第十二話/例えば厄介事になりそうでも逃げられない場合もある。
今回短めです。
「パーティー、ですか?」
いきなり言われた言葉に、わたしは思わずオウム返し気味で疑問を口にしていた。
「うむ。アイシアの無事を祝う主旨のものと、カリン殿のお披露目をするパーティーを開く」
……お披露目ってなんだよ、おい。
別に、アイシアが無事だったのを祝うのはいいよ? でもさ、なんで一緒にわたしを宣伝するのかね、国王さんや。
「ちなみに、どんな人が集まる予定で?」
「爵位持ちの貴族、要職に就く者、国外からの客人だな。他にも一応、それらの家族が来るだろう」
どんだけ集める気!? ――いや、お姫様が助かった祝いなら仕方ないのかなぁ?
だとしても、そこにわたしが関わるのはちょっと嫌だな……。だって、めちゃくちゃ厄介事に巻き込まれそうだし。
「……辞退することは出来ます?」
「すまんな、諦めてくれ」
一縷の望みをかけて聞いてみても、答えは予想通り。……というか、ニヤニヤした顔で返されましたよ。
「よし、殴っていいですよね?」
むしろ答えは聞いてないけど!
「まぁまぁカリンちゃん、抑えて抑えて」
ちっ、援軍か。命拾いしたわね国王さん?
銀髪王妃さんに言われ、渋々上げていた拳を下ろす。もちろん、ちょっと怨みの目線を国王さんに向けながら。
そんな目線を受ける国王さんは、浮かべていたニヤニヤ笑いを少しだけ引き攣らせていた。
「……カリン殿。今の拳、俺の見間違えじゃなければ、何やら光り輝いていたんだが……」
「えぇ、そうですね」
国王さんの問い掛けに、さらりと呆気なく返す。
光り輝いていた? そりゃそうよ、なるべく派手にやるつもりだったんだもの。
ちなみに、国王さんの一人称はプライベートだと『俺』になっている。公務では、ちゃんと『私』になってるけどね。
「えーっと、とにかくわたしはそれに出ないといけないんですよね? ――というか、すでに決定事項なんでしょ?」
「うむ。宴を開く旨を記した手紙には、重大発表があるとも書いてあるからな」
勝手に人を宣伝しないでほしいんですけど。というか、せめて事前に許可を取って下さりやがれ。
「……で、パーティーはいつやるんですか?」
声が不機嫌になっているのが、自分でも分かる。でもしょうがないんだよ! りっちゃん一家に気に入られてから、一般人だってのに社交界デビューさせられたんだから!
逃げ場をいつの間にか封じられて、メイドさん達に服を剥かれて、弄られて、着替えさせられて……。リアル着せ替え人形だったわね、あの時は。
そんなこんなで、わたしにとっては全く意味も縁もないパーティーに参加させられて、小物連中の相手をしたり古狸の相手をさせられたり……。泣くかと思ったわよ、色んな意味で。
しかも、何回か事件に巻き込まれたりしたし。……まぁ、そうなる一番始めの理由は完全に自業自得だったし、色々経験も出来たから怨むことも微妙に出来ないんだよねぇ。結構助けてもらってたし。
だけど――いや、だからこそ! わたしはお偉方のパーティーって、好きじゃないのよ!
