第四話/例えば魔法の説明とか色々な確認とか。
多分、解りづらい説明ばかりだと思います。作者自身、あんまり解っていないので(笑)
そして、とりあえず真っ先に説明する部分はしたはずです。
しかしまだ全部の説明が終わってないので、おいおい出てくると思います。
「うん、大体めぼしい国は分かったわ。じゃあ、次は魔法について聞きたいんだけど……」
言いながら、わたしはちらっと視線を動かしてとある場所を見る。そこには、めっちゃふかふかそうなクッションに寝ている鳥君の姿があった。……先生、説明責任は果たすべきだと思います! というか、クッションに寝るとか鳥君のくせに猫みたいだよ。
「魔法ですか?」
「うん。なんか、あの鳥君が魔法をかけてくれたとかで、アイシア達の言葉も分かるようになったんだよね。だけど、そこら辺を説明せずに投げ出して、『魔法の事はアイシア達に聞け』って鳥君に言われたからさ」
「『神鳥』が……。なるほど、だから会話が出来ていたんですね」
みたいですね。まぁ正直、『なんのこっちゃ?』ですけども。
というか『神鳥』って……。気になるけど、聞くのは後にしとこ。
「えっと、魔法というのは、魔力を使って行使される技術の総称です」
「ふむふむ。それで、例えば何が出来るの? やっぱり火の球出したり、空飛んだりするの?」
「確かにそれも出来ますけど、厳密に言えば何でも出来るんですよ、理論上は」
「……は?」
いや、そんなざっくばらんに……。しかも何でも出来るなんて、反則すぎるでしょ。
そんな風にわたしが固まってると、アイシアはまるで悪戯が成功した子供みたいな純真な笑みを浮かべて、クスリと笑った。
「えぇ、理論上では、何でも出来るということになっています」
「……あぁ、そういうことね」
からかわれた、というわけじゃないんだろうけど、ある意味言葉遊びみたいなもんだね。
『理論上』ということは、現実問題出来る事と出来ない事がハッキリあるってことだね。
「例えば、今カリンが言った『火の球』というのは一般的な魔法の一つですが、『空を飛ぶ』という魔法を使える者は居ないですね。せいぜい、宙に浮くのが限界です」
「ふーん……他には、何が出来ないの?」
「死者を生き返らすことは、どれだけ研究しても出来ないということが分かっています。けど、魔法は本当に何でも出来る力なので、何が出来ないか調べるのが難しいんです」
まぁ、死者蘇生なんてのは、ゲームみたいなご都合主義だけだよね。現実にそんなこと、出来るわけがないし出来ちゃいけないんだから。
「そして魔法というのは使い手によって千差万別するもので、その人にしか使えない個人で編み出されたものから、学校などでも教わる一般的に流通しているものまであるんです。しかもその流通しているものでさえ、個人によって様々変化することがあるんですよ」 ……んん? それは、一体全体どういうことかな?
「魔法って、決まった呪文を唱えたり〜とかするものじゃないの?」
「いえ、基本的には、何も言葉にしなくても魔法は使えますよ」
なんとっ!? 詠唱がない魔法なんて、ロマンが半減じゃないか!?
……いや、待てよ? リアルに詠唱なんてしてたら、格好の的なのか?
「そ、それじゃあ、魔法ってどうやって使うの?」
「えっとですね、魔法というのは魔力を使ってというのは、先程言いましたよね?」
首を縦に。流石に、今さっき言われたことをソッコーで忘れるなんて、こんな大事な場面じゃしませんって。
「一般的に確立されている原理で言えば、『魔力』で『想像』を『制御』して具現させたもの、それが魔法……ということです」
……うん。イマイチ分からん。
「私も、人に教鞭を振るえるほど魔法学に精通しているわけではないので、教材もない口頭では限界がありますね……」
「あー、なんかごめんね? 無茶言ってるよね、わたし」
「い、いえ! 口頭での限界があるのなら、実演を交えればいいんです!」
「そう?」
「そうです! では、私が今から簡単な魔法を使いますので、説明を続けますね!」
いや、それは嬉しいけどさ、なんでそんなに躍起になるのよ?
とか考える間に、アイシアの掌にはピンポン玉ぐらいの光球が浮かんでいた。おぉ……初、目に見える魔法だよ!
