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入学式②

「はい、出来上がりました」


 朝食を作り終わって、そう言いながらお盆に皿を乗せてテーブルに持ってきて置く。

 ルシゼエルは本を読むのをやめ、テーブルに置き、ありがとう、と言いながら食べ物を見ると、天界の調理方法で作られたような料理が並んでいたのだった。リスに昨日の夜話した『天界の料理』が食べたい、ということをちゃんと覚えていて、作ってくれたことにすぐに気がついた。やればできる子じゃないか。まさか夜話したことをちゃんと次の日に行動を起こすようなちゃんとした子だとは思っていなかった。

 だから、再度、リスにお礼を言おうとリスを探すと、他の料理を取りにキッチンに行ってしまったらしい。

 だが、すぐにリスが戻って近づいてくる足音が聞こえてくる。なので、ルシゼエルはリスが来るほうを見ていると、いつもと違うリスの姿に唖然とする。

 エプロン以外何も来ていないように見える。

 ルシゼエルは、お礼を言おうと言おうと思っていたがやめ、あきれた声で、


「どうしたんだ? その格好?」

「なぜ疑問系なのですか?

 ゼエル様が求めた通りの姿になったのに……」

「いや、求めてない」

「えっと……、やっぱり、エプロンの下は裸じゃなきゃ……ダメ……ですか……?」


 エプロンの下の裾をまくりあげるリス。

 すると、何もない、というわけではなかった。

 つまり、二重否定なので、裸ではなかったことになる。

 三角の黒色の布が付いている。

 ルシゼエルは、リスの姿を見て再度あぜんとし、


「どうしてそんな格好をしているんだ?」

「裸にエプロンでは恥ずかしかったので、エプロンの下に水着を着ました。

 メイド研修のときにもらったものです。

 やっぱり……、やっぱり……、裸じゃなきゃ、ダメなのですね。

 けど、男の人の前で裸になるのは恥ずかしいので、ゼエル様に脱がして欲しいです」

「いや、裸にならなくていい」

「大丈夫です。

 この姿になる前にちゃんとシャワーをあぶましたので」

「知ってる」

「まだ、シャンプー匂いや、石鹸の匂いがすると思いますよ」

「そんなのはどうでもいい」

「じゃあ、私の体の上に料理を盛り付けていただいても……」

「いや、そんなことしない」

「じゃあ、隣に座って料理を食べさせてあげます」

「自分で箸を使って食べるからいい」

「いや、私はゼエル様に箸を使わせません。

 口移しで食べていただきます」

「そんな必要はないから、とりあえずメイド服に着替えてこい」

「……えっ、えええええぇーーーー。

 この格好は一緒にメイド研修を受けた人からとっても好評だった姿だったのですよ。

 それなのに否定されるなんて……。

 私にはやっぱり奴隷メイドとしての価値が……ない……」はぁ


 がっくし、と力なくうなだれるリス。

 ルシゼエルはそんな落ち込まれても、と思った。

 だが、せっかく頑張ってくれて料理を作ってくれたにもかかわらず、このままでは気分が悪い。

 なので、フォローするためにルシゼエルは、


「まあ、その格好のままでいいから、料理が冷めないうちに食べよう。

 天界風の料理を作ってくれたんだね。

 ありがとう」

「うっ、うううっ。

 と、いうことは、私の水着にエプロン姿を認めてくれたってことなんですね」

「認めて……ーー」

「ーーえっ……、やっぱり……」


 認めてない、とルシゼエルが言おうとしたのを察して、途中で言葉をはさむリス。

 リスは今にも泣き出してしまいそうな表情をしている。

 ルシゼエルは、仕方がない、と思い、


「認めている」

「って、ことはこの姿が可愛い、ということですね」

「いや、違…………」

「……………………」


 ルシゼエルが違う、と言おうとしたのを察知し、涙目でルシゼエルに訴えて来るリス。

 ルシゼエルは、仕方がない、と思い、


「違わない。似合っている」

「やっぱり、そうですね」


 ぱあ、と嬉しそうな表情にになるリス。

 ルシゼエルはちゃんとご機嫌をとったからリスのことはもういいか、と思った。

 そのあと、自分のペースで、いただきます、と言い、天界風の料理を食べながら昔のことを思い出す。女の子とのやりとりは苦手だったな、と。

 リスはルシゼエルが食べだしたのを見て一緒に食事を食べ出す。


「おいしいですか?」

「ああ、おいしい」

「ありがとうございます」

「今日の私は褒められてばっかりですね」


 と、ニコニコしているリス。

 ルシゼエルの言葉がよっぽど嬉しかったのだろう。


(まあ、うっとうしいだけで、身の危険はなさそうだから、徐々に静かになるように教育をしていけばいいか)


 まだ、知り合って2日目だから、と自分に言い聞かせてリスの行動に耐えるルシゼエル。

 だが、こんな部屋で静かに本を読むことは難しいな。困ったな、リスにどっか行かせるか? いや、俺がどっかいった方が早いか。

 と、ルシゼエルが思っていたときだった。家のドアのチャイムがなる。

 本当ならメイドのリスに対応させるところだが……、今はまずい。初対面の者がリスの姿を見たら俺の人格が疑われてしまう。いや、初対面でなくたってまずい。


(なぜなら、今のうちのメイドは、裸エプロンに見える水着エプロンだからな!)