……あー、これが何も知らない普通の女子高生とかだったら、状況に浮かれたりするのかなぁ……。
なんてうだうだ考えていたら、その間に国王さんが答えを返してくれた。――けど、ちょーっとツッコみたい解答だった。
「……国王さん? 今なんて言いました?」
「パーティーを開くのは、今日から二日後だ、と言ったんだが?」
…………おーけー、なるほど。よく分かったよ、どういうことか。
「明後日にパーティーを開く、というだけなら話は別だったけど……。国王さん、そのパーティーには国外からもお客さんが来るんですよね?」
「あぁ。すでに了解も貰っているから、今頃はこちらへ向かってきている道中だろう」
「……はめたわね、国王さん」
ジト目で睨みながらの言葉に、国王さんは楽しげな笑顔を向けてきた。
つまりはこういうことだろう。
まず、このパーティーが決まったのは恐らく相当前だろう。多分、アイシアの一件が報告されてから、計画だけはすぐに立てられたんだと思う。じゃないと、国外からのお客さんとかも来れないはずだし。
来るお客さんがもしもその国のお偉方だったとしたら、日程とか護衛とか、様々な問題が出るはずだからね。こっち――『ラッツフィラー』への返事を出すまでも考えると、メールとかファックスもないこの世界じゃそれなりに時間が掛かるはずだから。
――あ、でももしかしたら、わたしが知らないだけでそういうのもあるのかもしれないわね。電話みたいなのとかも。
でもまぁ、多分来るのは周辺国かな? 遠い国だと、間に合わないだろうし。
……あぁ、だから最近城の中が慌ただしかったり、少し緊張感が増してたのか。すでに来ている人も、何人か居るのね。
ま、わたしがこの王城に居候してから、今日で五日目だもんね。そりゃ、続々と到着してるわ。
とか言っても、結構外に出てるからそういう人とは出会ってないけどね、わたし。
ちなみに、まだ『お仕事』はしてません。だからお金は、ギルドで細々稼いでますよー。現状、ほとんど生活費もかからないから、地味に貯まってるんだけどね。
なんか知らないけど、まだ『お仕事』をする段階じゃないんだってさ。……今まで謎だったけど、このパーティーが一枚絡んでるわけだ。
そういうことで、まさしくわたしの『お披露目』なパーティーでもあるんだろう。
――やってくれるわね、このオッサン。わたしの性格を、こんな短時間である程度まで把握しやがったわ。
確かに、わたしはこの人達がわりと好きだし、色々と借りがある。――ま、同時に貸しもあるんだけど。
まぁ多分わたしだけじゃないと思うけど、わたしは『好意』を持つ相手にはかなり甘くなる。身内的な意識になったら、相当だ。逆に、『敵認定』をした奴には一切容赦をしない。……まぁ、殺す殺さないまではいかないけど。
別に、これだけならほとんどの人がそうだろう。だからこれは、わたしだけの事例じゃないはず。誰だって、嫌いな相手に本心から優しく出来るわけないって。出来ても、表面だけ。衝突したくないから、厄介事が嫌だからそうするだけ。
だけどまぁ、昔の影響か今でも結構振り幅が大きいんだけどね。一応、普段生活するだけなら問題はないはず。今は、かなり丸くなったと思うし。
……でも、一応釘は刺そうかな。
「国王さん、とりあえず言っておくけど……あんまり勝手すると、わたしはこの国を出ていくからね」
「それは困るな。気をつけるとしよう」
うーわー、釘刺す意味も効果もないわー。この人、理解度が半端ないわね。
例えわたしがこの国から出ていっても、『ラッツフィラー』としてはマイナスにならないもんねぇ。何故なら、わたしという存在はイレギュラーだから。
だって、別にこの国に仕えてるわけじゃないから、国力や保有戦力が落ちるわけじゃない。わたしの立場は、この世界だと一介の冒険者にすぎないんだから。あの『仕事』だって、そこまで重要なものでもないと思うし。
あー、なんでわたし程度じゃ敵わない人ばっかり、わたしの前に現れるよ。
「分かりました、パーティーには参加させていただきますよ」
「助かるよ、カリン殿。断られたら、国としても個人としても恥ずかしいことになるところだからね」
いけしゃあしゃあと……。逃げ道を大体潰したのはあんたでしょうに。
なんて、溜め息が出るのを止められないやり取りを執務室でしたのが、二日前でした。
……そういえば、大々的な護衛を排除してたけど、わたしなんかと密談チックなことして大丈夫だったのかな、国王さん。
みんな大好き、テンプレ的イベントが始まります(笑)