第1話:桃色頭症候群(ピンク・パニック)――王の知性が溶ける日
帝国の最高会議室。
かつては大陸全土の富が集まったであろう豪奢な部屋は、今や「頭の痛い報告書」の墓場と化していた。
中央の円卓に集うのは、属国から招集された「知の怪物」たち――統計学者、心理学者、軍略家、法学者。
だが彼らの身なりは一様に風変わりで、目の下に濃い隈を抱え、書類の山に埋もれている。
「――陛下。状況はもはや、経済制裁で解決できる段階を超えております」
二重眼鏡の統計学者が震える声で告げた。
上席で頭を抱えているのは、帝国を統べる獅子心王・レオンハルト。岩のように逞しい肉体と冷徹な瞳を持つ彼が、今は情けないほど眉間に皺を寄せている。
ドォーン。
地響きと共に大砲の音。
即座に従者が駆け込んだ。
「報告! 西の穀倉地帯を領有する公爵が、ピンク髪の放浪娘を『真の聖女』と認定! 彼女の瞳に曇りを与えたとして、隣接する騎士団領へ騎兵を突撃させました!」
「またか……」
レオンハルトの拳が、みしりと机を軋ませる。
「有識者諸君。なぜだ。なぜ、我が帝国のエリートたちは、あの『桃色の髪』を見た瞬間に知性を全ロスする? あれは魔術か? それとも未知の疫病か?」
「いいえ陛下。あれは魔術より性質が悪い」
心理学者が立ち上がり、冷たく言い切った。
「――『庇護欲という名の猛毒』です」
調査結果は明白だった。
各地の“ピンク頭”たちは共通の行動パターンを持つ。
王のパーソナルスペースへ無遠慮に侵入し、袖を掴み、上目遣いで、鼓膜を直接撫でるような甘い声で囁く。
『〇〇様だけが、私の味方です……』
その瞬間、男の脳内では「俺が守ってやらねば」という勘違いが爆発する。
国家予算も軍隊も外交も、すべてが彼女一人の機嫌を取るための道具へと堕ちるのだ。
「……稚拙だ。あまりに稚拙すぎる。国民の生活を、そんな安っぽい囁き一つで危険に晒すとは!」
「陛下。残念ながら、その『安っぽさ』こそが、脳の足りない権力者には特効薬なのです」
レオンハルトは立ち上がった。背に負った巨剣が鈍く光る。
「帝国法・特別条項を発令する。本日より、各国の秩序を乱す『害悪なる桃色頭』は、私自らが物理的に排除、あるいは隔離する!」
そして、絶望の宣言を叩きつけた。
「――ピンク髪撲滅キャンペーンの開始だ!」
――こうして帝国は、戦争ではなく「桃色」を敵に回した。
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