cos 43x ポーカー
豪奢なパーティホールの一角。ワインの赤がグラスを染める中、有馬と一ノ瀬は、ある男と対峙していた。
男は、頬にうっすらと髭を蓄えた中年の紳士風。だがその目には、計算された濁りがあった。財閥関係者という肩書きの裏に、噂の絶えぬ「影の出資者」──名前だけでなく、金の流れまでも曖昧な存在だった。
「いやぁ、お若いのに立派ですね。0番隊の方と聞いて、ぜひ一度お話をと思ってました」
慇懃無礼な笑顔でそう言いながら、彼はシャンパンを口に含む。
「私ども、開発支援に興味がありましてね。……ただ、正式な投資契約の前に、個人的なお付き合いというか、まあ“パイロット的な合意”をお願いできればと」
「……パイロット的な合意?」
一ノ瀬の口調は穏やかだったが、その奥の瞳は冷静だった。
(“口約束”を盾に、後で正式な契約に持ち込むつもりね)
彼女は心の内で、男の考えをすでに読み切っていた。
「申し訳ありませんが、今はそのような段階ではありません」
にこやかな拒絶。だが男は微笑を崩さず、さらに一歩、詰め寄る。
「堅いことおっしゃらず。せっかくこういう場なんですから。少し砕けた交流も、悪くないでしょう?」
彼の声に、有馬が眉をひそめる。隣で、一ノ瀬がさりげなく有馬の袖を軽く引いた。
「大丈夫、落ち着いて。こういう手合いは慣れてる」
そっと囁かれた声が、会場の喧騒にかき消される。だが、有馬の胸の緊張が少し和らいだ。
「……じゃあ、こうしましょうか」
男はグラスをテーブルに置き、挑発的に口を開いた。
「一勝負。せっかくカジノでのパーティなんですから。少し遊びましょう。勝負に勝ったら……こちらの話、もう少し真面目に聞いていただくってことで」
「え? ちょっと、それは──」
有馬が思わず声を上げる。カジノなんてやったことがない。契約をそんなことで決めるなんて。
「はっはっは。いやなら、引いていただいても結構ですが──プロハンターともあろう方が、逃げるとは思いませんでしたな?」
その言葉に、有馬は息を呑んだ。
「……っ」
「プロハンターは逃げませんよ」
ふ、と微笑みながら一ノ瀬が前に出た。
「勝負、受けます」
男の笑みが深くなる。
「……ポーカーにしましょうか」
その言葉と共に、一ノ瀬の指輪が光る。
エルミート演算子、起動。