「今私は、光球を『想像』しながら『魔力』を使いました。そしてその『想像』は、『制御』された『魔力』によってこうして具現化されたというわけです」
「……ふーん、なるほどなるほど……」
つまり、『魔力』は燃料で『想像』が設計図、『制御』は抵抗器みたいなものかな? ……なんか、それぞれ例えがバラバラな気がするけど、分かればいいよね。
「ねぇアイシア、『制御』っていうのは常にしていないと駄目なの?」
「べ、別に、そういうわけではないです。その魔法を操作でもしない限り、『制御』は発現の時にしか必要としませんから。……それに、『制御』はほとんど意識して行いませんし」
「そうなの?」
「はい。手加減したり力をいつもより込めたり、そういうことを意識しない限り『制御』は無意識に行われます。端的に言えば、『制御』というのは『慣れ』でもありますから」
「それじゃあ、『想像』さえ確かなら魔法は理論通りに使えるってこと?」
「一応、自分の『魔力量』で出来る限りなら、そうなりますね。もし自分の『魔力』以上のことをしようとすれば、魔法は不発で『魔力切れ』を起こすでしょうから」
なるほど、身の丈は越えるなってことね。
「じゃあ、魔法を使うには反復練習して、『制御』に慣れないといけないのか……」
どうせなら、わたしも魔法使いたいもんね。少しがんばろうかな、練習。……あれ? 何か重要な事を忘れてる気がするけど……――あ。
「アイシア、わたしって魔法使える?」
「はい?」
「いや、今更だけど、わたしに魔力なんてあるのかなぁって」
だって、魔法なんて存在してないしね、あっちでは。あったとしても、小説とかゲームとか、創作の産物にだし。
「えっと、それは問題ないと思いますよ? カリンはすでに、魔法を使ってましたし」
…………なんですと?
「え、いつ?」
「山賊を撃退している時です。あの、何かを叫んで跳び蹴りをした時に……」
――ライトニングスマッシュかっ!! うわ、ついつい叫んだのが、『想像』になってたってわけ!?
「凄かったですよ〜。一切の淀みがない『魔力操作』に、瞬間的に発現した『想像』。『制御』も問題なさそうでしたし」
……うわぁ、なんてお手軽に魔法を使いこなしてるんだ、わたしって奴は。
ん? でも、あれで出来たってことは、本当に『想像』――『思う』程度で魔法が使えるってこと? だったら、アニメやらゲームやらの技が使えるってことじゃん!?
うーん、チートっぽいなぁ。
「でも、あの時は凄く驚きましたよ? だって、魔法を格闘術に使ってましたから」
「へ? それって、どういうこと?」
「あのですね、魔法を戦闘の基盤として使える人って、そこまで多くないんですよ。それに魔法が使えるのなら、基本的に魔法でしか戦わないですから」
うん? また何か引っ掛かる感じなのが現れましたよ?
「ごめんアイシア、その辺り詳しくお願い」
「え? あ、はい。えっと、先程も言った通り、魔法を戦闘の基盤にする人は少ないんですね。何故かと言いますと、個人の保有魔力には『多い』か『少ない』かの極端しかないんですよ。で、多い人はそのまま魔法を使えばいいんですけど、少ない人はそうはいきませんよね? だから、そういう人は武器を使う戦い方になるんです。で、そういう『少ない』人は統計では全体の六割居るらしいので、結果魔法の戦闘使用に堪えられる人は少なくなるんです。別に魔法を使えなくても、冒険者や騎士にはなれますからね」
なるほど、魔法を使える――『魔力』が多い人は貴重な人材なわけか。そりゃ確かに、武器を扱うのは訓練次第で誰でも……は言い過ぎだけど、たいていの人は出来るからねぇ。
「それに、魔力が多い人も全員が戦闘をしたいってわけじゃなくて、魔法の研究をしたり魔法医になったりするので。だから冒険者に限らず、魔法を戦闘に使える人は少ないんです」
「はー、色々あるもんだねぇ」
「その極一部も、基本的には魔法の修練しかしないので、体力は別にしても近接戦闘は苦手なんですよ。まぁ、中にはそうじゃない人も居ますけど、たいてい素人に毛が生える程度の実力しかつきませんね」
うわ、辛辣。いや、多分それが事実なんだろうけどね。
となると、この世界の魔法使いは、一般的なイメージの魔法使いで良さそうかな? 魔法は強いけど接近されたら弱いみたいな。
……なら、元々格闘系のわたしは、異質も異質ってことかぁ。まさにトリックスターな立ち位置だこと。
「そういえば、魔法を使う人になんか決まった呼び名とかある? やっぱり、魔法使い?」
「いえ、世間一般には、『魔法士』と呼ばれていますね」
ほほう、『魔法士』ねぇ。中々カッコイイじゃないの。
……よし、とりあえず名乗るなら、『拳系魔法士』にしよう。んで魔法関係を生業にするなら、『職業魔法士、拳系!』って感じかな。
「――あ、そういえば」
と、今まで説明を理解するのですっかり忘れてたけど、聞くことで大事なやつがあったわね。
「喋らせっぱなしで悪いんだけど、あの時どうしてああなってたか、聞いてもいい?」
まっすぐアイシアの眼を見て問い掛ける。この質問は、今までみたいな『常識的な事柄』とは全く違うからね。
対するアイシアも、一切視線を外すことなく頷いた。……強い子だね、流石は王族かな?