 怒りの声を心の中でつぶやくルシゼエル。

 そうルシゼエルが考えている間にも、リスは来客の対応をしようとドアに向かっていく。

 まずい、早くとめなければ!、とルシゼエルは思い、


「リス。ドアを開けなくていい。

 俺が来客の応対をする」

「やっぱり、私は魅力的じゃないんだ。

 お客様に見せられないくらい。

 さっき褒めてくれたのにあれは嘘だったんだ……。

 ゼエル様の嘘つきっ」ぐすん

「ここで泣き顔になったってダメだ。

 早く自分の部屋に行け」

「ふーんだ。

 お客様対応はメイドの仕事です」


 ドアにあと3歩というところまで近づくリス。

 今のリスは、否定されればされるほど、反発したくなる心理にあるのかもしれない、とルシゼエルは思った。

 だが、リスの行動なんとかして、ルシゼエルはとめなきゃいけない。

 では、どうすればいい? リスは徐々にドアに近づいて行っている。ドアまでもう1歩というところまでに。

 次に言う言葉が、最後のチャンスになるだろう。

 まず、リスの心理を考えよう。冷静に。

 リスは否定すれば、反発しようとする。

 では、否定しなければ、反発しない。

 ということは、否定しなければいい。

 つまり、リスを褒めればいい、ということだ。

 今のリスへの最大のほめ言葉は……、


「リス、その姿はとても似合っている。

 だから、客に見せて驚いたら大変だろ?」

「………………………………」


 ドアに手をかけた状態で止まるリス。

 どうするか考えているのだろう。

 ルシゼエルにとって運命の分かれ目。どうジャッチされるのだろうか。ルシゼエルが、じー、とリスを見守る。

 すると、リスがニコッと満面な笑みで微笑みながらルシゼエルの方に振り向き、


「そ、そうですね。

 私の今の姿は初めて会う人に刺激が強すぎるかもしれません」

「そうだな。

 なので早く部屋の中に入るように」

「わかりました」


 そう言って、上機嫌で部屋に向かうリス。

 ルシゼエルはドアを開ける前に、


「俺は出かけるかもしれないから」

「わかりました。

 夕飯の準備をしておきますので」

「ああ、その姿は誰かに見られると刺激が強すぎるから早く着替えておけよ」

「わかりました」


 と、言って部屋に入るリス。

 ルシゼエルはリスがちゃんと部屋に入ったのを見届けたあと、家のドアを開ける。すると、身長の高さが普通くらいで髪がショート。爽やかな印象を受ける少年がいたのだった。

 ルシゼエルは初めて見る奴だなと思いながら、


「お待たせしました」

「なんだか騒がしかったけど、大丈夫?」

「いや、なんでもない」

「騒ぎ声に女の子の声が聞こえてきたけど……メイドの声だったのかな?」

「そうだ。なんでメイドのことを知っているんだ?」

「僕が隣に引っ越してきたときに、挨拶に来たらゼエル君がいなくて、メイドが対応してくれたんだよ。

 ゼエル君の名前はそのときに教わったんだけどね」ははは

「それは悪かった」

「メイドは今どこにいるのかな?

 なかなか可愛い子だったよね」

「あいつは今、病気で部屋からでれないんだ」(なぜなら、水着エプロンになるほどの病気だからな)

「そうなんだ。

 自己紹介が遅れたけどあらためて、初めまして。

 僕は、9大魔王サタナキア様の同盟国の魔王マモンの次男シュウゲルっていうんだ。

 シュウって呼んで欲しいな。

 隣の部屋に住んでいるんだけど、もしよければ、一緒に入学式に出席しようと思って……、どうかな?」


 と、大国と同盟している国の王子だということを強調して言ってくるシン。

 だが、ものはいいようだ、とルシゼエルは思った。魔王マモン国は、9大魔王サタナキアの同盟国というより、どちらかというと傘下で庇護を受けている小国だろうと。

 だが、一国の王子と知り合いになって、入学式に出ることは悪くないだろう。何より、うっとうしいリスのいる家から、外に出る口実ができる。


「わかった。今すぐに出かける準備をしてるから」

「じゃあ、待ってるよ」


 ルシゼエルはそうして、本当は出たくなかった入学式に出席することになったのだった。

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