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第五話/例えば王都へ到着しました。

「王都が見えましたよ」

 御者な若い騎士さんの声を聞き、わたしは弾けたように窓を開けて顔を出す。

「おぉぉぉー」

 見れば確かに、これまでで一番大きな城壁に守られた街が進行方向に見えていて、まだ少し離れているのに存在を誇示していた。

 それを少しの間見続けてから、わたしは馬車の中に戻る。そして前に座るアイシアへ顔を向け、にっこりと笑う。

「よかったね、アイシア。ちゃんと無事に着けたよ」

「えぇ。これもあの時に、カリンが助けてくれたからですね」

 いやぁ、もうそれはいいってば。お腹いっぱい、ご馳走!

「まぁそれは置いといて。ここまでだいたい二週間、成り行きみたいな形だったけど楽しかったよ」

 現在、わたし達が出会って、わたしがこの世界に来てから二週間経っている。それは同時に、あの街からこの王都までの道程にかかった時間でもある。

 そしてこの二週間、アイシア達と旅が出来たのは凄く助かった。こちらの常識を教えてもらったり、魔法を教えてもらったりね。

 他にもこの二週間、騎士さん達と組み手をしたりして特訓したり、魔法を上手く使う特訓をしたりで、これからの生活へちょっとした基板を作ったりしてたわね〜。あと、一人ぼっちじゃないというのが、相当助かったわ。寂しいのは、少し苦手なのよ。

「そんな、これでお別れみたいに言わないで下さい」

「いや、流石にこれ以上はついていけないでしょ? お城に一般人が、用も無く行けるものでもないしさ」

 といっても、わたしはアイシア達以外知り合いが居ないからなぁ。生活をするにも、色々大変になりそうだ。

 予定としては、軽い身分証明と生活費稼ぎのために『ギルド』とか言う冒険者組合に登録して、あとはどこかで住み込みの良い働き口を探そうかな。まぁ王都って言うなら、人が集まってるだろうし何とかなるでしょ。

「……カリン、忘れたんですか? 貴女が助けたのは、ラッツフィラー王国の第三王女です。しかも命の恩人。それほどまでの恩を受けて何もしないのでは、王族として失格。皆に後ろ指指されてしまいます」

 うん? いや、わたしとしては、結果的に王女様を助けただけであって、誰であれあの状況だったら助けに入ったわよ?

「それで?」

「お礼をしますので、一緒にこのまま城に来て下さい」

 …………え? マジ?

「え、わたしこのまま一緒にお城に入るの!?」

 まさしく晴天の霹靂(へきれき)! いや、これも王家の責務なのかもしれないけど、お城なんて堅苦しそうな場所は少しなぁ……。

「もう……。ちゃんと以前に言いましたよ?」

 あれ? 霹靂なのはわたしだけ?

「その顔は忘れていましたね、カリン」

「あ、あはは……ほら、色々忙しくってさぁ」

 じと目をしてくるアイシアに、わたしは笑ってごまかすことを選択! だって、字だって覚えなきゃいけなかったし、魔法も使えるようにならないといけなかったんだもん!

 ……って、心の中でかわいこぶるなわたし。しかも違和感しかないよわたし。

「とにかく、正当な恩義には正当に報いる。それが出来なくては、親族貴族はおろか民も着いてこなくなるのです。だから、カリンには無理矢理にでも、城に来てもらいますからね」

「はいはい、分かりました。忘れてたわたしも悪いんだし、素直にお呼ばれされます」

 まぁ、単なるお礼だけなら、面倒だけど滅多な事にはならないでしょ。それにお城へ入るなんて、中々出来る体験じゃないしね。しかもリアル王家やリアル貴族とか、出来る出来ないを越えてるし。

「それにそんな理由がなくても、家族にはカリンを紹介したいんです。私の大切な人だって……」

 ちょっ、アイシア!? それじゃあ恋人を紹介するみたいだよ! あくまでわたし達は友達でしょ、友達!

