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学園に入学する前③

 話は、馬車が正体不明の敵のグループから襲われる前に少しさかのぼり、スズミエとアリカ、イリカの3人がいる馬車の中になる。

 進行方向に向かって、スズミエが座り、対面してアリカとイリカが座っている。馬車中の広さは、6人がゆったりと座れるだけの広さがあるので、居心地が良かった。内装に金などの宝飾が施されており、椅子のクッションは良く、あまり揺れは感じられない。さすがは、王族が使う馬車ということだけある。

 なお、スズミエは魔王ルキフグの3女になる。愛称はスズ。ピンクブラウンの長い髪でややウエーブがかかっている。身長は低く、幼い顔の作りをしているが、優等生といった雰囲気があるので大人っぽく見える。

 そんな、スズは気になっていたことを思い出したように、


「そういえば、学園に向かう一行にまだお会いしていない方がいて……確か……ゼエルさんと言ったでしょうか……。

 まだ挨拶をしてませんが……、どんな方なのでしょう?

 それに、挨拶をしに行かなかったことを不快に思ってなければいいのですが……」


 と、スズの方が世間上立場が上にもかかわらず、心配事を言うスズ。

 それを聞いたアリカは、顔の前で、右手を左右に振り、


「スズ、あんな変態を気にする必要はありませんよ」


 イリカは、右手で口をあて、まあ、と意味ありげな表情を作る。


「アリカはゾウさんを思い出しましたね」

「なっ、ゾウのことなんて思い出してない!」

「そう言いつつ、顔が徐々に赤くなってきてますわ」

「そんなことあるわけないだろっ、って、変なモノを思い出させるなっ!」

「まあ、まあ、あのとき興味津々に、じー、と見てたくせに」

「それは、嘘だ。

 スズに嘘を吹き込むな」

「うーん、私にはアリカの姿がそう見えましたわ」


 と、いつも通り勝手にアリカとイリカで勝手に話を進めていく。

 スズもいつものことだな、と思いながら、話に出てきたことで気になったことがあったので、アゴに人差し指をあて、首をかしげ、


「ゾウさんってなんのことなのですか?」

「ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾウ」

「もしよろしければ、アリカがゾウさんを書いて差し上げますわ」

「なっ、そう言うんだったら、イリカがゾウを書けよ」

「私は無理ですわ」

「なんでだよ?」

「私はゾウさんを見ませんでしたわ。

 見たのはアリカだけなの。

 だから、アリカが書いて差し上げなさい」

「じゃあ、なんであの変態にゾウがついてるってわかったんだよ」

「そ、そそそれは……、確かアリカがゾウゾウって楽しそうに叫んでたからですわ。

 私はそれにつられていってただけですわ」


 と、ルシゼエルのゾウについて話が盛り上がっているときだった。

 急に馬車が止まる。

 なので、どうしたのかと思い、アリカが場所の扉を開ける。

 すると、護衛のために付き添っていた騎馬隊の兵士が、小高い丘から飛んでくる矢や魔法が飛んでくるのを必死に防いでいたのだった。

 ものすごい攻撃だったが、まだ被害は出ておらず、なんとか防ぐことができている。

 なので、アリカは参戦しようと思い、馬車から飛び出す。

 イリカはスズに、馬車の中でお待ちください、と言って、外に出る。

 そして、戦況を確認するために周りを見渡すと、荷物を乗せている馬車の業者がどっかに逃げていくのが見えた。おそらく最後尾だったので逃げることができたのだろう。

 だが、イリカたちは逃げることができない。イリカたちがいる場所から逃げようとすると、正体不明の敵のグループから集中攻撃を受ける場所になる。だから、なんとか敵のグループを退かせなくてはいけない。

 そういった状況を考えつつ、敵のグループの戦力を分析する。敵のグループは双方の丘を合計して100人くらいいるようだった。ちょっとした軍隊だ。

 敵のグループは100人に対して、こちらは戦力が10人ちょっと。しかも、敵のグループは丘の上にいて馬車を挟むように陣で追っているので、こちら側が不利だ。

 例えるならば、サンドイッチのパンの位置が敵のグループで、サンドイッチの中身が馬車の位置だ。絶望的な状況だった。

 そこで、イリカはアリカにスズの護衛として役割を果たすために作戦を相談する。魔王ルキフグの娘であるスズだけは、絶対に助けなければならないと。

 相談した結果立てた作戦内容は、イリカが防御壁を張ってスズと一緒に逃げ、アリカがそれを援護するために全力で敵のグループを攻撃する、というもの。

 アリカとイリカは得意魔法が違う。アリカは攻撃魔法が得意で、イリカが防御や回復魔法が得意になる。なので、そういった役割分担になったのだった。

 作戦が決まったので、敵のグループを混乱させる攻撃を仕掛けるため、アリカは黒い片羽根を出し、真上に車輪ぐらいの大きさの炎の玉を作る。

 そして、炎の玉から、拳ぐらいの大きさの火の玉にわけ次々と敵のグループに飛ばしていく。

 だが、やはり敵のグループにも防御壁を作る専門の担当がおり、全て防がれる。

 まったく効果がなかったかのように思われる。

 その間も敵のグループからは長距離攻撃が続いているので、スズとイリカが逃げるタイミングができず動けないままでいる。

 アリカがどうしようか作戦を考えていると、そこにスズを逃す作戦の意図に気がついた兵士が3人やってきて『もう一度同じ攻撃を3人で協力してやろう』と提案され、そうすることにする。

 そうして、アリカと3人の兵士は協力して真上に大きな炎の玉を作る。

 すると、今度は馬車ぐらいの大きさになったのだった。全員が声をかけあい、励ましあい、限界というところまで力を振り絞った結果だった。これぐらいの炎の量があれば、敵を壊滅させることはできないものの、一部の防御壁を破り混乱をさせることができる、とアリカは思った。

 だが、このタイミングで、アリカにとって不思議な現象が起きる。

 馬車ぐらいの大きさになった炎の玉がさらに成長し、3倍くらいになったのだ。しかも、炎の力を増やすように風属性の魔法も加わり、見た目の大きさだけであれば3倍だが、威力は数十倍に上がっている、と思われた。

 これをいったい誰がやったのだろうか、とアリカは疑問に思った。

 まず、自分も3人の兵士もできない。馬車ぐらいの大きさの炎の玉を作るのに全力を尽くしたからだ。

 じゃあ、他の兵士だろうか?いや、無理だ。それぞれの役割をしっかりとやっている。防御壁を張ったり、長距離攻撃をしたり。

 他に誰かいるのだろうか? と周りを見渡すとルシゼエルがいた。

 だが、ルシゼエルでは無理だろう、とアリカは思った。なぜなら羽根を出すことができない、からだ。

 そんな風に敵のグループから意識をそらしていると、一緒に炎の玉を作った兵士から注意を受けた。早く敵のグループに攻撃をすべきだと。

 アリカは敵のグループから意識をそらしたことを反省する。

 そうして、意識を切り替え、さっきと同じように拳ぐらいの大きさの炎玉にわけ、敵のグループへ飛ばしていく。

 すると、最初に行った攻撃とは違い、敵のグループの防御壁を簡単に破り、敵のグループに直接あたり混乱が生じる。悲鳴も聞こえてきて、ケガ人も出てきているようだった。

 それでも、炎の玉の大元は半分も減っていない。

 なので、敵のグループは戦況が不利になり、このまま戦闘を続けると被害が大きくなると思ったのだろう、チリジリに逃げていったのだった。

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