのような部屋があり、ドアもいくつもあった。応接用の部屋なのだろうか。
ノックをして、生徒会室に入る。入る順番は、イリカ、ユミ、チサ、ルシゼエルだった。
生徒会室には、生徒会長と生徒会副会長がいて、椅子に座り、紅茶を飲み、お菓子を食べていて、イリカたちを見て、首をかしげ、
「昨日の歓迎会は楽しかったですね。イリカ。
それで、どうかされましたか? 怪しい男を連れているようですけれども」
「昨日はありがとうございました。
学園内でユミを襲おうとしたものになります。
なので捕獲いたしました」
と、緊張した面持ちで言うイリカ。
学園内で絶大な権力を持っている生徒会に目をつけられたくない、ということだろう。セントラル学園は魔界にある大国に匹敵するほどの力があると言われている。生徒会は、セントラル学園で代表的で権力を持っている組織の1つになり、様々な委員会の取りまとめをしている。委員会には、学園内部で起きた紛争などを処理する警察委員会などがある。ちなみに、警察委員会とは違って外部の的に対応するのは軍事部になり、生徒会の管轄外となっている。
生徒会長のマリエッタは落ち着いて、椅子から立ち上がり、ユミに近づき、
「怪我とかはありませんでしたか?」
「大丈夫です。
イリカが怪しい男からの攻撃を防ぎ、拘束してくれましたから」
「そう、それなら良かったわ」
と、怪しい男に近づいてきて観察し、
「この男ですか……?」
「そうです」
「それにしてもよくできた拘束魔法ですね」
「魔王ルキフグ城で訓練を受けてきましたから」
「それはとても頼もしいわね」
「ありがとうございます」
「ここに連れてきてくれたってことは、生徒会でこの怪しい男を処理してしまっていいかしら?」
イリカは生徒会長のマリエッタからそうたずねられたので、ユミを見る。事前にユミからは生徒会に怪しい男を引き渡すとイリカは聞いていたが念のために確認のためだった。
ユミは、イリカが見た意味に気がつき、頷く。
そして、イリカは生徒会長のマリエッタを見て、
「警察委員会に引き渡して大丈夫です」
「わかりました。副会長、この怪しい男を警察委員会に引き渡してくれますか?」
「わかりました」
と、生徒会副会長はそう言って、ユミに近づく。
「私は生徒会副会長のシズミミと言います。
初めまして、ユミさん。
シズって呼んでくださいね」
「今後もよろしくお願いします」
と、会釈をしながら言うユミ。
シズは髪が黒くて長く、おしとやかな印象がある。
生徒会副会長のシズはイリカを見て、
「私がこれからこの怪しい男に拘束魔法をかけたあと、イリカの拘束魔法をといてくれますか?
警察委員会に引き渡して拘束しておくのに、イリカの拘束魔法が解けなかったら大変ですので」
「はい、わかりました」
イリカは生徒会副会長のシズが拘束魔法をかけたあと、自分がかけた拘束魔法を解く。
それと同時にルシゼエルはイリカの拘束魔法を強化させるために使った魔法を解除する。イリカの拘束魔法だけでは怪しい男に解かれてしまい、再度かけようとしても通じなかったから、ルシゼエルが気づかれないように魔法を使い強化をしていたのだった。
生徒会副会長のシズは拘束魔法が解けたのを見て、
「ありがとう。それでは、行ってきますわ」
「よろしくお願いします」
イリカはそう言って、ルシゼエルたちは生徒会副会長のシズが生徒会室から出て行くのを見送る。
ユミは自分の命を狙ってきた怪しい男が自分の近くにいて緊張していたが、いなくなったので、ほっとしたような表情になり、
「生徒会長、イリカ、ありがとうございました。
お礼にこれから一緒にお食事はいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。
せっかくなので同席させていただきます」
と、笑顔で答えるイリカ。
ルシゼエルはユミが余計なことを言いやがって、と思った。ルシゼエルはイリカとユミと少しでも一緒に居たくないのだ。少しでも早く家に帰ってゆっくりしたい。思い返せば、今日はずっと女性に振り回され、疲れた。朝はメイドのリスが裸エプロンに見える水着エプロンになり、入学式が終わったあとイリカにムチで追い回され、襲わされそうになったユミを助けたりした。
なので、ルシゼエルはなんとかして行かなくてもいいようになる方法を考えようと思った。普通に「行きたくない」とか「断る」と言ったら、イリカが「何言ってんの?」と目をつり上げて行ってくるだろう。だから、別の言い方を考えるべきだ。状況からして、ユミが襲わられたばかりなのだ。それをネタにして言えば誰も反論できず、ユミのお礼会はなくなるだろう。
ルシゼエルがそう考えて、言おうとしたときだった。ルシゼエルが言おうとしたことを生徒会長のマリエッタが言う。
「ユミがさっき襲わられたばかりだから今日は早く家に帰ってゆっくりとしなきゃだめよ」
「「わかりました」」
イリカとユミは生徒会長のマリエッタから言われて仕方がなさそうに従う。
ルシゼエルは自分がせっかく考えた言葉を生徒会室のマリエッタに言われてしまったが、結果は求めていた通りになったから良かった、と思った。心の中でルシゼエルは生徒会長のマリエッタに感謝し、すべてが終わったので挨拶をして帰ろうとしたときだった。
生徒会長のマリエッタはイリカとユミと一緒に居たくないというルシゼエルの気持ちを裏切るようなことを言う。
「今日はダメですけど、せっかくなので今度みんなでどこかに出かけましょう。
もちろん、ここにいないスズやアリカも誘って」
「「それはいいですね」」
と、イリカとユミは生徒会長の言葉に同調する。
だが、ルシゼエルとしては歓迎すべき内容ではない。この場で断ろうと思い、
「俺は身分が低いのーー」
「ゼエルもちゃんと参加だからね」
と、ルシゼエルが断ろうとしたのを察知し、言葉をさえぎるように言うイリカ。
ルシゼエルは困った表情で、
「いや、どうして?」
「生徒会長とユミから誘われておいて断るなんてありえないわ。
ゼエルも魔王ルキフグ様のおかげでこの学園に来れているんだから、常識的に物事を考えて行動しなさい」
と、目をつり上げ、人差し指をルシゼエルにビシッ、とさして言うイリカ。
ルシゼエルは、急にデートへ誘ったり、急にムチを振り回したりした人が何を言っているんだと思った。だが、現状のルシゼエルはアウエイ状態で状況がとても不利。
ユミは申し訳なさそうな表情で、
「今回のお礼をしたいのでぜひ来て欲しいのですが……」
と言い。
生徒会長のマリエッタは明るい表情で、
「昨日の歓迎会に参加しなかったのだから今度はちゃんと参加してね」
と言う。
ルシゼエルは完全に包囲網を形成されてしまった以上、白旗を上げざるおえなかった。なので仕方がなく、
「わかりました。参加させていただきます」
「うん、良かったわ。
では、予定についてはまた連絡しますね」
と、生徒会長のマリエッタが言ってようやくお開きになったのだった。




