第七話/例えば一泡なんてそんな遠慮せずどうぞ盛大に吹きやがれ。
今回、アニゲーネタ&天丼あります。
……いや、笑いのネタじゃないですけど(笑)
――この世界に来て、特訓を始めて気付いたこと、分かったことがいくつかある。
一つは身体能力の大幅な上昇。それはもう、戦闘民族な人が通常からスーパーの四段階目になったぐらい、馬鹿みたいに上がっていた。
鳥君の話だと、元の世界でずっと押さえ付けられていた魔力が解き放たれ、身体にかかっていた負荷が無くなったからだろうということだ。――多分、重たい装備を脱いでパワーアップする、格闘もののお約束的な感じだろう。
もう一つは、わたしに宿る魔力量。なんとこれが、普通の人間じゃ考えられないほどあるらしく、鳥君達みたいな『世界の魔力に近いモノ』と同じようなレベルらしい。
実質、魔法をいくら使っても魔力が枯渇するようなことは、余程がない限り有り得ないんだってさ。……まぁ、なんというか、チートだね。
ちなみに魔力っていうのは、どんなものにも宿っているんだとか。空気、大地、無機物、有機物などなど。人工物だって、材料から魔力が残留しているらしいし、作っている最中に入り込んだりするらしい。
なんでも魔力は、全てを循環しているとか。呼吸だったり光合成だったり、様々な風に巡っているから無くならないんだって。
そして身体能力上昇と規格外魔力量で、わたしは漫画やゲームのようなことが出来るのだ。
魔法は『想像』、つまり『イメージ』すれば使えるし、身一つで格ゲー的な動きも出来る。……ホント、人間止めちゃった気分だね。
ただまぁ、そんなゲームとかの技や魔法を使わなくても、わたしはオリジナルな魔法を作れるんだよね。なんといっても違う世界の人間だから、発想がこの世界の人と違うもの。その逆も、また然別なんだけどね。
そんなわけで、恐らくわたしはこの世界で最強なスペックを持った人間、ということになる。何故『スペック』なのかというのは、実力で敵わない人が絶対に居るはずだから。だって、たかが十七の小娘が、経験豊富な実力者に勝てるわけないし。
――だけどそれは、多分化け物的な強さを持っている人だけだと、思っている。自惚れが入っているだろうけど、事実なんだとも思う。だって魔法は、本当に万能だから。
だからわたしは、この力を変なことに使わないようにしないといけないし、変なことに利用されないようにしないといけない。
……ただまぁ、結局は自分の好きなように振る舞うだけだけどさ。
ちなみに何故こんな思考をする余裕があるかと言うと、試合が始まってまだ攻められてないからである。様子を見ているのか、はたまたわたしみたいな小娘に斬りかかるのは躊躇われるのか……。とにかく、目の前のイケメン――ナルバルさんは、何のアクションもしてこないのだ。
……うーん、これはわたしから攻撃するべきかな?
そんな風に考え、ちょっと相手から視線を外して溜め息を吐く。――だが、この行動がマズかった。
「ハァッ!」
「うわっ!?」
わたしが隙を見せた瞬間を見逃さず、ナルバルさんは一気に踏み込んできて袈裟掛けに剣を振るってきたのだ!
いきなりのことに動揺したものの、煌めいていた白刃を何とか回避。だけど、ちょっと動作を大きくしすぎたみたいで、続けて攻撃が来た!
「おわっ、ちょっ、ほっ!」
逆袈裟、突き、切り払いという連続攻撃を、見た目何とか、実際余裕で躱していく。ふふん、いつまでもあれぐらいの動揺、引きずらないよ?
