凪の絶望(黒い雨と生死の狭間)
佐賀に向かってる道中は、まるで戦争が起きていなかったように、快晴だった。
空は抜けるように青く、セミがうるさいほどないている。
道端には、30度近い直射日光により、力尽きた遺体の膨張や変色が激しい。
そして、ものすごい死臭が漂っている。
まさに地獄そのものだ。
それでも空腹は襲ってくる。
僕もお腹が減った感覚があった。
幸い、食料はおじさんから『ほしいも』や『カンパン』を3日〜4日分を分け与えてもらった。
本当におじさんには感謝しないと。
でも数は限られてる。
僕の分の食料も赤ちゃんにあげたら1週間くらいは持つかな...
僕は考え抜いた結果、自分の分の食料を全てあげることにした。
僕は食べなくても死なない。はずだ......
空腹だけ我慢すれば生きていける。
頑張れ、僕。
佐賀まではあと少しだ。
ついたらきっと食料はいっぱいある。
この赤ちゃん......
「...名前はあった方がいいよな」
「あぅーー!!」
.........っ!
返事してくれた!
やべぇ、超嬉しい!!!
「そうだよな!名前はある方がいいよな!」
絶対いい名前つけてやるぞ!
でも名前なんて人生で一回もつけたことないな....
「.....湊」
「お前は、中原湊だ。」
この子の人生がここから始まり、そして将来、港のように自然と人が集まってくる存在になりますように。
そう思いをのせて名付けた。
湊には、お腹いっぱいになるまで食べさせてあげないと。
僕は湊にご飯をあげてから出発した。
「これからもずっとよろしくね、湊!」
それから5時間くらい歩いただろうか
佐賀県に着くことができた。
「はぁ、はぁ」
「やっと着いたーーー。」
無事に着いてよかった、僕も湊も。
そして、僕は目を少し閉じた状態で、恐る恐る周りを見た。
数は減ってはいるが、やはり亡くなっていた人は居た。
でも、大きな違いがあった。
建物が建っていたことだ。
長崎では、平地や骨組みになっている建物しかなかった。
それがここでは、窓ガラスが割れている程度で、ほとんど無傷なのだ。
僕達は佐賀に着くことができたんだ。
改めてそう思った。
そんな時だ。
「ゲボォッ」
「ケホケホ」
湊がいきなり血を吐いた。
「え....湊?どうしよう、どうしよう......」
「やだ、死なないで。」
心臓の脈が早くなり、頭が真っ白になった。
それでも僕は頭をフル回転させて考えた。
...そうだ、祐徳稲荷神社に向かおう。
大きな神社なら、医者や助けてくれる人がいるかもしれない。
それまで無事でいて、お願い。
それから僕は、無我夢中で走って祐徳稲荷に向かった。
ずっと湊の事しか頭になかった。
一生懸命走った。
僕は作られた存在なのに、息はゼェゼェ言っていた。
足も震えて、限界が近い。
それでも僕は、約8時間ずっと走り続けた。
やっと着いた......
そこには人が大勢いた。
僕は色んな人に聞いた。
「すいません、ここに医者はいますか、、」
「この子を見てほしくて、、」
すると小さい女の子が答えてくれた。
「あれがお医者さんだよ。」
その子は1人の男を指を指して言った。
僕はお礼も言わずその場所に走った。
「あの、血が、湊が吐いて、、」
ちゃんと喋れなかった。
言葉を選ぶ事ができない。
「見せてくれ。」
僕は医者に湊を見せた。
「長崎から来て、少しだけ黒い雨にあたったかもしれなくて、、」
そう、僕がおじさんと会う直前、黒い雨が降っていたのだ。
その雨はほんの少しだけ、湊を掠めていた。
僕はほんの一瞬だったから大丈夫だと思って油断していた。
「長崎からか......新型爆弾にやられたな」
「今薬がないんだ、これ以上はこの子の生命力に頼るしかない。」
僕は絶望して膝から崩れ落ちた。
薬がない?ふざけんな。
なんのためにここに来たと思って....
「おい、しっかりしろ」
「君、この子の親か?......それならうじうじするな」
「君がしっかりしないとこの子は1人なんだそ」
医者の男は僕にそう言った。
そうだよな、死んだ訳じゃない。
湊は絶対助かる。
僕は湊を抱えて、昔母が歌ってくれた歌を歌った。
僕が風邪をひいた時は必ずそうしてくれた。
「春には桜、夏には太陽、秋には落ち葉、冬には
ゆーき、その次なんだ、春がまた来る、そして夏がき、秋、冬きーた...」
「湊、お前は雪は見たことある?」
「冬になると雪が降るんだ、これがめちゃくちゃ寒くてさ」
「僕が住んでたとこには、雪ってあんま降らなかったんだけど、たまに降った時ははしゃぎすぎちゃって。
風邪をこじらせてよく肺炎になったんだ...」
「そしたらいつも朧が、すんごい顔でビンタしてくるんだよ、それで死ぬかと思ったわ」
「...だからさ、湊。」
「今年はお前が、僕を見ててほしいんだ!」
「1人だとはしゃぎすぎちゃうから」
胸の鼓動が徐々に弱まっていくのが手に伝わる。
「湊....!お願い、頑張って...」
「ケホケホッッ」
その瞬間、湊の頭がズッシリと重たくなった。
指先から、だんだん体温が下がっていく。
「湊......?」
「ねぇ、ほら、ほしいもだよ。」
「そろそろお腹空いたでしょ」
「湊はよく食べるもんな」
医者が涙を流しながら言ってきた。
「その子はもう......」
わかってる、もう息をしてないってことは。
でもまだ生き返るかもしれないし...
僕には再生能力とかないのかよ
ロボット、AIなんだろ?
その時だった。
《ゴーン》
"鐘の音"がなった。
そして僕は記憶はそのままで、真っ黒になった。
──それでも、湊の温もりが伝わっていた。




