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その未来に私の姿はなくとも ~先見の姫は大国の王に溺愛される~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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3 王家の至宝1

セリーネとナディアは別々の牢に収監された。

貴族用の牢であるため多少は居心地がよく、それだけが唯一の救いだった。


(これは……きっと、はめられたのね。でも、もし私を狙ったのなら手順がお粗末すぎる。──目的はナディア。私は巻き込まれただけ、と考えるのが妥当だわ)


セリーネは、牢に備え付けられたそこそこ座り心地のよい椅子に腰を下ろし、ひとり思案する。


(では、ナディアはいったい誰に狙われたの? 情報が少なすぎて手詰まりね……こういう時こそ、先見の力を使いたいのに)


「やあ、セリーネ姫」

「陛下……!」


顔を上げると、そこにはひと月ぶりに見る国王レオニスの姿があった。

高貴なその存在は、地下牢にあってもなお華やかさを失っていない。セリーネは慌ててカーテシーをする。

国王の背後には、王宮書庫の司書長エルマー師の姿もあり、セリーネの胸は温かさに満たされた。


(エルマー司書長が、陛下をお呼びくださったのね)


エルマーとレオニスには、何か特別な関係がある──それだけは、セリーネも薄々気づいていた。


「このようなところにわざわざお運びいただきありがとうございます」

「いや、他ならぬエルマーの頼みだからね。それにしても君、いったい何をやったの」

「陛下」


エルマーはレオニスの無遠慮な、ともすると楽しげともとれる物言いに苦い顔をしている。

どうやら部下にたしなめられるのは、この人の性分らしい。


「残念ながら、何もいたしておりません」

「はは、わかってるよ。君は、ナディア夫人と一緒にいただけだってこと。君の疑いは晴れたから、もうすぐ出られるよ」

「〝暁の涙〟が盗難されたと聞きましたが、見つかったということでしょうか?」

「うーん。まあ話してもいいか。他言無用で頼むよ。実はね──」


レオニスの話の概要はこうだ。


グランディオス王家は、世界的に有名な国宝〝暁の涙〟を所蔵している。

それは三代目グランディオス国王が妃のために誂えた、大ぶりのルビーのペンダントとイヤリングの一揃いである。国宝とされるだけあって、その価値は計り知れない。

ところが昨日、典礼官と筆頭侍女が宝物庫を点検に入った際、その〝暁の涙〟が消えていることが判明した。三か月後の建国記念式典で展示される予定があったため、事前確認を行ったのだ。

そして最初に疑いの目を向けられたのは、宝物庫の清掃と管理を任されていたナディアだった。


(ナディアが言っていた倉庫というのは実は宝物庫だったのね)


「まだ宝石は見つかっていないけれど、君たちがこの件に関わっているという証拠もない。で、君の部屋も調査されたけど、さっき白だと判明したんだ」


勝手に部屋の中に入られたと言うとよい気はしないが、仕方ない。疑いが晴れてよかったと思うところだ。


「ナディア夫人はより詳細な事情聴取があるけど、まあ、牢屋からは出られるんじゃないかな」


レオニスがそう言い終わった時だった。カッカッと床をならすせわしげな靴音が響き、地下牢に、レオニスの側近ダリオンが現れた。

レオニスに近づくと、小声で何かを報告をし始める。


(何かあったのかしら)


セリーネに向き直ったレオニスは、少し困ったような笑みを浮かべる。


「セリーネ姫、残念ながら無罪放免とはいかないようだ。ナディア夫人の部屋から〝暁の涙〟のペンダントが見つかってね。彼女は罪を免れないだろう。それに、君への疑いも再燃している」


楽観視できる状況ではない──セリーネは瞬時に悟った。


(おそらく私の容疑は晴れるでしょう。でも、ナディアの無罪を証明するのはきっと難しい……先見の力なしには)


「陛下。もし私が解決できると申し上げたら、この事件の捜査をお許しいただけますか?」


レオニスは一瞬だけ眉を上げ、すぐに何か面白いものを見つけたかのように表情を緩めた。

その背後のダリオンは、セリーネへの不審を隠そうともしない。エルマー司書長ですら驚きの色を浮かべていた。


「その自信は、どこから来るのかな?」

「祖国でこのような事件の捜査に参加した経験があります。陛下が私に解決を望まれるなら、それ相応の働きをしてみせます」

「陛下、彼女はナディア夫人の友人です。彼女のために証拠を消す恐れもあります」

「ふむ……それは心配だな」

「ならば、私に監視役をお付けください。私の行動を見張って下さって結構です。私とナディア夫人の汚名を晴らす機会をいただきたいのです──どうか、私に捜査をお命じ下さい」


考え込むレオニスに、セリーネは真剣な面持ちで願いを訴えた。


──セリーネの心臓を縛る魔術契約は、王の命に従うこと、そして破った場合には彼女と弟の命を奪うことを主契約としている。


それを可能にするため、数多の補足契約が付け加えられていた。

そのひとつが、これだった。


セリーネは〝王族の命なくして先見の力を使うことはできない〟


グランディオス帝国の王族以外に先見の力が渡ることを恐れた先王は、セリーネが自らの意思で力を振るうことを禁じたのだ。


「まあ、いいか。衛兵、彼女を牢から出して」

「陛下!」

「ダリオンは黙って。いいだろう、セリーネ姫。君には監視役を付けさせてもらう。この事件を解決して見せて」

「仰せのままに」


次の瞬間、セリーネの先見の力が発動した。





先見は、魂だけを因果律の先に向かわせ、その行く先を垣間見る。

セリーネの実体はそのままに、意識だけが因果律の先に踏み込んでいく。


見たい未来を詳細に選ぶことはできないが、思い描いた事象に関して関りのある未来を選ぶことぐらいはできる。


(宝物庫にあった〝暁の涙〟は、どうなったの?)


一つ目の映像が、セリーネの意識の前を駆け抜ける。

暗い場所。

視界に現れたのは、暗い通路を走り去る影。赤いリボンが翻る。

灯りのない暗い通路の詳細と、影の姿を目に焼き付ける。


二つ目の映像が、浮かびあがる。

赤い宝石が藁や葉の中に埋もれている。

その隣でネズミが木の実をたべている。

藁の種類、形、藁の中から顔と尾を出しているネズミの特徴的な尾、周囲の景色もしっかりと記憶する。


三つ目の映像で再び先ほどの影が映る。

大きな手が振り上げられ、影を殴り飛ばす。


(やめて!)


セリーネの集中が途切れてしまった。

視界が飛ぶ。


四つ目の映像に映るのは、齢を重ねたレオニスの姿だ。

そして、その背後に立つのは、精悍な騎士。その姿は──。





「おいっ。どうした!」


レオニスに肩を支えられて、セリーネは自分が倒れかけていたことに気づく。


(こんな風に急に力を使うつもりなんてなかったのに。久しぶりだったから加減ができなかったわ)


セリーネは、少しくらくらする頭を手で押さえながら、レオニスの手から離れ、自分の足でしっかりと立った。

軽度の精神疲労だ。大したことはない。

先見は魂を削る。軽度の精神疲労だけで済んでいるのは、何年もの間使っていなかったおかげだ。頻繁に使っていたらこうはいかない。


「寒い地下牢にいたため、立ち眩みがしただけです。申し訳ありません」


この事件を解決するに必要な情報は得られた。

あとは、パーツをつなぎ合わせるだけだ。

自然と笑みがこぼれる。


「陛下。まずはナディアに会わせていただけませんか?」

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