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第二話/例えば女の子が襲われてたからついカッとなって助けた。

 えーっと、これは何事かしらん?

 ……よし、状況確認! 

 まず、わたしは朝起きてから洗顔と歯磨きをして、日課のランニングに出た。帰ってきて朝食食べて、シャワーじゃ嫌だったから湯を張ってすっきりゆったりした。んで、母上様と優雅に朝のティータイムをして、逃亡して、自然公園に行った。そしたらなんか綺麗な鳥君が現れて、変な助けを呼ぶ声が聞こえてきて、いつもみたいに(・・・・・・・)救助に向かって……山賊に襲われてる女の子が居た。

 OK、わたしは今日も冴えてるな。完璧な状況確認だ。分かったのは、『意味が分からない』ということだけどさ!

 つーかなにさ山賊って! 法治国家日本に、そんなもの生息してるわけないじゃない! レッドゾーンアニマルもビックリだよ! しかも、斧やら鉈やら剣やらで武装してるし、獣の皮で出来たような鎧来てるし! 銃刀法嘗めんなっ!

 ふうぅぅぅ……。なんか分からんが、力いっぱいツッコミを入れてしまったわね。しかも心の中でだから、全く意味がないし。うわぁ、むなしー。

 で、結局何だろうね、この状況は?

 銀髪(・・)のドレス着た女の子が一人と、それを囲む山賊風の男が七人。スッゴいファンタジーのお約束シーンみたいだけど、映画の撮影かな? 全員ポカーンとしてこっちを見てるし、邪魔しちゃってるよねわたしってば。

 しっかし、外国の映画かなぁ? あの女の子も、綺麗な銀髪だし。地毛だよね、あれ。カツラとか染めたんじゃ、あんな透き通った銀髪なんかにならないだろうし。

 ……あれ? でも、こんな綺麗すぎる(・・・)銀髪って、現実にあるのかな? なんかこっちを向いてる瞳の色が、紫なんて普通じゃありえない感じのなんですけど。

「※※※※!」

「へ?」

 うわ、今アホっぽい声出た!? いやいや、しょうがないって。だって今あの子、聞いたことない言葉を喋ったんだもん!

「※※、※※※※※?」

「※※※※、※※※※※※※!」

 ちょっ、周りの山賊どももかい! なに、この人達何人(なにじん)!?

 混乱も極みに極み、わたしは視線をあたふたとさ迷わせた後に、ふとある事に気付いた。

 ……ドレスが破けてる? それに顔とか身体にも傷があるっぽいし。というか、何でドレスが不自然に(・・・・)赤く染まってるの(・・・・・・・・)? あと、何だか表情が少し本気で憔悴してる。……つまりそれって、この状況は偽物――お芝居じゃない(・・・・)

 山賊風の男達がまだ何か言ってるみたいだけど、わたしは女の子から目が離せなくなっていた。そして身体の奥から、熱い『何か』が沸き上がってくる。

 その熱いものは、わたし自身よく知っているもの。一時期、しょっちゅう感じていたもの。すなわち――『怒り』という感情。 何故か影が差したので見てみれば、ニタニタと下卑(げび)た笑みを浮かべた若めの髭面が、手を向けてきていた。しかもゆっくりと。

 まるで、調子に乗ってるチンピラが女を組み伏せようとして、自分勝手に優越感を得ている場面のようだった。……あぁ、実際その通りなのか。

 実に、実に――不愉快だ。

 そう思った瞬間、身体は勝手に動いていた。男の手をとり二歩前へ。一歩目は普通に前進し間合いを詰め、二歩目は男の軸足を思いっきり払う。同時、グンッ! と男の手を引くと、まさに合気道の指南演舞の如く綺麗に、男の体が半回転して背中から地面に落下した。

「※※※――」

 投げた男が何かを呻いている。多分、悲鳴なんだと思う。だって、受け身がとれないように投げたんだから。

 でもそんな雑魚を、わたしはいつまでも見てるわけはない。視線は再び、女の子へ。

 何だかさっきより呆然としてて、『信じられない』という表情をしている女の子に、わたしは笑顔を向ける。なるべく安心感を与えるような、そういう笑顔を。

「大丈夫、すぐに助けるよ」

 多分向こうもわたしの言葉は分からないと思う。だって、日本語って世界でも有数の難しさを誇る言語とか、どっかで聞いたことあるから。……そのわりに、外国の有名人はリップサービスで、片言な日本語を喋ってるけどね。

 さて、視線を女の子から外し、残りの山賊を見る。どうやら奴らも、わたしがいきなりこんな事をするなんて思っていなかったのか、キョトンとした表情を浮かべていた。

 うん、もし映画の撮影だとしたら、誠心誠意謝ろう。……多分、そんなことにはならないだろうけど。わたしの勘が、こいつらは『敵』だと言っているから。

 わたしは、わたしが今まで培ったわたし自身を――わたしの勘を、今は全面的に信じる!

