学園に入学する前④
敵のグループが去ったあと、学園に向かう一行は全員一箇所に集まり、ミーティングを開いていた。
話の進行司会は、一行を学園に安全に届けるための責任者で隊長であるアナッツがしていたが、何か重要な判断が必要なときに一応確認のため魔王ルキフグの娘であるスズにお伺いを立てていた。なので、議題があがると、スズとアナッツが必ず絡んでいたのだった。
主な議題の内容は、①学園に向かう一行の安否と被害状況確認、②学園に向かう経路の確認になる。
まず、①は、ケガ人もなく、馬車などの被害はなかった。不幸中の幸いと言えよう。
ただ、ルシゼエルが乗っていた荷物を乗せいている馬車の業者は逃げていったまま帰ってこなかった。
魔王ルキフグ城を出発するときにルシゼエルが馬車の業者と話をしたときに、まだ生まれたばかりの娘がいると言っていたのを思い出した。名前は確か、馬車の業者の名前は、オグリクと言ったはず。
今回は、オグリクがいなくなった代わりに、兵士が馬車の業者を務めることになった。
ルシゼエルとしては、特に迷惑をかけられたわけではないので、オグリクが無事に家に帰れていればいいが、と思った。
次に②は、当初進もうと考えていた道と変えることにした。
当初は、馬車の長旅だととても疲労するので、ある程度危険の可能性があっても短い距離で行ける道程を選んだのだったのだが、今回、正体不明の敵のグループに襲われてしまった。なので、道程を変え、安全を重視して遠回りをする道を選ぶことにしたのだった。
今度の道程は、村や町が所々にあり、見晴らしの良い平地を通って行くことになる。なので、今回のように小高い丘に潜まれ待ち伏せされるようなことは起きず安全だと思われた。
ただ、着くまでの時間は倍になる。つまり、当初3日で着く予定だったが、6日かかるようになったのだった。
それと、学園には3日で着くと、事前に連絡をしてあるので、学園に心配させないよう兵士を一人騎馬で先に行かせることにした。
一通り重要な議題が終わったあと、スズがふと思い出したかのように、
「そういえば、アリカたちが作った火の玉は本当に大きかったですね」
「うーん、なんだか予想以上に大きくなった気がする。
本当は馬車ぐらいの大きさになったあたりで限界だと思ったんだけどなー」
と、アリカが炎の玉のことを思い出しながら、不思議なことがあったように言う。
スズはアリカの言葉を聞いて、思っていた通りの言葉を聞いた、と思った。
一緒に炎の玉を作った兵士も同じように、不思議だったが誰がやったのかわからない、とアリカの言葉に同調している。
では、いったい誰がやったのだろうか、という疑問が出てくる。
スズには心当たりがあった。
なので、スズはルシゼエルのほうを向いて、
「ぜエル。あなたが手助けをして、炎の玉を大きくした上、風属性の魔法で強化させたのではないですか?」
そう言って、ルシゼエルがどういう風に言うか見守るように見ているスズ。
一方、ルシゼエルは表情には出さないものの驚いていた。炎の玉を作り出したアリカたちも誰かが助力したかなんて気づいていないにもかかわらず、スズは気付いたからだった。今回の戦闘では力を見せなかったものの、おそらく隠した実力があるのかもしれない。流石は魔王ルキフグの娘ということか。
魔王ルキフグの援助を受けて魔界で生活していれば、何か問題が起こったときにスズと力を合わせて解決しなければいけない問題が出てくるかもしれない。そういった意味では歓迎すべきことだとルシゼエルは思った。
だが、そのことと、ルシゼエルが今、自分の正体をバラすことは別だ。
なので、ルシゼエルはスズに向かって、
「いえ、違います。
俺は魔法を使うことはできません」
「そうだよ、スズ。
ゼリエルは羽根を出すこともできないんだから、あんなすごいことをできるわけないよ」
「そうですよ。
あの炎の玉は ここにいる全員が力を合わせても作れないようなくらい強力なものでした。
なのでたった1人の助力でどうこうできるような代物ではありませ」
「そもそも、辺境の村の者が強力な魔法を使えるはずはありません」
「それに、ゼエルは戦闘に加わらずずっと馬車の陰に隠れてました。
学園に向かう一行全員が一丸となって対処しているときに何もしない奴がいるなんて、士気にかかわる問題です。
むしろゼエルを叱ってください」
と、ぜエルがスズの質問を否定したあと、近くにいる兵士も同調し、暴言を投げかける。
スズはそれらを聞いて、じゃあ、いったい誰がやったっていうの?、という疑問を言おうかと思ったが止めた。なぜならば、話の流れからして誰も答えられないし、有意義な話にならない、と思ったからだった。
◇◇◇ ミーティングが終わり、ゆっくりとしたあと、再び学園に魔界出した馬車の中でのスズ、アリカ、イリカの会話。
スズは声を小さくして、ねえ、とアリカとイリカに話しかけ、
「私はやっぱりさっきの炎の玉を大きくしたのはゼエルだと思う。
なので、イリカにゼエルがどんな人物かとか調査してもらいたいの」
「スズ。さっきも言ったようにそれはないよ。
それに、もしそんなに強いなら力を隠さずに堂々と力を使えばいい」
「そうですわ。
力を隠す理由なんてありませんわ」
「けど、調査しておいたほうがいいと思うの」
「わかりました。調査して報告します」
と、仕方がなくスズに同意するイリカ。
イリカとしては、自分の主人であるスズから2度も依頼されては、従わざるおえなかった。必要のないと思える仕事であっても。それに、どうせ調査してもそんなに手間はかからないだろう、とイリカは思った。どうせ、ルシゼエルは戦闘のできない弱っちい野郎なのだから。
イリカのスズへの返事を聞いて、アリカはニヤリ、と笑い、
「イリカ。調査にはゾウを絵で描いてくることも含まれるからなっ」
「なっ、そんなことは含まれませんわ。
そもそも、ゾウさんなんてなんのことを言っているのかまったくわかりませんし」
「じゃあ、ゼエルの全身裸姿を写生してくればいい。
体つきによって、ゼエルの何かがわかるかもしれないからな」
「ななっ、だったらアリカが写生してきなさいよ」
「私は絵を描くのは苦手だ。
そういえば、イリカは前、ダンジョンで見た魔物を上手に絵が描けたって私に自慢してきたよな」
「嫌よ。私は私が描きたい絵を描くの」
「スズもゾウが何なのか知りたいですよね?」
と、スズに話題を振るアリカ。
スズはゾウのことを知らず、気になっていたので、イリカのほうを見て、
「私もゾウさんについてよく知りたいわ。
なのでよく調査して描いてきて」
「スズは、ゾウさんがいったい何なのか知らないのね。
けど、こればっかりは、スズの願いでも聞けないわ」
と、そっぽを向いてイリカが言ったので、この場でのゾウの話は打ち切られたのだった。
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