なるべくギリギリに見せるのは、この後の展開を考えてのこと。ついでに、愚者諸君を少しからかうという、ちょっとしたお遊び。ただナルバルさんはわたしの行動を分かっているらしく、攻撃を繰り返すものの表情は驚愕に染まっていっている。
避ける時、わたしはパフォーマンスとして、なるべく大きく身体を使っていたりする。それもまた、『ショー』の会場を盛り上げる要因になっているはずだ。
「ナルバルさん」
大体盛り上げ終わり、そろそろ良いだろうって辺りで、わたしは付き合ってもらった相手に声をかける。するとナルバルさんは、剣を避けながら言葉をかけたことにか分からないけど、驚いて動きを止めてしまう。
「今から攻撃に回りますんで、防御行動は全力でしてくださいね?」
今までのことが何でもなかったように、わたしはニッコリと笑顔を向けて忠告する。
瞬間、ナルバルさんは全力で跳びずさる。その場所を、一瞬遅れてわたしの右足が通り過ぎていったのだった。
そして周りを見れば、突然のことにほとんどが呆然としていた。……それはそうだろう。何せ、劣勢だと思っていた小娘がいきなり攻撃に出て、なおかつ実力で選ばれたであろう騎士が全力の回避を見せたのだから。
だけど残念ながら、まだわたしの見せ場は終わってないのよ!
意気込み、『想像』をしながら、右手の指を小指から畳んでいく。全て畳み終わり拳が出来ると、『魔力』を『想像』に流して魔法を具現化させる。そして右の肩甲骨辺りに、噴射する小さな翼のようなものを感じた瞬間、ざわめきが訓練場を埋め尽くした。
「《衝撃のぉ――」
そんな周囲を無視して、わたしは地面へ右手をたたき付け、次の瞬間には天高く舞い上がっていた。
気分は『想像』した、あの負けず嫌いで殴り飛ばすことしか出来ない、不器用な少年だ!
「――ファァストブリットォォォッ》!!」
目標へ向かう最中に、拳のインパクトを増大させるため、魔力の噴射で身体が一回転する。そんな視界の中で、ナルバルさんがまた回避を選択しているのが見えた。
しかしそれに構わず――というか、止まることをせずに、わたしは魔法で強化された拳を地面に打ち付けた! すると、轟音と共に地面がめくれあがり、一切の視界を奪う土煙が発生した。
……というか、自分でもこの威力は予想外なんですけど。一度使ってみたかったから、実現可能な範囲でやっただけなんだけどなぁ。こりゃ、シェルブリット・バーストなんかやった日には、大変なことになりそうだわ。
とりあえず、魔法の効果が切れた右手から土を払いつつ、レーダーを展開。……うむ、ナルバルさんはあそこか。
相手の位置を確認してからレーダーを消し、再び頭に『思い浮かべる』。今度は特定の技じゃなくて、どちらかと言えば現象だけどね。
「《風早》」
魔法が発動した瞬間、激しい風が吹き荒れ土煙を全て吹き飛ばしていく。と、そんな中を、わたしはナルバルさんの居る位置まで一直線に駆け出していた。
そして風が全ての土煙を吹き飛ばし、視界が鮮明になる頃にはわたしはすでにナルバルさんの目の前に居て、魔法を発動させる準備を終えていた。
「《獅子戦――」
「それまでだっ、カリン殿!」
「吼》ぅえっ!?」
突然かけられた制止の声だったけど、わたしは反応出来ずに変な声を出すしか出来なかった。だって、声をかけられた時には動作は終わっていて、手首を合わせて突き出された掌底から獅子を模した魔力が具現化して、ナルバルさんを吹き飛ばしていたのだから。
「……えーっと……」
制止をかけられた意味を理解して、わたしは技を放った恰好のまま何とも言えずに固まってしまった。しかも場内も、一切の物音がしないという不気味さを見せている。……原因は、全部わたしだけどね。
と、とりあえずは、少しでも罪を軽くしよう! 『想像』して〜。
「《癒しの風》!」
大体五メートルぐらい吹き飛んだナルバルさんに、魔法発動ー。すると、薄緑色の風が倒れ伏すナルバルさんを包んでいき、数秒して消えていった。
んで、バッとザハツィンさんに身体を向けて、勢いよく頭を下げる!