「はい。カリンには危ない場面を助けていただいたので、それぐらいは応えてみせます。……ただ、少々身内の恥になる部分もありますので、この件は他言無用に願います」
む? 予想してたより、かなり重い話かも。下手すれば、権力闘争とか国家間問題に首を突っ込んじゃうのかなぁ……。
「私達は、先日行われたソルナーレ王国の式典に参加しておりました。式典は無事終了し、ラッツフィラーへの帰路につき我が王国領内へ入った最初の休息地点で休んでいる時、あの山賊一味に襲撃されたのです」
「……あれ? わたしが介入した時はアイシア一人だったけど、護衛の人わりと居たよね? 何であの時一人だったの?」
「えぇ……襲撃をしてきた山賊達は、こちらの数を圧倒的に上回る物量で攻めてきました。質で負けることはなかったのですが、押し切られて私に被害が出ては危ないと判断したディオルドが、私を馬車に乗せ一人だけ逃がしたのです」
「もしかして、山賊に追い付かれて馬車を破棄して逃げた……とか?」
「いえ、そうではありません。山賊の追っ手は幸い無く、無事襲撃から逃げられました。しかし、御者を勤めた者が奴らと内通していたらしく、待ち構えていた山賊の本隊に連れ去られそうになったのです」
……あぁ、それで山を一人で逃げたのか。で、ドレスなんかで山中を走り回ったから、あれだけ傷だらけだったんだね、身体も服も。
というか、さっきから横槍がことごとく的外れだったな、わたし。……あれ? 本隊ってことは、わたしがぶっ飛ばした中に『頭』が居たのかな?
…………うわぁ、わたしこそ、超危険だったんじゃん! 勢いとはいえ、そんな奴らに向かっていくとか自殺行為もいいとこだよ!
いや、この際それは深く考えないでおこう。下手すれば命が失くなっていた場面なんて、考えたくないけど今更だし!
「えっと、つまり……本来なら有り得ない御者が裏切り者ってことは、誰かがアイシア――王女を狙っているってことでいいのかな? しかもそれを出来るということは、内部に居て……それもそれなりに権力を持っている者の犯行だ、と」
「一概にそうとも言い切れませんが、その可能性は高いでしょうね……」
ん? いやいや、この場合はそれが筆頭でしょうよ?
「ねぇアイシア、御者ってどういう風に選ぶの?」
「え? あ、王家に昔から付き合いのある専属の家系の者を登用するのが、普通ですね。もし何らかの理由でそれが出来なければ、貴族の人達から――」
あ、固まった。ということは、何か思い当たることがあるのかな?
「それで、今回はどうなってたの?」
「あ、あの……詳しくは王都に戻って調べない限り、分かりません……」
うーん、それは少しばかり無用心だね。仮にも王家の人間なら、身辺について最低限知っておかないと。特に、今回みたいな『外』に行く時なら。
まぁ、正直りっちゃんの受け売りだけどね。いや、りっちゃんでさえ、受け売りだったのかな。
確か、『上に立つ者は、用心深いに越したことはない。怨まれることも当たり前だから、何かの変化に機敏であれ』……とか言う感じだったはず。ぶっちゃけ、当時のわたしにはよく分からなかったけど、色々と首を突っ込んでいるうちに、何となくだけど少しは分かった気がする言葉だ。……わたしが偉くなったわけじゃないからね?
「でもま、アイシアがこうして無事で良かった、で今は良いんじゃないかな?」
「カリン……ありがとうございます」
……うん、今はそれで良いんだよ。どっちにしろ、わたしが出張る規模の話じゃないしね。
というわけで、こんな益体もない話はこれで終了だ!
「うーん、ずっと話してたら、いつの間にか時間経ってんね〜。――そうだアイシア、一緒にお風呂入らない?」
「ふぇっ!? おおおっ、お風呂ですか!?」
「うん、お風呂。……あ、お風呂ってないのかな?」
「いいいいえ、いえいえ! ありますよ、バッチリありますよお風呂!」
おー、ちゃんとお風呂あるんだ〜。日本人としては、そこは譲れない部分だよね! あと、乙女としてもねっ!
「んじゃ、早速入りに行こう! 今日は色々あって汗かいたし、早くさっぱりしたいのっ」
「わ、分かりました! 私も覚悟を決めます。仮にも王家に連ねる者ですから!」
何の覚悟よ? アイシアってば、お風呂嫌いなのかな?
まぁ、だとしても今最優先なのは、何と言ってもお風呂なのよ!
