cos 45x ¬ツンデレ
「こんなの……おかしいだろ!あり得ない!」
男が顔を引きつらせ、テーブルを両手で叩いた。静まり返ったポーカールームに、乾いた音が響く。
「イカサマしたのはそちらでしょ?」
一ノ瀬は冷ややかに言い返す。
「まさか自分だけ仕掛けた罠に、引っかかるとは思わなかった?」
男が歯ぎしりするように拳を握った。
「ふざけるな……!勝ったからって調子に──」
「ええ、勝ちました。だから、この交渉は白紙で……私からもう一つ条件をつけさせてもらうわ」
一ノ瀬の声が静かに響いた。彼女の背筋は伸びていて、まるで何かの判決を言い渡す判事のようだった。
「今後、二度とセレス国の若手プロハンターに近づかないこと。出資者としての登録も取り消す。こちらからの正式な通告書も、後日送らせていただきます」
男の顔色が変わった。
「てめぇ……女一人が調子に乗りやがって!」
憤怒に任せ、男はテーブルを乗り越えようと一ノ瀬に飛びかかる──その瞬間、
「やめろッ!」
有馬が間に割って入った。
鋭く蹴り上げた椅子がテーブルを押し、男の足がもつれる。次の瞬間、有馬の手刀が男の首筋を叩いた。
「ッ……!」
男は呻き声をあげて崩れ落ちる。静寂の中、ディーラーたちは息を呑んだまま固まっている。
有馬は一ノ瀬の前に立ち、彼女の無事を確認した。
「大丈夫ですか」
「ええ、ありがとう」
その答えが、思いのほか素直で、有馬は少し驚いた。
*
数時間後、出資者名簿から危険な人物を排除し、安全な出資先との契約は全て成立。任務は、完全な成功に終わった。
ホテルを発ち、帰路につく車内。
有馬は窓の外に流れる灯りを眺めながら、ふっと息をついた。
「無事に終わってよかった。フルーツタルトも美味しかったけど……ああ、なんか、煮物とか食べたい」
一ノ瀬が助手席でちらりとこちらを見て、やや微笑む。
「家庭の味が恋しくなるの、わかるわ。任務中は、気が張るものね」
「……助けてくれてありがとう、って言ってくださって、ちょっと意外でした」
「何が?」
「あ、いや……別になんでも」
有馬はそっぽを向いたが、一ノ瀬の瞳に波紋が浮かぶ。
「“別に助けなんか要らなかった”って言うかと思った?」
口をつぐむ有馬に、一ノ瀬は小さく笑って首を横に振った。
「別にこの隊、ツンデレしかいない訳じゃないわよ? あなたの"優しさ"はちゃんと感じたわ。ありがとう、有馬くん」
その言葉が、有馬の胸にじんわりと染み込む。
ツンデレが三人、素直に優しいのが二人。役は揃った、フルハウスだ。