「ごめんなさいザハツィンさん! 止まらなかったとはいえ、ルールを破ってしまって!」
「い、いや、止めるのが遅かったのも確か……。そこまで謝られることはない故、どうぞ頭を上げて下さい」
ザハツィンさんの寛大な言葉にホッと胸を撫で下ろしつつ、わたしはまだ少し恐々と顔を上げてまっすぐ立つ。ついでにざっと周囲を見渡せば、変わらずシーンとしている外野と、クレーターが出来ている訓練場がそこにあった。あと、未だ倒れ伏すナルバルさんの姿も。
「――あ。ザハツィンさん、ナルバルさんを早く診てあげないと! 一応回復魔法は試してみたけど、成功してるか分からないから!」
「あ、あぁ。確かにそうですな……。誰か、ナルバルを医務室へ!」
その指示に、慌てて何人かの騎士さんがナルバルさんへ近寄っていき、持って行っていた担架へと乗せて運んでいく。
うーん、大丈夫かなぁ……。一応技としては吹き飛ばし系だから、そこまで大事にはなってないと思うんだけど、なんかまだ加減が分からない部分があるから心配だわ。
「カリン!」
へ? アイシア?
なんでわたしを呼ぶのかしらと思いながら声が聞こえてきたほうを向くと、当人が思いっきりこっちに走ってきてた。しかもなんか、妙に足が速かった。
「カリンっ!」
「うわたたっ」
再び名前を呼んだかと思えば、走る勢いのままに飛び付いてきたよこの子ってば! 何とか受け止めて踏ん張ったから良いものの、下手すれば倒れて後頭部強打ですよ? もちろん、わたしのだけどね!
「怪我はありませんでしたか? いえ、あるはずは無いんでしょうけど、試合を見ているうちに不安になってしまって……」
……いやぁ、その断定はどうなのよアイシア。仮にも対戦相手は、貴女の国の騎士なんだけど?
「ないない。もうピンピンしてるから、そんな不安そうな表情しないの」
苦笑しながら、めっちゃ間近で顔を覗き込んでくるお姫様を引きはがし、地面に立たせる。……いや、だからねアイシア。なんでそんなに不満げなのよ?
「――っ!?」
「きゃっ!?」
頬を膨らませるアイシアに少し癒されていると、いきなり妙な気配を感じた。しかも、かなり大きなものを。
それを危険だと判断し、アイシアを抱き寄せてから一気に後ろに下がった。瞬間、青い炎がその場所を焦がしていった。……悠長に構えてたら、こんがりなんてレベルじゃなかったわね。
「貴女、中々やりますわね!」
「――《戒縛》!」
「きゃあっ!?」
着地すると同時、わたしは瞬間的に『想像』して魔法を発動させた。対象は、さっきの炎が飛んできた方向から聞こえた声で、位置はレーダーを使って確認しておいた。
そのレーダーに反応があった地点で、遠隔的に魔法を発動させたらどんぴしゃりな結果になった。視覚で確認してなかったから、少し不安だったけど……何とか成功して良かったわ。
「アイシア大丈夫? 怪我はない?」
「ふぇっ!? ふぁ、ふぁい、らいじょうぶれふっ!」
……ん? なんでそんなに呂律が回ってないのよ。舌でも噛んだ?
ちょっと心配になって、お姫様抱っこでわたしの腕の中に居るアイシアを見ると、胸の前で手を合わせ物凄く顔を真っ赤にして俯いていた。……そういえば、この状態ってまさしく『お姫様を抱っこしてる』ってことになるんだから、ホントの意味で『お姫様抱っこ』なのかな?
そんな益体もないことを考えていると、行動不能にした下手人から抗議の声が飛んできた。
「ちょっと貴女! いつまで私を、このような恰好で放置するつもりですの!」
煩い奴……。無傷で拘束なんて甘いことをしてやってんだから、もう少し大人しくしてなさいよね……。
「ごめんアイシア、一人で立てるよね?」
「ひゃい、立てまふ」
……いや、マジで大丈夫なのかなこの子? どっか痛めたとか、ホントに無いよね?
