cos 49x 「波環の指輪」
式典当日。有馬の担当は、式典会場に隣接した博物館の警備だった。
白金と瑠璃色を基調とした大ホールには、眩いばかりの光が溢れていた。巨大なシャンデリアが天井から吊るされ、石造りの壁には金箔のモールディングが施されている。格式高く、どこか王宮のような趣すら感じさせる。
『国境なき世界』
博物館の壁面にはそう刻まれていた。
大戦を経て、世界は国家による統治に限界を感じ、超国家的組織を必要とした。その中心が財閥である。
演算子の製造、超能力の制御、軍の編成まで、その指揮権を握っている財閥は、紛れもなく“世界の支配者”だった。
分厚いガラスのケースが幾つも並び、旧式の演算子や、封印装置のレプリカが整然と並べられていた。
有馬は警戒しながらも、ゆっくりとその一角を巡っていた。
厳かな空気に満ちた空間。音が吸い込まれるような沈黙の中、ひときわ柔らかい光に包まれたケースが視界の端に入った。
──何気なく、目を向けた。
そこに展示されていたのは、金の細い指輪だった。過剰な装飾も、宝石もない。ただ、ごく控えめな螺旋模様が縁に彫られている──波のような、時間のような、永遠を連想させる文様。
綺麗だな、そう思って近づく。
プレートには、こう刻まれていた。
《波環の指輪》
この指輪は、財閥当主の地位を示す“レガリア”として代々受け継がれてきたものである。
特殊な金属でできており、後に波の伝導性が良いことから、演算子の素材として使われるようになった。
感心して見ていると、見覚えがあることに気づく。
(神宮さんが、首にかけてる指輪に似てる)
胸にかすかに引っかかっていた記憶が、明確に形を成す。
似てはいるが、神宮の指輪は文様が彫られているわけではなく、まるで細い金属の線が波のように絡み合って形を作っている、そんな造りだった。
──財閥から、何かの功績や名誉に対して贈られたものだろうか。
有馬は、そう結論づけて指輪から目を離した。
そのとき──
「有馬、聞こえるか?」
神宮の声が、脳内に響いた。
「リリスから連絡が入った。工場棟に悪魔が現れた。状況は未確認、ただちに向かえ」
「了解!」
有馬は胸元から演算子を取り出して握りしめ、足早に博物館を後にした。
背後には金に輝く指輪が、揺らめいていた。




