四週間目
四週間目
あの日から、直哉は宣言通り夜は家に帰って、登校時間になると僕を迎えに来るようになっていた。
直哉の両親は、直哉の存在を感じれるようになって随分落ち着いたらしい。こないだ直哉に頼み込まれて家に行ったらあの時の事を改めて謝られた。大した怪我でもなかったし直哉をこれ以上悲しませたくはないから赦したけれど、下手したら死んでたんだよなぁと思うと少し微妙な気分になる。
でもこれが他の人だったら本当に殺されていたかも知れない。そう考えれば彼等が暴走した相手が僕だったのは、彼等にとって一番の救いだろう。直哉に両親を恨んでないかと聞かれたのでそう言ったら怒られた。もっと自分を大切にしろ、との事だ。別に自己犠牲の精神なんか無いんだけどね。ただこう言う結果になったから、そう思わなきゃ遣りきれないってだけで。
学校の方は直哉がいなくなったぎこちなさも消え、まるで最初からそうであったかのように新しいリーダーの元クラスメイトが纏まっている。少し寂しいとも思うが、生きている以上は何時までも立ち止まっている事なんて出来ない。皆が立ち直った今の状況を喜ぶべきなんだろう。
下手に直哉と話が出来る分、僕にはちょっと難しそうだ。皆もそれが解るのか、僕に積極的に声を掛ける人は少ない。元々人付き合いは苦手だし、このままだとクラスで浮きそう。直哉にも心配されてるが、こればかりはどうしようもなかった。いつも僕を人の輪に引き摺ってくれていたのは直哉なのだから。
『裕人、皆と遊ばないのか?』
「僕があんまり外遊び好きじゃないの知ってるでしょ」
休み時間に話し掛けてきた直哉に小声で返す。教室に残ってる人に聞かれたらまず間違いなく頭がおかしいと思われるだろう。周りに人がいる時は話し掛けないでって言ってるのに。
『でも最近ずっと一人でいるだろ。なぁ、誘われた時くらい行った方が良いって』
直哉は勉強は駄目だけど空気を読むのが上手い。僕がクラスから孤立しかけている事を感じ取って、時々こうして促してくる。でも、ずっと直哉に強引に手を引かれてやっとこさクラスに馴染んでいた僕には、自分から関わる勇気が欠けていた。折角声を掛けて貰っても、つい尻込みしてしまう。
このままじゃいけないとは、僕も解っているんだけど。
『俺がいるせいか?』
「違うよっ。僕の性格が問題なんだし、直哉は悪くないからっ」
周りを気にして声を潜めながら、それでもちゃんと直哉に伝わるように語気を強める。直哉が悪いなんて、そんな事ある筈がない。
『でも……』
「何時までも直哉に頼ってた僕が悪いんだ。心配してくれてありがとう。でもこれは僕が自分でどうにかするしかないから」
直哉は何とも言い難い表情で黙り込む。僕の言っている事が正しいと頭では解っても、納得いかないんだろう。とは言え本当に僕が自分で解決するしかないんだから、直哉にはどうしようもないけどね。
「僕、頑張るから。だからそんなに心配しないで」
『……あぁ、解ったよ』
ちょっと疑わしそうな顔をしていたけれど、直哉は一応納得してくれたようだ。それきりこの話は打ち切って、僕は読んでいた本に集中した。
「裕人、ドッヂやろうぜ」
昼休み、給食も終わり、図書室にでも行こうかと考えていたら青山 信明に声を掛けられた。彼は新しいクラスのリーダーで、こうしてよく僕に声を掛けてくれる。ありがたくはあるが、正直ドッヂボールは苦手だ。けれどつい一時間程前に直哉に頑張ると言った手前断るのも気が引ける。
「うん、ありがとう。やるよ」
ちょっと悩んだけど、外野にでもいればいいかと思って頷いた。青山君は僕の返事を聞くと号令を掛ける。
「よっしゃ。ドッヂやる奴、校庭行くぞ!」
どうやらクラスの殆どの人間がやるらしい。ぞろぞろ教室を出ていく皆に付いて校庭に出る。僕らは手分けしてコートを描きチームを作ると、休み時間一杯までドッヂボールをしていた。
僕は何度かコートに入ったものの、やっぱりすぐに当てられてしまい、その内外野が指定席になった。外野って気楽で良いよね。皆がボールに一喜一憂してるのを見るのは中々に楽しかった。こんな性格だから友達いないって直哉に言われちゃうんだろうな。