表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-i  作者: リョーシリキガク
1章 リリス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/51

cos 9x 球投げ

 夜の道路を、黒い車が滑るように走っていた。

 窓の外には、時おり流れるネオンの残像と、街路樹の影が交互に通り過ぎていく。


『7区、9区異常なし……』


 車内ではラジオが、超能力者による犯罪は今日も0だと報じていた。リリスが片手でラジオを切ると、沈黙が残った。


「……被害者、自分の能力が嫌だったんでしょうか。

ずっと隠してたってことは……」


 ぽつりと有馬がつぶやく。

 リリスは前を見たまま、ウインカーを片手でゆるく倒す。


「才能あると、面倒も増えるからね」


 信号で車が止まる。ルームミラーに映ったリリスの目は、どこか遠くを見ていた。


「あんたも大変でしょ? 天才天才って。ドラフト一位の天才くん」


 助手席で膝に手を置いたまま、有馬はふっと笑った。


「俺、本当はピッチャーになりたかったんです」


「……は?」


「中学のとき、野球部で。でも、ちょっと速すぎて……みんな辞めちゃって。ある先輩のピッチャーには、辞めるとき“お前のせいだ”って怒鳴られました」


 リリスは眉をひそめた。


「あんたが悪いわけじゃないでしょ。それ、辞めたやつがやる気なかっただけ」


「でも、自分に能力がなかったらよかったのに、って。……欲しい人には申し訳ないですけど」


 ヘッドライトが夜の道を切り裂く。光の筋が、前方へすっと延びる。


「だから、プロハンターの“ドラフト”って制度……ちょっと、嬉しかったんですよ。

 今は廃れたけど、野球にもプロ制度があって、ドラフト制なんです。

 形だけでも夢が叶いましたから」


 しばらく、沈黙が流れた。車内にはエンジン音だけがあった。


「ねえ、有馬」


「はい」


「“才能”って、たまに罪みたいに扱われるけど。

 別に、才能ないやつが悪いってぐらいに思っててもいいのよ。

 少なくとも、才能に義務なんてないから」


 有馬は目を見開き、リリスを横目で見た。

 けれど彼女は、ただ前を見ていた。表情ひとつ変えずに。


「ありがとうございます」


 有馬の声は、小さくかすれ、わずかな安堵が感じられた。


 ──そのとき。


「ところで、野球って何?」


「……えっ?」


 有馬はキョトンとした顔を浮かべた。


「スポーツの一種ってのはわかるけど。ピッチャーって何?」


「ポジションのひとつで……球を投げる係です」


「球を投げる? それでプロって……球を投げるのが仕事?」


「……まあ、はい」


 リリスは少し上を見た。


「真面目にやってるのよね……球投げ」


「はい、数十年前まですごく人気があって──」


「うん、悪いけど、意味わかんないわ」


 穏やかな空気の中、有馬は野球についてリリスに話した。自分の好きな選手について。彼の8番は永久欠番になっていると……

 前方には、闇に包まれた軍本部のシルエットが浮かび始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