表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

セカンドステージ

作者: 小春ぴより

夏の日差しが残していった蒸し暑さのある9月末。

あたし、水島春は同じクラスの一ノ瀬陸に告白した。


「もし良かったら付き合ってほしいんだけど。」


言え!

言うんだ!!

押し出せ!!!


心のうちにいるもう一人の自分が懸命にあたしのことを奮い立たせる声を感じながら、

何だかんだで最後の方は思わず声が震えた。

そして陸が答えを出すのを待つこと10年・・・のように長く感じた返事は、

部活でこんがり黒く焼けた顔にその顔で笑うといきなり大人びるあたしの大好きな笑顔を見せて、



「ごめんな~。」




とつぶやいた。






セカンドステージ







「で、結局なんて言われたわけ?」

2時間目と3時間目の休み時間。

あたしは友達のカナに事情徴収を受けている。


「だから・・・ハルのことはすげーいい友達だって思ってるから、

 その気持ちは嬉しいけど友達がいい。・・・って言われたの。」


「えーー。一ノ瀬君とあんなに仲良いのにそれでも一ノ瀬君は友達のほうがいいって??」


「うん・・・。」


あたしはベランダでクラスの男子と戯れてる陸を眺めた。

サッカー部でこんがり焼けた肌が、今日も青い空に凄く似合ってる。

とか思ってる自分はもう末期だなと思う。

カナはそんなあたしの前で何故かあたしよりも思いつめた顔をしてため息をつく。

ため息をつきたいのはこっちだっつーの。


友達の仲で一番仲の良いカナは、ハッキリ言って凄く美人だ。

つやつや光る黒髪に、対照的な透ける白い肌。

大きな黒目が印象的な目と高い鼻で、

日本美人とはまさにカナのことを言うんだと思う。

そんなカナは学年でも人気があって、生徒会長もやってる隣のクラスの緑川君と付き合ってる。


それに対してあたしは平凡中の平凡。

髪はクセッ毛で、抵抗するようにあえてかけたパーマもこの湿気にまとまらず、

セミロングの髪はやや広がり気味だ。


「男の子のさーそう言う友達がいいって何なわけ?」


「知らないよ。そんなのあたしが一番聞きたい。」


陸に言われてからずっとずっと。

何度も心の中を堂々巡りしている問いかけ。

友達がいいって何なわけ??

それって単純に魅力がないのかな?


「・・・顔とかの問題だったらどうしよう。」


「そしたらもうあとは性格でカバーでしょ。

 それに一ノ瀬君はそんな顔だけで人を断るようなタイプなの?」


「そうじゃない、と思いたいよ。

 でもカナみたいな美人に言われてもなー・・・」


「美人は美人で苦労があるんです。

 大丈夫、春のよさ、きっと分かってくれるよ。まだまだこれからこれから!!」


ポンポンとあたしの頭を軽く叩いて自分の席に戻っていくカナ。

何においても飾らずさっぱりとした性格のカナがあたしは本当に好きだなと思う。

良い友達ってやつ。


「もーらい!」


パッと後ろからこんがり焼けた腕が伸びてきて、

気づいたらあたしの机に置いていたチョコが一粒さらわれていた。

咄嗟のことに声が出ず、パッと後ろを振り向くとさっきまでの話題の張本人が立っていた。


「ん~。俺的にはミルクチョコよりホワイトの方が好きなんだよね。

 だから次はホワイトチョコでよろしく!」


勝手に食べたチョコに注文までつけて、おまけに陸はポカンとしてるあたしのおでこに一発デコピンをくらわせて自分の席に戻っていった。

デコピンをくらったおでこに手を当てる。

痛いんじゃない。

何故か心の底がギュッとした。





その日は朝からついてなかった。

少しだけ寝坊をして、それでも何とか間に合うだろう時間に学校近くの駅に着いて、

駅前の駐輪場に置いてあるはずの自転車に乗っていこうと思うや、自転車がないのだ。

三周ぐらいくまなくさがしてみたけれども見つからず、

仕方なくあたしは朝からダッシュで学校に登校する羽目になった。


結局出席には間に合わず、

おまけに席に着く前隣の男子の机横に置いてあった荷物に引っかかりそれはそれは盛大にクラス中の目の前でこけてしまった。

クラスのみんなは大笑い、穴があったら入りたいくらいの気持ちでチラリと陸を見れば、

やっぱりみんなと同じように大笑いしていた。


三限の体育の時間。

今日は体育館でバスケだ。

バスケは大好きで、よーしやるぞー!!

