cos 42x 読心術
煌びやかなシャンデリアの下、ホテルのカジノフロアはまるで劇場のような華やぎを放っていた。壁際にはバカラ台とルーレットテーブル、中央には高級料理の立食テーブル。金縁のグラスが並び、赤ワインの深い色がライトに揺れている。
有馬は、仕立てのいいネイビーブルーのタキシードに身を包み、緊張で背筋を硬直させていた。
「……緊張しすぎて、料理の味がまったくわからない……」
小皿に取ったフィンガーフードは、見た目こそ極上だが、口に入れてもただの存在としか感じられない。有馬は思わず、テーブルの端に置かれていたフルーツタルトに手を伸ばした。
(フルーツタルトなんてあるんだ…)
隣に立つ一ノ瀬は、紺色のスリットドレスに身を包み、髪をきっちりとまとめ上げていた。冷ややかで知的な印象を与えるその姿は、彼女のもつ静謐な読心能力とよく似合っていた。
「料理は愛情よね。好きな人と食べるから美味しいもの」
「そうですね。あ、でも……このフルーツタルト、美味しいですよ」
「ごめんねー、私フルーツタルトあんまり好きじゃなくて……酸っぱいの苦手なの」
場違いな会話に一瞬だけ和みながらも、有馬の目線は会場の中心に集まりつつあるスーツ姿の財閥関係者たちへと向かっていった。
セレス国──優秀な超能力者も多い大国。その出身者には、いま“支援”の名のもとに巨大な資金が流れ込んでいる。しかし、その裏の狙いにあるのは、大規模な油田地帯。
今回の任務は、支援という名目で近づく出資者の“本心”を見極めること。
「プロハンター育成基金のために、個人的に出資を考えておりまして」
そう微笑んで名刺を差し出す男に、一ノ瀬は同じ笑みを返す。だがその瞳は一瞬、波紋が浮かぶ。
(……支援ではなく、情報の買収。ハンター候補者の素性を調べ、民間警備会社に引き抜く気)
「ありがとうございます。ただ、私たちは公的機関として、特定の企業との提携には慎重ですから」
一ノ瀬の声は、何も知らないふりをしたまま的確に断りを入れる。相手は軽く苦笑し、肩をすくめて去っていった。
(見抜いてる……)
有馬は圧倒されていた。ひとつひとつの会話に、彼女は“中身”を添えて返している。言葉の奥にある腹の底を掴み、そのうえで礼儀を崩さず対応する。
表向きの笑顔、裏の打算──そのすべてを、読む。
(読心術すげぇ……)
そう思う有馬の心の波さえ、一ノ瀬には観測できていた。そして、
(有馬くんって、自分のこと世界で2番目にイケメンだと思ってるんだ)
一ノ瀬は心底、知らなきゃよかった、と思っていた。




