cos 46x 一ノ瀬食堂、惨劇のランチ
0番隊の談話室には、午後の陽が南向きの窓から斜めに差し込み、濃い木目の床を柔らかく照らしていた。
「できました……っ!」
一ノ瀬が言いながら、銀色の大鍋を両手で抱えて現れた。軽やかに歩み寄るその姿の指先に、小さな切り傷が見えた。
「手、切ったの?」
神宮が立ち上がり、何気なく彼女の手を取る。そのまま、指先をかざすと、淡い光が傷を包み、数秒で跡形もなく治癒した。
「ありがとう。でも大したことないわ」
一ノ瀬は軽く笑い、ローテーブルの中央に鍋をそっと置く。
有馬は思わず身を乗り出す。
(でかい。しかも鍋ごと持ってくるとは)
一抹の不安が胸をよぎった。
「じゃあーん!」
一ノ瀬が自信満々に蓋を取った、その瞬間。
部屋中に漂ったのは、言葉にできないにおいだった。
「これ、カレーなの?」
リリスが眉をひそめる。
鍋の中には、茶色に近い灰色の液体。謎の塊が浮かび、表面には虹色の油がギラついている。
だが一ノ瀬は気にせず、配膳を始めてしまった。
有馬、リリス、ユリ、そして神宮──食卓に並ぶ、地獄のランチプレート。
「どうぞ!」
一ノ瀬は満面の笑みで、みんなを見つめている。その視線に耐えかねて、有馬が先陣を切る。
「い、いただきます!」
勇気を振り絞ってスプーンを口に運ぶ──
その瞬間、有馬の脳内で警報が鳴った。
(えっ、待って、これは飲み物? いや固形物? 熱い? 冷たい? なにこれ!?)
顔が青ざめる。
リリスは一口目でむせ、ユリはいまだに口をつけられていなかった。
「……神宮さん、これはマジでやば……」
有馬が横目で見ると、そこには──
もくもくと、何事もなかったかのように食べ続ける神宮の姿。奥の壁のホワイトボードにはブリーフィングの跡が残っていた。
「おいしいよ」
淡々とそう呟きながら、スプーンを口へ運び続けている。
有馬は、そんな神宮を見つめながら思う。
(……これが愛の力……)
一ノ瀬の料理を、あれだけ自然に口にできる。あの冷静さ、あの穏やかさ。何があっても動じず、受け入れる優しさ。強さとは愛なのだ。
神宮は、一ノ瀬が自分を見つめていることに気づき、ふっと柔らかく微笑んだ。
「一ノ瀬、ありがとう。隠し味も分かったよ」
それを聞いた一ノ瀬は、顔を真っ赤にしてうつむいた。
まさか愛、とかキザなことを……?
「塩、コーラ、練乳、タバスコと酢だね」
ストレートフラッシュだ……と、有馬は思った。