とりあえずその言葉を信じて、なるべくそっと地面に下ろす。……うん、普通に立てたわね。
さて、と。それじゃあ、次はあっちね。
アイシアが大丈夫というのを確認したわたしは、くるりと身体を回転させて先の下手人へと初めて向き合った。
そこに居たのは、頭に三角形のケモノミミを生やした女の子だった。――いや、声から女の子だってのは分かってたけどさ、ケモノミミがあるのは予想外だったわね。
でもまぁ、そんなことじゃ今のわたしは止まらない。流石にさっきのは、シャレにならなかったからね。
簀巻きにされて転がるケモノミミっ娘は、さっきまでの威勢はどこへやらという感じで大人しくなっていて、目を見開いてわたしを見上げていた。ちなみに簀巻きなのは、わたしの使った魔法のせいである。
金髪に紫の瞳な美少女という、微妙に何かが引っ掛かると思いながらも、特に思い付かなかったのでそれは放置! だからわたしはとりあえず、女の子の前にしゃがみ込み――その頭をゲンコツで叩いた。
「いきなり何を考えてるのよ! あんな魔法使ったら、怪我なんかじゃ済まないわよ!? なんであんなことをしたの!」
何やら周りの人達が一気にざわついた気がしたけど、そんな瑣末事は無視。今は、この子のほうが大事なのよ。
昔の経験だけど、言える時にガツンと言ってやるのが大切なんだから。
それに、あそこでわたしの反応が遅れてたら、もしかしたらわたしは助かったかもしれないけど、アイシアは絶対に無事じゃ済まなかったと思うし。
「ごめ……さい……」
……ん? 今なんて言ったの?
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
「ごめんなさいって……謝るのも大切だけど、謝られても今は困るんだけど」
謝るべき場面で謝るっていうのは確かに大切だよ。そういう場面で謝らなかった『馬鹿』を、わたしは凄く知ってるし。でもね、今はそうじゃないの。『なんで』あんなことをしたのか、それを聞いてるんだよ?
そんなわたしの苛立ちにも似た感情を感じたのか、女の子はビクリと肩を反応させてから勢いよく顔を上げた。
「ごめんなさい! 今のは軽挙妄動、愚行でしたわ! いくらでも謝ります……だから、私を嫌いにならないで下さいませ!」
「えっ、いや、ちょっ!?」
不覚にも、わたしはその瞬間にさっきまでの感情を忘れてしまった。何故なら、女の子は物凄く必死な表情で目から大粒の涙をぽろぽろと流し、地面に染みを作りながら懇願してきたのだから。
――いや、嫌いならないでって言われてもさ、初対面なんだし……!
そんな風に考えたのも一瞬で、わたしは怒る気勢も削がれたから指をパッチン鳴らして、簀巻きを解除した。そして自由になった女の子を抱き上げ、抱きしめ、頭をぽんぽんと優しく叩いて撫ではじめる。
「何が言いたいのか分からないけど、少し落ち着こうか? もう怒ってないからさ」
なるべく優しく語りかける。確かに怒る気勢はもうない。けど、後でしっかり色々と、言い聞かせるけどね。
とにかく、こういう時にはまず落ち着かせるというのが、一番大事だ。経験からするに、だけどさ。
「カリンさん」
名前を呼ばれたので女の子を抱いたまま振り返ると、そこには国王さん&金銀王妃さん、アイシアとザハツィンさんが揃っていた。
……しまった、状況をすっかり忘れてた! やばい、恥ずかしいんですけど!
「私の娘が、とんだ迷惑をかけてしまいましたわ。申し訳ありませんでした」
「……へ?」
娘? 誰が、誰の?
「その子は第二王女、エルリファーナ・デュオル・リーン・ラッツフィラー。正真正銘、私の娘ですわ」
そう言って綺麗な微笑みを浮かべながら、金髪王妃さんはポンッと頭に三角形のケモノミミを生やしました。へー、そんなことも出来るんだ〜。
…………うそん。
「えっと……失礼ですけども、御三人さんのお子様はいったい何人いらっしゃりますでしょうか?」
と、混乱も良い具合に高まった頭が、勝手に変な口調で話し掛ける。それを聞いて、答えたのは国王さんだった。
「ふむ……合計すれば、七人になるな」
「それはなんというか…………お盛んなんですね、国王さん」
わたしの馬鹿みたいな発言に、国王さんはただ少し恥ずかしそうな苦笑を返しただけだった。ちなみに王妃さん二人は、嬉し恥ずかしな表情と雰囲気でした。
これにてチート化完了!(笑)