第五話-「パーティーの裏のガン飛ばし」
☆ラテア☆~フルミネア王宮内「来客擁路」にて~
邪魔だ。せっかく大好きなヅアドルの王女ラトゥーンご一行様がレーサン港に到着したから迎えに行こうと思っていたのに。
目の前にいる、良く言えば『巨漢』、悪く言えば『太った』丸メガネの男二人組は、私がラテアだと知っているのかいないのかは分からないが、あろうことか私に向かって私への暴言を吐く有様である。
左の男はリリスと名乗り、延々と暴言というか愚痴というかを吐き続ける。
「どういう事だ!聞いたんだぞ!お前、あとでクソ女王に言っておけ!いいか、なぜシェルビン地区だけ寄付金が高いんだ!あのクソ女王とクソ領主が仲が良いからか!?」
と、この調子である。
しかし、情報が漏れているのは良くないので、あとでこの二人を呼び出し、牢にぶち込んでやろう。決して、ムカついた訳ではない。決して。
もう一人、ルアーと名乗った方はリリスよりも内容が酷いので伏せておこう。ちょうど後ろに呆然と立っているサティがいる。証人は彼女に任せよう。
私は、無論誰にも言われた事は無いが、腹黒さはこの王宮内で一番だと自負している。どのようにして、彼らに私がラテアであるかをいかにショックを大きく言おうかと考えていると、チャンスは唐突にやって来た。
「あっ、ラテアー!お久しぶりネ!」
振り向いた彼らと彼ら越しの私の視線が捉えた人物、それは私の待ち望んでいた人だった。
「ラトゥーン!」
「ラテアー!」
やけに空気の読めるラトゥーンは状況を察したのか、彼女は満面の笑みで二人の男を突き飛ばし、私に抱きついてきた。
「ラ、ラテア様……ですか……?」
おっかなびっくり、こちらを見る二人。なので私は、腹黒さ全開で答えてあげた。
「ええ。リリスとルアーですわよね?うふふ、覚えておきますわ」
全体的に悪意を込めて。特に「うふふ」の部分に。
「ひっ……」
あれ、こんなんだからクソ女王とか言われるのだろうか。だが、それはこの際気にしない事とする。
「ラテアラテア、私にお部屋見せてヨ!」
「そうね、ラトゥーン。こっちよ」
「わーイ!あ、ごきげんよう、お二人さンッ!」
「お、おい、どうすんだよリリス……!」
「知らねぇよ!大体、お前が先に……!」
「はぁ!?なんだと手前……」
と、そこへ現れた親衛隊隊長バリバ殿。
「はいはーい、王宮でケンカとは度胸ありますねー。そんなお二人様には暗い暗い一人部屋、独房をご用意しておりますので、こちらへどうぞー」
問答無用で二人を連れて行く。途中でこちらを見てウインクしてきたので、ウインク仕返してやる。
「じゃあ行くヨ!」
「はいはい……あ、こっちこっち」
「わァ、人いっぱいいるネ!やっぱりラテア、人気者ネ!」
「いやいや、そんな事ないって!」
「何サ、照れてるノ?」
「違うっ!」
半端な照れ隠しをしつつ、つかつかと水の間の玉座へと戻る。
「ていうか、お部屋っていうか客間よねここ……」
「細かい事は気にしなーい、ヨ!……ほらお父様、お母様!ラテアに挨拶するヨー!」
「あら、ラテアちゃん、また随分見違えたわねぇ」
「本当だ。また大人に近づいたようだ」
「いえ、そんな……」
「本日は生憎の天候ですが、女王様のご生誕、心よりお祝いいたします」
「右に同じ」
「右に同じーッ!」
隣で聞いていたラールドが苦笑する。
「姫、ご挨拶が簡単すぎではないですか?」
「いいのじゃ。実は、堅苦しい挨拶は童もかなり苦手なのじゃ」
「実はも何も、もう皆さん知られていますよ」
「ん、そうなのか?」
「はい。謁見なさる方々の暗黙の了解の1つに、挨拶は簡潔に、というのがあるくらいですから」
「ほほう、暗黙の了解じゃと?」
そんな話は初耳だ。いや、そもそも本人に伝えても意味はないのだが。
「んー……他には?例えば何があるのじゃ?」
「あとは……姫と共にお写真を撮るのは極力控えよ、など……」
「?何故じゃ?」
「サティとリネア様と、共にお撮りした写真があるではないですか」
「ああ、あれな……」
その写真とは、最近私とサティとリネアが幼馴染みとして撮った一枚である。
唐突に、しかも二人にくっつかれて撮ったので、顔半分しか写っていない挙句に困り顔である。
なぜかその写真が出回り、写真嫌いというイメージが定着してしまったらしい。
「では……」
「はい、なんでしょう?姫」
「童は決めた!」
「は、はいっ」
「童は、写真嫌いのイメージを払拭する!」
名付けて、ラテアの、写真嫌いイメージを払拭しよう大作戦!
「はぁ……なんかまた一波乱ありそうだ……」
そういうラールドの目は、らんらんと輝いていた。
腹黒いとゆるもよく言われます。
ラテアちゃん万歳!!