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一週間目

 一週間目


 直哉のお葬式には沢山の友達が来て、皆ボロボロ泣いていた。本当に直哉は皆に好かれてたんだって、今更のように思い出す。当の本人はぼんやり棺に腰掛けて、泣いてる両親を見ていた。すぐそこにいるのに、話し掛けることすら出来ない。お葬式が終わった後、直哉は僕の横に来て『本当に死んじゃったんだなぁ』って寂しそうに呟いた。でも僕が何か言う前に、直哉は霊柩車に乗って焼却場に行ってしまった。僕は何て返せば良かったんだろう。

 お葬式も全部終わってから、直哉は家には帰らず僕の後を付いて回ってる。両親を見ても泣いてばかりいて、辛いそうだ。僕も何とかしたいけど、今の二人には何も聞こえないだろう。


 直哉の死因は、信号無視のトラックに轢かれたこと。何百メートルも引き摺られた直哉の身体は酷い有り様だったらしい。本人曰く『めちゃめちゃ気持ち悪かった』そうだ。直哉自身はトラックが突っ込んできた後の記憶は無いと言っていた。新聞でも即死と書いてあったから、痛みを感じる暇も無かったんだろう。寧ろ無くて良かった。もしあったら直哉は狂っていたかもしれない。たまにそう言う霊もいる。直哉がそんな霊にならなくて良かった。

 トラックの運転手は酒を飲んでいたそうだ。電柱にぶつかったけど、怪我は軽傷。そいつが死ねば良かったのに。本気でそう言ったら直哉に怒られた。『死ねとか、軽々しく言うな』って。出来るだけ重い罪になるよう直哉の両親は頑張っていたけど、直哉はそれにも良い顔はしなかった。自分を殺した相手なのに。直哉は優しすぎる。今こうして僕と話せてるから良いんだって言ってたけど、そんなの嘘だ。だって、あの時僕に会ってから沢山泣いていた。

 直哉はもう大好きなサッカーも出来ないし、楽しみにしていたプールにだって入れない。僕とはお喋りできるけど、それだけ。幽霊は歳だって取らない。僕がこの先成長しても、直哉はこのままだ。どうして直哉がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。どうせなら、悪いことしてる奴が死ねば良いのに。直哉が怒るから口にはしないけど、そう思わずにはいられない。



『裕人、神経衰弱しようっ』


「いいよ。机片付けるからちょっと待ってて」


 トランプ片手に上下逆さまで覗き込まれて快諾する。てっきり断られると思っていたらしい直哉は拍子抜けした顔だ。


『良いのか? 宿題は?』


「僕だって、息抜きしたいと思う時くらいあるんだから。それにもうすぐ終わるし、ちょっとなら良いよ」


『やった! じゃあ七並べもしようぜ』


「それだとちょっとじゃなくなるから駄目っ」


 勝てるまでやりたがるくせに、何言ってるの。大体七並べ二人でやっても楽しくないよ。


『え〜。ちぇっ、解ったよ。代わりに、神経衰弱勝つまでやるからな。絶対手ぇ抜くなよ』


「解ってるよ。直哉って頭使わないゲームは強いよね」


『ちょ、いくらホントの事だからって何でも言って良い訳じゃないんだからな』


 喋りながら二人で手分けしてトランプを並べる。他の事をしてても直哉はトランプを落とさない。順調に上達してるみたいだ。


「何を言ってるのさ。今更この程度で傷付くような柔な直哉じゃないでしょ」


『ひ、裕人っ。お前なぁ、そんなんだから俺以外に友達が出来ないんだぞっ』


 ピタッ、と僕の手が止まる。喉の奥から笑い声が出てきて止まらない。きっと今僕はとても良い笑顔をしている。なのに、直哉はどうして顔を引き攣らせてるんだろうね?


『あの、その、悪かった言い過ぎたっ。お前が良い奴だって俺ちゃんと知ってるから! 例え俺以外に友達が一人もいなくても、って痛ってぇ!』


 ガツンッと拳骨をお見舞いする。頭を抱えて空中を転げ回る直哉。器用なことだ。普通は生前の意識が邪魔をして中々飛べないらしいのに。サクさんは十年掛かったとか。運動が得意だったことと関係あるんだろうか。それとも飲み込みの良さかな。うん、そっちっぽい。


『ああぁー、ずりーよ裕人。俺は触れないのにー』


「ズルくないって。直哉も練習したらそのうち触れるよ」


 僕だってちょっと気合い入れてるだけだし。物より生き物に触る方が難しいらしいから、直哉はまだ時間がかかるかもしれないが。これもサクさんに教えてもらった。ホント、亀の甲より歳の甲だよね。


『うー、うー、何で触れないんだぁ』


 僕を殴ろうとして殴れず唸ってる直哉を他所に、トランプを並べていく。全く、もう一発殴ってやろうか。


「ほら、トランプ並べ終わったよ。神経衰弱やるんでしょ」


『くっそー、ぜってー勝つからな!』


「はいはい。最初はグー、じゃんけんポンッ。ほら、直哉が先攻」


 雪辱に燃える直哉は、燃えすぎたのか空回り。得意な筈の神経衰弱で僕に連敗してしまい、僕は中々宿題を終わらせられなかった。

 やっぱりやるべき事は先に済ませないと駄目か。特に直哉が絡む時は。ため息を吐きながら、改めてそう思い知った。


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