 ……はー、正直、シャレにならないからなぁ。何たってこの世界――この大陸の国は大体が同姓婚も認められてるし、重婚も認められてるからねぇ。まぁ、一般家庭は八割以上で一夫一妻だけど、法律的には認められてるんだよ。

 まぁ、確かにアイシアは好きだけど、あくまで友達としてだし。一般的な家庭で育った現代日本の女子高生として、わたしはノーマルだからね。なんか最近、可愛い女の子を目で追っちゃったりするけど、わたしはノーマルなんだよ! ……何だか少し、自信が無くなってきたけどね、言ってて。

「まぁ、ほどほどにね」

 微妙に精神的な疲労が溜まってきて、わたしは考えることを放棄。そして投げやりな苦笑を浮かべて、そう言葉を返した。……あー、アイシアってば、嬉しそうに笑わないの。ちょっとドキドキするじゃない。

 ――染まってきてるなぁ。わたしって、実はそっちの人間だったのかなぁ?

「――おぉぉぉぉっ!」

 何だか自分が分からなくなってきて、気分転換に窓へと視線を移したわたしは、思わず感嘆の声を上げていた。

 いつの間にか王都に入っていたらしく、そこには人の流れと街並みが存在していた。広がる街並みは、行ったことないけどプラハとかウィーンとか、そういう中世ヨーロッパのような異国情緒溢れる素敵なものだった。

 しかもそこに居る人々も、金髪茶髪銀髪赤髪青髪白髪といった、日本では見られないどころか『地球』では一部以外で絶対に見られない、そんな色を持つ髪ばかりだった。ちなみに一部というのは、いわゆるオタク文化である。あの分野なら、カラフルな髪も珍しくないからね。

 ついでに言えば、普通に見る『人間』といった人達だけじゃなくて、ネコミミイヌミミキツネミミ……様々なケモノミミやシッポを持つ人やまんまケモノな人――『獣人族』と呼ばれる人々や、背中に天使のような翼を持つ『魔族』と呼ばれる人々。そんな多種多様な人達が、互いにいがみ合うこともなく生活をしていた。

 ちなみに、魔族の人達の翼はかなり小さくなっていて、背中にちょこんと付いてるみたいだった。多分、街中だから小さくしてるんだろうね。ある程度、自由に大きさを変えられるらしいから。……というか魔族の人達、背中開いてる服装が多いなぁ。

「あー、背中開いてる服っていうのも、結構いいなぁ。――あ、あの子可愛い」

 特にすることもないので、窓からマンウォッチング。色んな人が居るから面白いね〜。しかも、冒険者っぽい人もちらほら居るし。

 でも何故か、可愛い女の子をチェックしてたりするわたし。うん、ノーマルなのか、ますます怪しくなってきたわね。

「カリン、そろそろ王城に着くようです」

「あ、もうそんな所まで来たんだ」

「えぇ、来たんです。カリンがよそ見をしている内に」

 ……あれ? なんかアイシア、言葉に刺があるよ? というか、なんでそんなにむくれてるのよ。

 何故か拗ねているアイシアに首を傾げつつ外を見ると、確かに街並みがこれまでと違っていた。なんというか、おっきな屋敷が立ち並んでいたのだ。

 でもその風景もすぐに終わり、何か短いトンネルを通ったように一瞬日の光が遮られた。多分、城門を(くぐ)ったんだね。

 やがて馬車は速度を落としていき、完全に止まった。少しして、ガチャリと扉が開かれそこには兜を脱いで素顔を曝している、ディオルドさんが居た。

「アイシア姫、お手を」

 そういって差し出されたディオルドさんの手を、アイシアは慣れた仕種で迷わずに取り、こちらに一瞬目配せしてからそのまま馬車を降りていった。

 なるほど、終着駅に到着ってことね。

 そんな風に考えながら、わたしはアイシアが降りたのを確認して、改造キセルを銜えてから軽く踏み込んでトンッと地面に降り立つ。

「――……うわぁお。これは少し、想像以上ね」

 呟き、ちょっと気圧される。

 だってそうでしょ? なんか、騎士さんがいっぱい整列してるんだよ? 一般人としては、少し怖いってば。

「アイシア・ファルク・リーン・ラッツフィラー、ただいま帰還致しました」

「お帰りなさいませアイシア姫。早速で申し訳ありませんが、謁見の間までご足労いただき、ご健勝をまず皆へお見せいただければ幸いにございます」

「分かりました。案内を」

「ハッ!」

 そんなやりとりを目の前で見せられ、思わず呆然。……いやはや、ここまでしっかりと『王女様』やってるアイシアっていうのも、少し違和感があるね。

 でもまぁ、やっぱり王女だったんだね、アイシア。

「お客人、貴女も一緒にと王から仰せ付かっております故、ご足労願えませんか?」

 ふむ? この段階でわたしを呼びますか。色々準備をしてからだと思ったんだけどな、わたしの出番。まぁ、例え今であっても、問題はないけどね。パターンは幾つか、予測しておいたし。