と、意気込んでいたら床に置きっぱなしにしていた雑巾につまずいてまさかの転倒。

さらにあたしはバスケの試合中パスを受け損ねて鼻血を思いっきりだしてしまった。

スポーツはかなり得意な方で、にもかかわらずただの雑巾で転ぶは、パスを受け損ねるはと言う事態にカナはあたしを保健室に連れて行きながら具合が悪いんじゃないのかと本気で心配した。


その後もお弁当を家に忘れてしまってたり、

提出するはずにの課題を忘れてたり、まさに最悪と言っていいほどで、

放課後には身も心も疲れきってあたしはクタクタだった。


「はぁ~・・・帰ろう。もう今日は早く帰って寝よう。」


「そうだね、絶対その方がいいよ。」


カナはあたしの方を心配そうに見ながら本気になって言ってきた。


「カナは今日デート?」


「うん。でも生徒会で会議があるからもうちょっと待っちゃうんだけどね。」


「そっか、楽しんでね~。」


バイバイと手を振りかけた瞬間担任があたしを呼んだ。


「水島ー。お前今日遅刻したろ、そのペナルティでちょっと手伝え。」


「えーーー!! 何でそんな・・・・。」


「まぁーそう文句言うな。今日部活休みだろ。ほらコイ!!」


部活が休みだからこそ早く帰らせて!!

そんな文句は全く聞こえないふりで担任はあたしを強制連行した。

連れてこられたのは社会科資料室で・・・・


「え、ちょっとまさかこの資料全部・・・・」


「そ、明日の授業で使うから空き教室まで運んどいて。じゃ、よろしくぅ!!」


何が、よろしくぅ、だ!!

