cos 6x 瞬間移動
有馬たちは、犯行現場の真上にあたる部屋を訪れていた。
リリスがバスルームを調べる間、有馬は住民の女性に話しかけた。
「被害者の方は、あまり外出されなかったそうですね。エレベーターで会うこともほとんどなかったとか」
玄関先に立つ女性は、目の下に薄いクマを浮かべ、パジャマ姿のまま髪を乱していた。怯えた小動物のような瞳が、有馬を不安げに見つめている。
「えぇ。仕事もリモートで、食事も配達みたいでした。外で見かけたことなんて、数えるほどです」
手元の調査報告書には、彼女の証言どおりの記載が並んでいた。
ただ――その一方で、近隣住民の目撃情報が複数存在していた。“神出鬼没”という言葉まで書かれている。
「あの……あなた、テレビで見た0番隊のプロハンター……。能力者なんですよね」
「はい」
有馬は頷いた。皆の期待に添えているのか、いつも視線が怖い。
彼女は黙り込んでいたが、その目は、「能力者は嫌い」と物語っていた。
有馬は再び調査書に目を落とした。捜査員による調査は驚くほど綿密で、それは現場を熟知する者たちの、地道な努力の結晶であった。
超能力者の中には、非能力者である警察を下っ端のように扱う者もいる。だが、「自分にできることを果たすのが大事だ」――そう背中で語った捜査官たちの姿に、頭の下がる思いがした。
「有馬。薔薇の入浴剤があったわ」
その時、浴室から出てきたリリスが、低い声で告げた。
有馬は顔を上げ、女性を見据える。
「……貴方を、殺人の容疑で逮捕します」
「な、何を言ってるの!? 私は合鍵なんて持ってない! 扉も閉められないし、この部屋から出てないって、防犯カメラで証明できるわ!」
「ええ。この犯行には“超能力”が関係していた」
「私は能力者じゃない!」
女性の声が震える。
有馬は一歩前へ出て、静かに告げた。
「そうです。能力者は――被害者の方です。
彼自身が、瞬間移動したんです」




