第3話:桃色頭症候群(ピンク・パニック)――護衛代で国家予算が死ぬ
数ヶ月後。
帝国の平穏は、レオンハルトの「物理的制圧」によって一応の回復を見せていた。
だが最高会議室の空気は――以前より重かった。
「陛下……今月の『護衛代』の請求書が届いております。……これ、去年の国家予算の半分に達しそうな勢いなのですが」
有識者たちが青ざめて書類を差し出す。
レオンハルトの隣では、すっかり皇帝専属ボディーガードとして定着したリナが、淡々とヤスリで爪を研いでいた。
「リナ……お前、昨日の夜、私が寝つけずにいた時に『大丈夫ですか、陛下』と声をかけてくれただろう。あれは、私の体を案じての言葉ではなかったのか?」
「ええ。深夜勤務の特別割増が発生するかどうかの確認です」
「……では、先週、敵の待ち伏せに遭ったとき、私の手を引いて走ったのは?」
「最短距離での避難による燃費効率の向上と、それによるオプション料金の加算です。あ、あの時の砂埃で服が汚れたので、クリーニング代も上乗せしておきました」
リナは一切の隙を見せない。
縋ることも、甘えることもない。
ただ淡々と「皇帝を生かす」という仕事を完璧に遂行し、その対価を無慈悲に要求する。
「お前……少しくらい、そのピンク髪にふさわしい、可愛い反応はできないのか!? たまには私に抱きついて『怖い』の一言でも言ってみろ!」
「陛下、そういうのは別料金になりますが。……あ、でも私、嘘つくの苦手なんで。そういうサービスが必要なら、そこらへんに転がってる『自称・聖女』でも拾ってきたらどうですか。安上がりですよ、あいつら」
リナは無愛想に鼻を鳴らした。
レオンハルトは――絶望した。
あまりに可愛げがない。
けれど誰よりも信頼できてしまう、この「守銭奴のピンク髪」に、知らぬ間に心を奪われている自分を自覚してしまったのだ。
縋られるピンク頭は国を滅ぼす。
だが縋ってこないピンク頭は――財布を滅ぼしに来る。
「あああああ! もう嫌だ! どっちにしろ地獄じゃないか!!」
レオンハルトは机に突っ伏し、図体の大きい体を震わせて叫んだ。
「誰か! 誰でもいいから! この世からピンク色を撲滅してくれぇぇぇ!!……あ、リナ。今の叫びで喉を痛めた。ハチミツ水を持ってきてくれ。……もちろん別料金でいいから!!」
「まいどあり」
皇帝の悲鳴と、守銭奴の軽快な声が、今日も帝国の朝を告げるのだった。
(完)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
結論:ピンクは滅ぼせない。財布は滅ぶ。
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