 そんなわけで、問いかけてくる熊みたいな騎士さんに向けて、わたしは改造キセルを銜える口元をニヤリと歪める。

「良いですよ。行きましょう」

「感謝します。では、私の後についてきてください」

 そう言って、くるりと背中を見せて歩き出す熊な騎士さん。ふむふむ、特に反応なしか。……なーんか、妙に信用されてないかなぁ、わたしって。

 とか考える暇もなく、さっさと二人は歩いていくもんだから、わたしも少し慌てて後に続くのだった。



「ほー……」

 目の前にそびえ立つ大きな扉に、思わず溜め息にも似た声が出てしまう。大きさもそうだけど、装飾とかが凄かった。もう、ロープレとかにある豪華な扉みたいな?

「ザハツィン・トルーダー、アイシア姫と客人を連れ参上した。開門を求める」

「ハッ、了解しました!」

 そんなやり取りの後、扉の右側に控えていた騎士さんが何かをすると、今まで『此処は通さんぞー!』ってオーラを出していた扉がゆっくりと開き始めた。

「近衛騎士第一師団団長、ザハツィン・トルーダー様! 第三王女、アイシア・ファルク・リーン・ラッツフィラー様! 客人、カリン・ナナカワ様! 御成です!」

 やがて扉が開かれると、今度は左側に控えていた騎士さんが声を上げて、わたし達の到着を告げた。そんな騎士さんの声は確かに張っていたけど、大声で叫んだような声量じゃなかった。それでも、よく通るだけじゃなくてちゃんとその場に居る全員に声が届いているということは、何かの魔法具を使っているということかな?

 ちなみに魔法具っていうのは文字通り『魔法の道具』のことで、様々な方法で任意の魔法を武器やアクセサリーなどに封じ込めたものを言う。魔法が使えない人用に作られた道具とかで、実は街にある街灯もそれなんだとか。

 ついでに言うと、この思考は現実逃避なんだよね。だって、扉が開いた瞬間に、向こう側――謁見の間とか言う広い空間に居た全員が、こっちを見たんだよ? 流石に、びっくりするなっていうほうが無理だってば!

 なんていうわたしの動揺を尻目に、また二人はさっさと歩き出してます。何だよもう、動揺する時間ぐらい頂戴よね。

 仕方ないから、なるべくポーカーフェイスを保ちながら進んでいくと、両脇に列んでいる奴らからジロジロとした視線を感じる。

 今わたし達三人は、広い空間の真ん中を王座に向かって歩いている。そしてその歩く場所から距離を開けて、多分この国の役人か貴族とかいうのが、ずらりと列んでいるのだ。必然、視線を受けるのはしょうがないだろう。

 ただ、その視線が撫で付けるようなネットリとしたやつだったり、嘲るような馬鹿にしたやつだったり、しまいにゃヒソヒソと小声で話をされているなんて状況で我慢出来るほど、わたしは聖人君主なんかじゃないんだよ? まぁ流石に、暴れるような馬鹿な真似はしないけどさ。

 そうしてじわじわストレスを溜めていると、前を歩く二人の足が止まった。一応前はしっかり――というか、前だけを見て威風堂々とした印象を与えるように心掛けて歩いていたから、止まった理由は分かっている。わたしも、とりあえず止まったし。

 目の前――少し高くなっている場所には、豪奢な椅子に座る偉丈夫然とした男性と、男性を挟むような立ち位置で左右に一歩下がって佇む二人の美女さんが居た。三人とも、厭味にならない程度に豪華な衣装を着ていて、ピンと張り詰めた空気を醸し出している。

