男
痛いと、叫んだところで無駄なのだろう。ここには私とこの男以外誰もいない。
そして、この男は人の苦しむ姿をみて興奮している。そんな男に何をいっても逆効果だ。
なぜ、こんなことになったのかは覚えていない。この男が誰なのかもわからない。見覚えはある、だが誰とまではわからない。
わかっているのは、私がこの男に殴られていることだけだ。もちろん最初は抵抗した。だがそれは、男を煽るだけだった。
抵抗をやめても暴力は止まない。だが、ふと私を殴る手が止んだ。そして男を見上げると、男は何故か泣いている。泣きながら私を見ているのだ。ぽたり、ぽたりと、私の顔に涙が降ってくる。
なぜ、泣くのだろうか。本来なら泣くのは私ではないのだろうか。まぁ、私は泣かないのだが。
泣いている男を不思議に思って見上げていると、男は突然私に謝ってきた。
何度も、何度も、ごめん、ごめんな、と。
「なぜ、謝る」
そう聞くと、男はこう答えた。
「君を傷付けたっ!誰よりも大切な君をこんなになるまでっ...」
そういって、男は私の頬に優しく触れた。まるで壊れ物を扱うかのように、そっと。なんなのだろう、この男は。先程まで私を殴り興奮していたのに、今度は私を傷付けたといい謝ってくる。
この男は、何がしたいのか。聞いてみるか、今なら聞いても大丈夫そうだ。
「お前は...誰だ、何がしたい...」
そう私が言った途端、男は驚愕したように目を見開いていた。どうしたというのだろう。妙な事は言っていないつもりだが。
「僕を...覚えていない...?そんな...まさか...」
覚えていない?私はこの男と知り合いなのか?確かに見覚えはあるが、誰なのだろう。
「誰だ...」
思わずそう呟いてしまった。
「...!本当に、覚えていないのか...僕はね...君の恋人だよ...」
先程の攻撃的な姿勢からうってかわって、弱々しくそう言った。しかし、私に恋人などいただろうか。よく、覚えていない。記憶に黒いもやがかかったように、よく思い出せない。
私が思案に耽っていると、男が悲しげに言った。
「ねぇ…僕はね、君を愛してるんだ…」
愛しているなら、なぜ危害を加えたのだろう。普通はこんなことしないだろう。
「そう…か...」
私が男を覚えていないことで、男は深く傷付いているようだ。だが、私も傷付いている。肉体的にも精神的にも。この男だって傷付いてもいいはずだろう。おあいことまでは言わないが、ちょっとした復讐にはなっただろう。
あぁ、瞼が重くなってきた。このまま目を閉じたら、きっと私は死ぬのだろうな。もう、そろそろ限界だ。父さん、母さん、先立つ不幸を、どうか許して欲しい、さよなら。
眠るように死ぬその者は、とても美しかった。
意味わかんないね、うん。
男は二重人格みたいな。
攻撃的なな裏の人格と、本来の優しい表の人格。たまたま裏人格が他の男と仲良さげな主人公みて嫉妬して、誰にも触れさせない見させないみたいお前を自由にしていいのは俺だけだなヤンデレ思考に。表人格は裏人格に押さえつけられて出てこれなかった的な。ちなみに最後は語り部がいってる。