大体こんな重い資料を女の子に運ばせるってどうなわけ。

ぶつぶつ文句をいいながらもあたしは1階から3階へと階段を登って行く。

重い資料を両手で抱え込みながら階段を登ってる割には全然息が切れてないのも日々の部活の賜物だ。


「あー・・・こう言うたくましいとことか、全然可愛くないよね。

 女の子らしさもないし、だから友達止まりなのかな。」


今日一日の最悪な出来事にまいっていたあたしは、思わず弱気なことを口走る。

と、不意に階段の上に気配を感じて目線を上げる。

するとそこには、


「・・・陸。」


「・・・それが遅刻のペナルティってやつ?」


悪戯っぽく笑った陸が練習着を着て立っていた。

額にはかすかに汗が伝ってる。

きっと忘れ物か何かを取りにきたのだろうけど・・・このタイミングって。


「持とうか、半分?たくましくても女の子が持つには重いっしょ?」


聞かれてた。

あたしは頭の中から沸騰するように顔が熱くなるのを感じた。

そして「大丈夫だから気にしないで!!」と大きく叫ぶと一段飛ばしで階段を登って陸の横をすり抜けた。

三階に上がるあと一歩の所であたしは階段につまずいて、

資料を盛大にばら撒いてこけた。

バシャンドテ、と誰も居ない廊下に資料が散らばる大きな音とあたしがこけた音が響き渡る。

下の陸の所まで聞こえててもおかしくはない音だ。

早く立ち上がらなきゃと思いつつも、弁慶の泣き所を思いっきり強打して中々立ちあがれない。

痛さで目に涙がにじむ中、床に散乱した資料をかき集めてるとなんだか本当に泣きそうになってきた。




資料を空き教室に置いて、

痛い足を引きずりながら教室に入ろうとしたところで思わずあたしは立ちすくんだ。

教室の中にいた二人も慌てて体を離す。


こんな時に・・・

こんなついてないときにカナと緑川君がキスしてる場所に入って行っちゃうなんて。


「えっと、ごめん!」


足の痛さなんて忘れてあたしは思いっきり逃げ出した。


今日一日ついていなかったこと、

陸に弱音を聞かれたこと、

親友がキスしているところ。

色んなことが頭の中でぐるぐると回る。


校舎の中を走り回って、

そして気づいたら屋上に来ていた。

珍しく誰も居ない屋上に一人で立って、校庭でサッカー部が練習しているのを見つけた途端、

不意に涙がこみ上げてきた。


最高についてない今日一日。

朝からこけて陸に笑われて、おまけに悲観的になった愚痴まで聞かれ・・・

親友のキスしてるとこまで見てしまった。


大好きな陸には友達宣言を受けて、

一体何をどうしたらいいのかも分からない。

どうすることも出来ない中で陸が好きだと言う気持ちだけが日に日に大きく膨らんで、

完全にあたしの気持ちはキャパオーバーだ。


そう思ったら涙が止まらなくなった。

声まであげて、しゃっくりまであげながら泣く。

どうせ誰も居ないんだ。

子供みたいな泣き方でも、

好きに泣かせろ・・・





「春?」


あたしは自分でも肩がびくりと上がるのが分かるほど驚いた。

「春」

と、あたしの名前を呼ぶこの声は、顔を見なくたってすぐに分かる。

夢の中でだって、心の中にだって出てくる声だ。


あたしは後ろに誰がいるか分かっていながらも、

それでも今は違う人であってほしいと思いながらゆっくりと振り向く。


「春・・・おまえ、大丈夫か?」


「陸・・・。」


「さっきお前またこけただろ?

 凄い音したから。でも上に上がったらもう居なくて・・・しょうがないから部活に戻ったら、春が屋上 に、居るの見えてさ。しかも泣いてるように、見えたから・・・。」


ぜぇぜぇと息をきらして話す陸。

普通自分が振った女の子が泣いてたら面倒くさくて近寄りたくもないだろう。

なのにこの一ノ瀬陸はグラウンドから屋上までをすっ飛んできてしまうのだ。

それぐらい優しい。

そしてこの優しさが本当に辛いけど好きなんだと実感したら、また涙がぽろぽろ出てきた。


「春・・・なんだよ、いつものお前らしくないじゃん。

 まだみんなの前で転んだの気にしてんのか?」


陸は困った顔をしながらあたしの顔を覗きこむ。

そんな理由で泣いているんじゃないとあたしは大きく首を横に振る。


「じゃあどうしたんだよ・・・って、俺なんかが聞ける立場でもないけどさ。」


陸は少し寂しそうにしながら呟く。

あたしは震える声をなんとか抑えて言う。


「分かんない。何で泣いてるか分かんない。」


「なんだよそれ。」


陸が笑う。

困ったように少し眉間に皺をよせて、あたしの大好きな凄く大人びた顔になって笑う。


分からない。

それでも涙は出てくる。

きっと、女の子が泣くのに理由なんてないんだと思う。

論理的な理由なんて出せない「何か」で泣くのだ。


さすがに陸の前では声をあげてまでは泣けないから、

必死に声を殺してしばらく泣いていた。

すると陸は頭をガシガシとかきながら、


「なんか・・・春には笑ってて欲しいって言う勝手な願望があるからさ。

 そんな大人みたいな泣き方されるとすげー辛い。」


「へ?」


「お前が泣くとこなんて見たことなかったけどさ、

 なんだか全然別人みたいなのな。知らない『女の人』って感じでビックリした。

 いつも元気な春がちょっと触っただけで割れそうなガラスみたいで・・・・。

 どうしてやったらいいかもわかんねーし、ドギマギしちゃう。」


この男は・・・・

あたしは内心でため息をつく。

勝手に友達宣言をしておきながらそんなこと言うなんて反則だ。

そう思ったら急に笑えてきた、と言うより大声をだして笑っていた。


「何が可笑しいんだよ。」と陸にどつかれながらもあたしはしばらく笑っていた。

目に溜まった涙が乾いて、屋上に吹く風にヒリヒリと痛む頃、

あたしは陸を見上げて言った。



「セカンドステージ。」


「え?」


「今からがあたしのセカンドステージだから。クリアしてみせるよ。」


泣いて真っ赤になって、きっと腫れてるあたしの目。

それでも強い意志を乗せてあたしは陸の目を見た。

陸は不意にあたしの頭に手を乗せると、グシャっと髪をかき混ぜて、


「頑張れよ。見てっから。」


そう言って笑った。



遠くから、部活の練習する声が聞こえる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 失恋を扱った作品なのに、すごく清々しくて好感が持てました。 最後の「セカンドステージ」というセリフ、かっこよかったです。 さわやかな作品をありがとうございました。これからもがん…
2010/07/06 22:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