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その未来に私の姿はなくとも ~先見の姫は大国の王に溺愛される~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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6 王家の至宝4

銀色の毛皮の獣は、噴水裏のオブジェにある隠し通路の入り口から姿を消す。

しっぽを下げて明らかにおびえていた。


「陛下!」

「やあ、セリーネ姫」


現場にかけつけたセリーネに、レオニスは楽しげに声をかける。

レオニスの手には赤く光る王家の至宝〝暁の涙〟がある。

喜ぶべきところだが、セリーネの考えていた段取りはかなり狂ってしまった。


(作戦が台無しじゃない。〝陛下〟に〝助けさせよう〟としたのに! 怯えさせてどうするの!)


しかし相手は国王陛下だ。そんなことを言えるはずもない。

セリーネは心を落ち着けるよう、大きく息を吐いた。


(大丈夫。挽回する機会はあるはずだわ)


「監視役から連絡が来た時には驚いたよ。まさか窃盗犯と接触するとはね。君はこれも読んでいたの?」

「窃盗犯との接触は運がよかっただけです」

「そういうことにしておいてあげよう」


レオニスは楽しげに琥珀色の瞳を輝かせた。


「陛下。彼らを捕まえなくてはなりません。隠し通路に一緒に来ていただけませんか?」

「そのつもりだったよ。でも、君はやめてほしいな。危険だ」

「気になることがあるのです。私は、もう一度あの子犬に会わなくてはなりません。──それに、陛下はお強いのでしょう? 私一人守るぐらい造作もないのでは?」

「君には敵わないな」




セリーネとレオニスは、地下の隠し通路に、子犬が消えた噴水脇とは別の入り口から入った。

子犬の目的地である城外出口への先回りをするためだ。

隠し通路の存在は公にできないため、通路を行くのは、レオニスとセリーネのみだ。


(多分陛下の影はついて回っているでしょうけれど)


レオニスが何も手配していないはずがない。

〝暁の涙〟はすでに取り戻され、騎士の手に預けられている。

ここから先は、窃盗犯を逮捕するための過程だ。

セリーネがどうしてもレオニスと共に隠し通路へ向かいたかったのには、理由があった。

先見で見た三つ目の映像を回避し、そして四つ目の映像を実現するためである。


(おそらく、あの子犬は、男たちにひどい扱いを受けるはず。助けたい)


打算があるのは確かだ。

けれど、それだけではない。純粋に──セリーネに身を寄せ、体を預けてきたあの小さな獣を助けたかったのだ。


「そろそろ宝物庫の裏あたりに着く。犬は、あちらから飛び出してくるはずだ」


隠し通路の地図を頭に入れていたのは、セリーネだけではなかった。

レオニスもまた、打ち合わせなしに先回りできるルートを選んでいた。


「陛下。お気づきかと思いますが、私はあの子犬を助けたいのです。いえ、〝陛下が〟あの子犬を助けるべきです」


レオニスは、何かを推し量るかのようにじっと目を細めてセリーネを見つめる。


「ここにきて私に譲ると?」

「もちろんです」


この件も、セリーネとレオニスは、書庫で一緒に調査をした時から気づいていた。


「しかし、それを決めるのは、私たちではないな……しっ」


不意にレオニスはセリーネの口を押さえ、抱きかかえるように脇道に押し込んだ。

手に持っていた灯りをレオニスが消すと、すぐに前方から話し声が聞こえてくる。


「おいっ、何日こんなところに来るんだ。もうやめようぜ。最近王宮の出入りが厳しくなったってうわさだ」

「あんな犬っころなんて信用するんじゃなかった」

「でもこの通路は見つかっちゃいねえ」


(がらの悪い男たち。内容からあの子犬の主人は彼らだわ)


口を押えられて苦しくなったセリーネが体を動かすと、レオニスが口から手を離した。


「……陛下、知っている顔は、ありますか?」


セリーネが背伸びをしてレオニスの耳元にささやくように問いかける。

レオニスはあらぬ方向を向いているため、表情が読めない。


「……いや、ない」


その時、先ほどレオニスが示した通路から子犬が飛び出してきた。


「おおっ。来たか、ミナ。さあ、出せ」


ミナと呼ばれた先ほどの子犬は、銀色の毛並みを揺らすと、顎から下を床に擦り付けるように静かに伏せた。


「おい、何だそれは! どういうことだ! なんで何も持ってねえ⁉」

「ぶっ殺してやるっ」

「やめて!」

「キャンッ」


セリーネが叫んだのと、ミナが男に蹴り飛ばされたのと、レオニスが剣を持って飛び出したのはほとんど同時だった。


「なんだ、こいつは⁉」

「犬っころがつけられてたのか⁉」

「やれ!」


(三つ目の映像を防げなかった……)


悔やまれるが仕方ない。この〝ミナ〟を〝レオニスが助ける〟ことで、状況は挽回できるはずだ。

剣戟の音が通路に響き渡る。

男たちの人数は多いが、レオニスの剣技には余裕がある。おそらくレオニスは問題なく、この男たちを制することができる。

いざとなったら王家の影が助けに入るだろう。特に心配はしていない。


(それよりも……何か、違和感が)


セリーネは、子犬のほうへ駆け寄る。

そんな子犬のそばに、地面を滑ってナイフが投げこまれる。


「おい、ミナ! ナイフを拾え! さっさと起きて、その女を人質にしろ!」


(違和感の正体がわかった)


子犬はふらりと四肢を踏ん張って立ち上がる。首のリボンが揺れる。

その姿が不意に揺らぐと、一人の──人間の少女の姿が現れた。


獣人。

山間に隠れ済み、めったに人に交わることはない人と獣の間の生き物。

少女は、白銀の体毛を持つ狼の獣人だった。


そして、セリーネの感じた違和感の正体。

殴られた子犬は、セリーネが結んだリボンを〝していなかった〟


少女はナイフを拾うと、セリーネに向かってナイフを振りかざし、ジャンプする。


「お姉さん、ごめん」


少女は、セリーネの首にナイフを突きつけた。


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