「――ふっ!」

 短く息を吐き、一番近くに居たハゲ頭へと接近し、がら空きの胴に右足でミドルキックを打ち噛ます! すると、棒立ちだったハゲ頭はまるでギャグ漫画か格闘漫画みたいに、横くの字で吹き飛んでいった。

「弱っ!? というか脆っ!」

 確かに結構力入れて蹴ったけど、そんな風に吹き飛ぶほどじゃないでしょ!? わりとマッチョ体型でそんなリアクションって、ありえないって! その筋肉は飾りか!

「※※※※※!」

「っ、ヤバ――」

 ハゲ頭に気をとられてたら、また別の山賊――今度はボサボサ頭が何かを叫んでから、こっちに向かって剣を振り下ろそうとしていた。でも、わたしはまだ片足上げたままで、このままだと攻撃が当たる!

「えぇい、まだだ!」

 無意識に口から言葉が出て、軸足となる左足に力が入る。

 ギュルリと身体が回転して、景色が流れていく。全身が独楽(こま)のようになった感覚と同時、間近をヒュン! と何かが通り過ぎる音と気配がした。

 でもわたしの身体に異常はない。つまり、回避に成功したってことだ!

「どっせーい!」

 そして回転に合わせて右足を振り上げ、相手の頭があると推察した場所へと後ろ回し蹴りをかます。

「※※※※!?」

 ――手応えあり!

 確かな感触を感じてから、右足を地面に下ろして回転を止める。目線で確認したら、さっきのボサボサ頭は結構吹き飛んだらしく、案外離れた場所で地面とラブシーンを演じていた。

「まだ、やる?」

 残りをざっと見渡し、わざと挑発的な笑顔を浮かべて問い掛ける。ヘタレな奴らなら、これで逃げ出すけど、頭悪いチンピラなら怒って向かってくるはず。……さて、こいつらはどっちだ?

「※※※※※!!」

 よし、馬鹿側だな。叫びながらこっちに向かってくる。でも残念、わたしには何を言ってるのか分からないわよ?

「てりゃあ!」

「※※!?」

 まず一人、まっすぐ向かってきた眼帯野郎の鉈を避け、顔面にグーパンチでノックアウト。

「ハァッ!」

 次、そのすぐ後ろに居た二人目のハゲ頭は、剣を振りかぶった瞬間に踏み込んで、腹に蹴り入れて撃退。……うん、面白いぐらいに吹き飛んだよ。

「※、※※※※!」

「※※※※※!」

 うぉ、最後は二人同時ですかよ! とりあえずなんか目が血走ってるから、一回距離をとるためにカカッとバックステッポー!

 そして地面にあった石を拾い、向かって右側の奴に投げる。その数は三つ。

 ついでに投げたと同時、助走付きで跳び上がる。

「――ライトニングスマッシュ!!」

 ついつい技名を叫びながらの跳び蹴りは、なんかア然としてる左側の奴の顔面にクリーンヒットし、錐揉み回転で飛んでいった。そしてどうやら石が当たっていたらしい最後の一人に、今度は左足での上段回し蹴りをかまし、吹き飛ばす。

 足を振り抜き、半回転した背後からドサッと何かが地面に落ちる音を聞き、わたしは人差し指を天に向ける。

「……ふっ、完・全・勝・利!」

 高らかに勝利宣言をしてから、ふと周りを見てみる。……うん、確かに全員ぶちのめしたわね。

 とりあえず危険が無くなったと認識し、首を回して解してから、手を(はた)いて付いていた土を落とす。

 そしてわたしはターンしてから、小走りで襲われてた女の子へと近付いた。けど、近くに行ったらビクッ! と身体を硬直させて、少しだけ後ずさられた。

 ……あー、ちょっとはしゃぎすぎたかな? 流石に怖がらせちゃったかー。

 これ以上近寄るのはマズイと思い、どうしたものかと人差し指で頬を掻いていると、空いていた手をガシッと掴まれた。

「※※※※」

「え?」

 見れば、何やら少し泣きそうな雰囲気で女の子がわたしの手を掴んで、まっすぐ視線を向けてきていた。でも言葉が通じないのを思い出したのか、すぐに凄く困った表情を浮かべてしまった。

 それでも必死に何かを伝えようと、女の子は何回か喋ってくれてたけど、それに反して泣きそうな雰囲気はどんどん強くなっていく。

 ……うーん、言葉の壁っていうのは、本当に厄介だね。何かを伝えたくてもハッキリ伝えられなくて、凄いもどかしい。――まぁだったら、言葉を使わなければ良いだけなんだよね、これが。

「※、※※※?」

 抱きしめた腕の中、女の子が慌てながら何かを言っている。多分、いきなりのことに驚いたんだろう。

 でもそんなことは一切合切無視して、わたしは女の子を抱きしめながら頭を優しく撫でる。すると一瞬ビクッとしながらも、わたしを跳ね退けるようなことはしないでいてくれた。

 そうやって何度か頭を撫で続けていると、やがて強張っていた女の子の身体から力が抜けていった。……うん、少しは落ち着いてきたみたいだね。

 それを認識してから、女の子を腕の中から解放する。こういうのは不謹慎だけど、抱き心地が良かったから少し名残惜しかったり。

「落ち着いた?」

 にっこり笑って話し掛ける。まぁ、言葉が伝わらなくても、気遣いの気持ちは伝わるでしょ。

 対する女の子は、どこかポーっとした表情でわたしを見上げてきた。……やばい、潤んだ上目遣いとほんのり赤くなった顔とか、めちゃくちゃ可愛いんですけど!

