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天国の夢

作者: いぬ





わたしが目を覚ましたら、


目の前に妖精っぽいひとがいた。


体は少し透き通って、霧みたいだった。


突然何だろう、なんでいきなり知らない人がいるんだろう?と思ってその人の顔を見ていると、


その人はわたしに向かってこう言った。


「ここは天国です。貴方は死んだのですよ♪」


鈴の()のような、とても綺麗な声だった。


しかしあまりに突飛な内容だったので、わたしはポカーンとしてしまった。


でもすぐに気をとりなおした。


だって、わたしはあの世なんて信じてない。



「……まさか。天国なんてあるはずないし、どうせここは夢の中でしょ?」


「ホントですよ!!じゃあほっぺをツネってみたらいいです」


仕方がないので、わたしは自分のほっぺをぎゅうっとつねってみた。


痛かった。


目も覚めなかった。



「……あれ?まさかわたし、ホントに死んだ?」


「そうだと言ってるでしょう!」


妖精っぽいひとは怒っていた。


わたしはまだ、自分が死んだなんて実感が湧かなかったし、特に何をすればいいのかも思いつかなかった。


だからとりあえず、目の前の人物に、いちばん気になったことを聞いた。


「じゃあ、なんで死んだの?わたしは死んだ記憶なんてないんだけど……」


「ふふふ……w

ショックで忘れているだけですよ。きっとじきに思い出すことでしょう……」


どうも胡散臭い。


でも、これが夢じゃないってことは、きっと事実なんだろう。


わたしはぐるっと辺りを見回した。


地面は白く、なんだかフワフワしていた。

雲だろうか?


雲の上に乗るなんてリアルじゃ体験できないなぁ、とか思いながら、ぴょんぴょん跳ねてみた。


跳ねながら、呟いた。


「そっかぁ……よく分かんないけど、わたしホントに死んじゃったのか……」


もう、ペットのインコにも会えないのか。


お母さんにも、会えないのか。


友達にも……。



妖精っぽい人は、なぜかすごく楽しそうに笑っていた。


なんだか、ますます胡散臭い。


そもそもこの人は、一体何なんだろうか。

天国の番人か何か?


妖精っぽいひとはずっと狂ったように笑っていたけど、ふとわたしの背後に目をやると、何を見たのか突然笑うのをやめて顔を強張らせた。


「あ、あれは……!!」


「へ?」


なにをそんなに驚いているのだろう。天国には、そんな怖いものなんて、ないと思っていたんだけど。


だけど妖精っぽいひとは、すごく必死そうだった。


「あなた、あれに捕まってはいけません……!!はやく逃げるのです!!」


「なに?……ちょっと!」


わたしが状況をつかむまえに、妖精っぽいひとはわたしの左手をぎゅっと掴んで走り出した。


すごく強い力だったから、わたしは思わず顔をしかめた。


「ちょっとアンタ……」


しかし妖精っぽいひとは聞いていなかった。


「走って!はやく!じゃないと現世(うつしよ)に連れ戻されてしまいますよ!!」


……この人、さっきより少し声がしわがれている気がするのは、気のせいだろうか?


妖精っぽいひとはわたしの手を掴んだまま、すごい速さで走った。


だけど、わたしの背後から近づいてきたなにか──さっき、妖精っぽいひとが見て顔を強張らせたものは、もっとずっと速い速度で、翼を広げて飛んできて。


「ぎゃぁぁぁああー!!!!!!」


妖精っぽいひとの悲鳴が聞こえた。

それは、始めに聞いた鈴のような綺麗な声とは比べ物にならないほど、しわがれた醜い声だった。



わたしの意識は、そこでプッツリと途切れた。








何かが、ペロッとわたしの鼻先を舐めた。


「ん……んんっ?!」


わたしがビックリして目を冷ますと、目の前にクチバシが見えた。


「あ、あれ……ピーちゃん……?」


「ピーチャンオハヨー?」


わたしが目をパチクリさせていると、ピーちゃんは首を傾げながらもう一度、私の鼻の先っちょをペロッと舐めた。


「ああ……そうか。かごに戻すまえに、うっかり眠っちゃったんだ、わたし……」


わたしはピーちゃんを手に乗せて、そのままかごに戻した。


ピーちゃんはまだ遊びたいようで、止まり木を左右に行ったり来たりしながらピュイピュイ鳴いている。


ごろん、とカーペットに横になって、わたしはさっき見た夢を思い出した。


なんだか、普通の夢とは少し違ったような気がする。

起きたら夢の内容はほとんど忘れてしまうことが多いけど、さっきの夢は、今でも鮮明に思い出せる。


あの妖精っぽいひとは、一体なんだったのか。

そして、現世(ここ)にわたしを連れ戻した、あの翼の生えた──


……まぁ、そんなに深く考えることもないか、と思ってわたしは考えるのをやめた。


だってわたしは、あの世なんて信じてないし。


……でも、ちょっと面白かったな。


せっかくだし、忘れないうちに、文章にしておいても良いかもしれない。


そしてわたしは、シャーペンを手に取ったのだった。






end

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