深夜。星明かりと月明かり、そして柔らかな街灯がわたしを照らしていた。街灯と言っても、現代日本にあるような煌々と照らすものじゃなくて、歩くのを補助する程度しかない光量のものだ。
そんな、石畳やら異国情緒溢れる町並みをぼんやり横目で見ながら、わたしは窓際に座り込んでいた。
『……眠れないのか?』
「うん……ちょっと、ね」
気遣うような鳥君の声に小声で返事を返す。その声に昼間みたいな元気がないのは、自分自身分かっている。
「ねぇ鳥君……貴方なら、わたしが『こっち』に来た理由を知ってるんじゃないの?」
『何故、そう思う』
「んー、明確な理由はないんだけど、強いて言うなら勘かな? あと、何となくそう確信出来るってのも、あるけど」
ぼんやり視線を空に移す。そこには、日本なんかでは見れないほど多くの――かと言って山中よりは少ない星々が瞬いていて、地球と同じく月が一つだけ浮かんでいた。
『確かに、我は汝が世界を渡った理由を説明出来る』
ちょっと遅れて答えてくれた鳥君は、やっぱり予想通りの言葉を返してくれた。
「お願い、教えて」
『……汝がこちらの世界に来たのは、まごうことなき汝の意思だ。あの時、汝は『声の主を助けたい』と一心に願い、その思いが魔法となったのだ』
「魔法って……そんなの今まで使えなかったのに?」
『恐らくだが、我のせいだろう』
「……どういうこと?」
『我が汝に――華凜に触れたせいだ。その時に、我の魔力が華凜の魔力を引き出してしまったのだろう』
引き出す? それは、わたしに元々『魔力』があったってこと?
『汝の世界には、魔法を無効化する要素が蔓延しておる。……いや、『魔法』という存在を許容出来る容量が、世界には殆ど無いというのが正しいかもしれぬ』
「んん? その言い方だと、地球にも魔法は存在しているってこと?」
『然別。真の占い師や様々な奇跡の体言者などは、ほぼ魔法を使えるはずだ。しかし、世界自体に魔法を受け入れる隙間が無い故に、魔力があっても魔法が使えないのだ』
……なるほど、だから容量か。
「だったら、わたしが使えたのは少しおかしくないかな? 元々あった魔力が、例え鳥君に引き出されたとしても、魔法は使えなかったんじゃないの?」
『何事にも例外というのが存在する。あの世界では、我は異物故に制約を受けない。そして我に触れていた華凜も、一時的に例外化したのだろう』
「なるほど……。だったら、あの時案内するみたいに飛んだのはなんで?」
『あのままでは、華凜が消滅していたからだ。あの時、華凜は例外としての魔法を使った。しかしそれは暴走とも言えるぐらいに強大で、世界の抑制力が働いたのだ。もしあの場で留まっておれば、世界から弾かれどこにも存在を許されず、『無かったこと』として消滅していたであろう。故に、正しく『世界移動』をさせるために導いたのだ』
……なに、それ……。下手すれば、わたしは存在を『無かったこと』にされてた……? 死ぬんじゃなくて、わたしが――『七河 華凜』が存在していなかったことにされていたの?
思わず、両手で身体を抱きしめる。それでも、恐怖で身体が震える。涙が勝手に溢れてくる。
『華凜。大丈夫だ、汝は此処に存在している。必ず、元の世界にも返してみせる』
鳥君の声。わたしをちゃんと、肯定して認識して、『華凜』と呼んでくれている。
――あぁ……良かった……わたしはちゃんと、『七河 華凜』で良いんだ……。この思い出や考え方は、間違いなく『わたし』なんだ。
「……うん、ありがとう鳥君。何だか、助けてもらってばっかりだね」
『全ては我のせいだからな。我は全力を以って、華凜を助ける』
心強い言葉。この世界じゃ、わたしは一人ぼっちみたいなものだしね。家族も、幼なじみも、親友も、知り合いも、顔見知りも、常識も、生活も、全部あっちに有るものだから。
だから……元の世界に帰るまで、この世界でのわたしを、ここから始めよう!
そのために、まずは鳥君に言っておかないとね。
「鳥君、それは違うよ? どんな原因や過失があったとしても、それがわたしの意思で起こった事なら、責任はわたしにある。だから鳥君は、わたしを手助けするぐらいでいいんだよ」
『華凜…………分かった、我は汝の『意思』を尊重しよう』
「ありがと」
明日からは、いつものわたしにちゃんと戻るよ。明日からが、『七河 華凜』の本当の異世界生活がスタートするんだから。
一応過去最高文字数。
そして何故かシリアス。
ちなみに『世界移動』については、それなりの設定があります。
『神様が〜』という類のことでは、ありません。
次回は多分幕間な予定。