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外伝 帰る場所のない少女

コニーの外伝をちょこっと書いてみました。

 それは、何の前触れもなく起きた。


「……え?」


 コニーの手が止まる。


 サロンでいつものように菓子をつまんでいた、その時。


 ——スマホの画面が、頭の中に浮かんだ。


 黒い画面。通知。見慣れたアイコン。


(……は?)


 一瞬で消える。


 だが、確かに“そこにあった”。


「……コニー?」


 リリアの声に、はっとする。


「顔色、悪いですよ」


「え、あー……いや、なんでも……」


 笑ってごまかす。


 けれど——


(今の、完全に“あっち”のやつじゃん……)


 心臓が、妙にうるさい。


 その日からだった。


 “混線”が始まったのは。


 夜。


 コニーは、一人で中庭にいた。


「……マジで何これ」


 空を見上げる。


 この世界の星は、どこか違う。


 最初はそう思っていた。


 でも今は——


(どっちが“本当”かわかんなくなってきた)


 昼間の記憶。


 スマホ。雑踏。ネオン。


 笑い合っていた友達の顔。


『コニーさ、またバイト遅刻してんじゃん』

『だって無理じゃね? 朝とか人間の時間じゃないし』


 軽口。


 笑い声。


 ——確かに、自分の人生だったもの。


「……今さら出てくんなよ」


 ぽつりとこぼす。


 あの時は、“戻りたい”と思った。


 最初にこの世界に来た時は、パニックで。


 帰りたくて、怖くて、仕方なかった。


 でも——


「……もうさ」


 小さく笑う。


「こっちでやってくって決めたんだけど」


 その時。


「……やはり、ここにいらしたのですね」


 静かな声。


 振り向くと、マリアンヌが立っていた。


「……マリアンヌ様」


「……ご様子が、気になりまして」


 ゆっくり近づいてくる。


 コニーは少しだけ肩をすくめた。


「顔に出てた?」


「……少しだけ」


「マジかー」


 苦笑する。


 少しの沈黙。


 やがて——


「……元の世界、ですか」


 マリアンヌが静かに言った。


「……っ」


 コニーの目がわずかに揺れる。


「……わかるの?」


「……はい」


 短く頷く。


「……“戻れない場所を思い出す顔”でした」


 その言葉に、コニーはふっと笑った。


「なにそれ、的確すぎない?」


 でも——


 誤魔化せない。


「……思い出しちゃってさ」


 ぽつりと話し始める。


「向こうのこと」


「……はい」


「友達とか、バイトとか、くだらない日常とか」


 空を見上げる。


「別にさ、特別いい人生でもなかったけど」


 少しだけ間を置いて、


「でも、“自分の場所”ではあったんだよね」


 静かな声。


「……帰りたい、と」


 マリアンヌの問い。


 コニーは少し考えて——


「……わかんない」


 正直に答えた。


「帰りたいのか、帰りたくないのか」


 拳を軽く握る。


「だってさ」


 視線を落とす。


「帰ったら——」


 言葉が、少し詰まる。


「ここ、全部なくなるかもしれないじゃん」


 その一言で、空気が変わる。


「マリアンヌ様も、リリアも」


 小さく笑う。


「この世界自体、なかったことになる可能性だってあるし」


 “物語”だった世界。


 終われば消える。


 そういう可能性も、ゼロじゃない。


「……それは」


 マリアンヌが言葉を探す。


 けれど——


「……怖いんだよね、普通に」


 コニーが先に言った。


「どっち選んでも、何か失う感じ」


 沈黙。


 夜風が、少しだけ強くなる。


 その時——


「……コニー」


 マリアンヌが、はっきりと名前を呼んだ。


 コニーが顔を上げる。


「……はい」


「……わたくしは」


 少しだけ言葉を選んでから、


「……あなたが、どこを選んでも」


 まっすぐ見つめる。


「……あなたを、忘れません」


「……え」


「……たとえ、世界が変わっても」


 静かな声。


「……わたくしが選んだ“あなた”は、消えません」


 その言葉は、理屈ではなかった。


 証明もできない。


 保証もない。


 でも——


 不思議と、重みがあった。


「……ずる」


 コニーがぽつりと呟く。


「そういうの、めっちゃ刺さるんだけど」


 目元を軽くこする。


 少しだけ、笑う。


「……そっか」


 息を吐く。


「じゃあさ」


 マリアンヌを見る。


「まだ決めなくていいよね」


「……はい」


「今はさ」


 肩の力を抜く。


「“どっちも大事”ってことで」


 マリアンヌが、ほんの少し微笑む。


「……それで、よろしいかと」


 その時——


「やっぱりここでしたか」


 リリアの声が聞こえた。


「二人とも、いなくなってしまったので……」


 少し息を切らしている。


 コニーが笑う。


「ごめんごめん、ちょっと夜風に当たってた」


「……大丈夫ですか?」


「うん、だいぶ」


 本音だった。


 完全じゃない。


 でも、少し整理できた。


「ねえリリア」


「はい?」


「もしさ」


 軽い調子で言う。


「この世界終わったら、どうする?」


 リリアは少し驚いた顔をして——


 考える。


 そして。


「……終わらせません」


 はっきりと言った。


「え」


「わたしは、この時間が好きです」


 少し照れながらも続ける。


「ですから……終わるなら、その先を作ります」


 強い言葉。


 それは、“ヒロイン”ではなく——


 リリア自身の答えだった。


「……いいじゃん、それ」


 コニーが笑う。


「じゃあ決まり」


 空を見上げる。


「この世界、まだ続行で」


 三人で、同じ空を見る。


 違う世界から来た少女。


 違う運命を背負った少女。


 それでも——


 今、この瞬間を共有している。


 それだけで、十分だった。


 コニーは、そっと目を閉じる。


(……帰る場所は)


 もう一つ、増えていた。


 それはきっと、失うかもしれない場所。


 でも——


(……だからって、選ばない理由にはならない)


 彼女は、笑った。


 ギャルでも、転生者でもなく。


 ただ一人の少女として。


「ま、なるようになるっしょ」


 軽く言う。


 けれどその中には——


 ちゃんとした覚悟があった。

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