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いつが良いかな ⑴

(いつが良いかな・・・)

 男は6畳半の汚れた部屋で湿った布団に包まり、自らにそう問うていた。

 10月のはじめ、9月までの暑さがなんであったかと思わせるほど心地の良い風が外を流れていることなど、彼は知りもしなかった。床一面に散らばるペットボトル、空き缶、瓶。初めの方はゴミ袋に入れていたのだ。だんだんと袋に入らなくなり、床に綺麗に見せかけるように並べ、途中でそれが倒れて散らばった時には、もうどこに何を捨てるかの感覚など消え去っていた。台所にはいつ食べ終わってシンクの中に入れたかわからない皿に小蝿が集り、気休め程度に小蝿退治用のトラップを置いたが、小蝿は増えに増え、トラップの中だけでなく周りにも円を描くように死骸が散らばるようになった。ガスはとっくに止まっていたため、銭湯に週一で通っていたが、金がなくなるとそれすらも惜しくなり、外に出ることもないし汗などかかぬからと、風呂にも入らなくなった。油っぽい肌に無精にもなりきれていない髭を生やし、鏡を見ることもなく男は布団の中でただ問うていた。

 そんな腐敗したと言うのも烏滸がましい部屋の中で、男は絶望していなかった。なんとかなるだろう。今までもなんとかなった。なんとかしてきた。学生時代、特に大きな失敗もせず、首の皮一枚つながる程度の成功を積み重ねてきた男は、なんとなくの自信と、半端な自分の実力に期待していた。だから男は絶望していなかった。最初は。一応23年間という自分が生きた歳月をかけて、苦し紛れにも積み上げてきた自信と実力だと男は感じていた。その自らの大切な価値観が、たった一つの解雇通知を皮切りに、たった三週間ほどでこんな薄く脆いものになるとは思っていなかったのだ。

 学生時代、男はその会社でアルバイトをしていた。さほど多くシフトは入れられなかったが、自分の興味のある業界での仕事で、尚且つその職場に採用になることになり、ますます自分の運の良さに感謝した。だが入社した途端、空気は一変した。上司の派閥関係、新人に課せられる急な現場の管轄職務、唯一の同期の急な休職、そこから降りかかる自らへの業務とプレッシャー。「ここを乗り越えれば楽になるから。」唯一信頼できる上司も自らに降り注ぐ問題からはうまく避け、その皺寄せが彼に来る。この世界でこんな職場はいくらでもあるのかもしれない。昭和、平成を支えた社会人からすれば、甘えたように見えることなのかも知れない。だからこそ、男は自らでなんとかしようと挑んだ、自分の甘さを言い訳にはしたくなかった。だが自身の心は自身が思っている以上に脆く、それも相まって、男は何に縋ればいいのかもわからなくった。そうして男は朝五時に起き、支度をして1時間電車に揺られ、会社のドアを開けることが、できなくなった。

                                           

                                            続く

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