 ……流石、一国の主だわ。前に会った、財閥のトップみたいに雰囲気が重いもの。

 そう。つまるところ、この三人――国王&王妃二人と喋るための位置に来たから、前の二人は立ち止まったのだ。

 国のトップを前に、アイシアはドレスの裾を摘んだお辞儀をし、ザハツィンというらしい熊な騎士さんはひざまづき臣下の礼を取り――ざわめきが生まれた。

「貴様、何をしている!」

 そう叫んだのは、脇に列んでいた一人だろう。だけどそっちには、視線は向けないし反応もしない。完全に無視だ。

「膝を着かぬか! 不敬であるぞっ!」

 今度は別の声。でも、ガン無視。だって聞く理由が無いから。

 でも、あの人達が言ってくるのも頷ける。何と言っても、わたしは仁王立ちで(・・・・・)腕を組んでいるんだから。

 それからも、次々上がってくる煩い声を無視し続けて、わたしはじっと前を見続ける。

 王座に座る偉丈夫――国王さんは、金の短髪で切れ長な紫の瞳。髭も無くすっきりとした顔立ちから察するに、三十代か四十代辺りかな?

 王座の右側に立つ美人さんは、まるで女騎士みたいな雰囲気ね。金髪に翠の瞳で、見た目は三十代前半って感じかな?

 対する左側の美人さんは、微笑みを浮かべていて柔らかい雰囲気だね。銀髪に翠の瞳で、見た目……うちのお母さんみたいに若い。多分、こっちの銀髪美人さんがアイシアのお母さんだろうね、髪の色的に。

 そうやって観察し、同時に観察され……周りが何か無駄に騒がしくなってきた辺りで、わたしはニヤリと笑って口を開く。

「娘さん、確かにお届けしましたよ?」

 決して大声ではなく、普通のトーンで言った言葉は、ほとんどの人間には喧騒に掻き消されただろう。でも、わたしの前に居た五人にはちゃんと聞こえていたようで、アイシアは驚いたように振り向き、ザハツィンさんは身じろぎだけで抑え、国王さん達は一瞬だけ驚いたように目を丸くし、次いで面白いものを見たように目を細めた。

 ……つか、流石国王夫妻だわ。表情の変化が、かなり少なく抑えられてたもの。場を解っているというか、自分の影響を解っているというか。わたしなんかのレベルじゃ、到底敵わないわよ。

「ははははは! 中々、いやいや中々だ! 済まないなカリン殿、このように騒がしくて」

「いや、別に良いんじゃないですか? たかが(・・・)これぐらいで(・・・・・・)で騒ぐような、狭量な人達だけじゃないみたいですし」

「そう言ってもらえると助かる。我が国も、それなりに(・・・・・)人材が揃っていると自負しているからな」

「ご謙遜を」

 短く会話をし、わたしと国王さんはニヤリと笑い合う。うーわー、この人、スッゴい好きだわー。なんというか、楽しい感じがする。しかも、りっちゃんとこのお祖父さんみたいな感じがするし。

 そんなわたし達のやり取りに、今まで騒がしかった外野が愕然としたように静かになっていた。うん、ほとんどが小物って感じかな。……あれ? なんでそんな風に考えてるんだろ?

 ――はっ!? やばい、りっちゃんの一家に染められてる!?

「さてカリン殿。我が娘を助けていただいたようで、感謝する。このような、上からで済まないがな」

「いえいえ。わたしも、アイシアには色々と助けてもらいましたし」

「そうか。カリン殿とは、是非じっくりと話がしたいものだな」

「別に良いですよ? ただまぁ、出来れば邪魔が入らないような状態が良いですけどね」

 その言葉に、静かになっていた場内が再び騒がしくなっていく。

「王、なりませぬ! そやつ、どこぞの間者かもしれませんぞ!」

「山賊を撃退したというのも、策の内なのだろう!」

「そもそも、こんな小娘に山賊を撃退出来るわけがない!」

 …………ピーチクパーチクと、よくもまぁ煩く慣れるものだわ。でも、これで癇癪(かんしゃく)を起こすような短気じゃあ……もう無いはず。昔みたいな、荒れてた時とは違うもんね。

「ふぅ。喚くしか能がないのかしらね……」

 そんなわたしの(・・・・)言葉に、まるで自由時間の保育園みたいだった場内から音が無くなった。――いや、今まで以上に静かになったからそう錯覚しただけで、微かな音は聞こえてくる。

 ……って、あれ? なんでわたしは、挑発するようなことを言ってるの?

「だったら、誰かわたしに挑んでみる? そうしたら、嘘か誠かハッキリするでしょ?」

 ま、いっか。とりあえず微妙にストレスも溜まってきてたし、たまにはこういうのも悪くないかもね。

徐々に主人公を染め上げる計画(笑)

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