 いやいや、わたしはノーマルだから。確かに可愛いけど、こんな純真そうな女の子を襲うとかないから、そんなのさっきの山賊と同じだからな、気をしっかり持てわたしー!!

 何とか意識を保ち、今度はわたしが落ち着くために二、三歩下がって、深く深呼吸をする。すーはーすーはー、ってね。

 その甲斐あってか、さっきまで感じていた変な気持ちはすっかり鎮まり、頭はいつもみたいな感じに戻ってきた。……うーん、はしゃいだ影響が残ってたのかな? とりあえず激しく動くことはもうないだろうし、いつものようにアレを銜えとくか。あっちも吸っときたいしね。

 そう決めてポケットに手を入れ、中から『改造キセル』を取り出そうとした瞬間、ガサガサ! と大きな音がした。――まだ敵が居た!?

 油断した自分に内心で舌打ちをしつつ、女の子に危害が加わらないよう立ち位置を庇うような場所にしよう――として、鋭い一閃が煌めきわたしは回避を優先させた。何故なら、そのまま移動してたら確実に直撃してたからだ。

「※※※※※※、※※※※!」

 ちょうどわたしと女の子を分断するように割って入ってきたのは、さっきの山賊とは全く違う出で立ちをした人間だった。

 白く輝く鎧は全身を隠しており、構える剣は控えめな装飾ながら質の高さが伺える空気を出していた。性別は、声から察するに男。だって渋かったから。

 そんな、一言で言うなら『騎士』という感じの人物は、後ろに女の子を隠しながらわたしに殺気を――山賊なんかとは全然違う、抜き身の刀を突き付けられてるような、鋭い殺気をわたしに向けていた。

 ただ、わたしはその時に気が付いた。だってそうでしょ? 女の子をわたしから守ろうとしてるんだよ? スッゴい勘違いで迷惑だけど、つまりそれはこの人が敵じゃない(・・・)ってことなんだから。

「※※※※※! ※※※※※※※※※※※!?」

「……※? ※※※※、※※※※※?」

「※※※※※。※※※※、※※※※※※※※」

 女の子が何かを叫び、男の人が困惑したみたいな声で聞き返す。それにまた女の子が言葉を返し……なんてことが続いていく内に、男の人からの殺気が無くなっていき、変わりに申し訳ないような困ったようなという感じの雰囲気が漂ってきた。……多分、わたしが敵じゃないこととか、助けたこととかを説明してるんだろうなぁ。

 そんな何とも言えない勘違いが終わっていく光景を見て苦笑していると、“バササ……”と羽ばたきの音が聞こえてきて肩に重さが加わった。

 何だろう? って思って見てみると、あのいつの間にか居なくなっていた鳥君が肩に止まって、一鳴きしていた。

「鳥君じゃないの。姿が見えなかったから、わたしが遭難したのかと心配したじゃない」

『我の事は心配しなかったのか?』

 どこか拗ねたような声にちょっと笑いつつ、鳥君の身体を撫でながら言葉を返す。

「あはは、ごめんごめん。あの時は慌ててたからさ、色んな意味で」

『むぅ……確かにそうであったな』

 理解はしたけど納得はしてない、というのはこの事かと思ってしまうほどな声音にまた笑いつつ――ふと重大な事実に気付いた。

「……あれ? 何で普通に会話出来てるの?」

『うむ? うむ、我がそういう魔法を使っておるからな。汝の頭に直接語りかけておるのじゃ』

 そうかー魔法かー便利だねー魔法ー。

 ………………はい?

「魔法ってどういうことーー!?」

『どういう事、と言われてものう……。とりあえず説明なら、あっちで固まっている奴らに話を聞くと良いぞ』

 固まっている奴らって……あぁ、あの二人ね。いつの間にか静かになってたのと鳥君との会話に夢中で、ちょっと忘れてたわ。

 うーん、でも言葉が分からないからなぁ、聞くにもどうしたものか。と、そんな風にわたしが考えていると、先に向こうのフリーズが解けたみたいで声が聞こえてきた。

「『神鳥』と、会話をした……だと?」

 あ、渋い声。というか、普通に言葉が分かる!?

『我の魔法のおかげじゃな』

 なるほど……。魔法すげー!

鳥君は何気に重要人|(?)物です(笑)

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