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-i  作者: リョーシリキガク
4章 ユリ編

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34/51

cos 34x 「未来の英雄」

 地下鉄の構内は静まり返っていた。

 薄暗い蛍光灯のうち、いくつかは点滅しながら、無人のホームを青白く照らしている。

 壁には複数のひび割れが走り、ホームの端には亀裂が伸びていた。

 それでも──悪魔の気配は、どこにもない。


「いませんね。リリスがいたら、何か読めたかもしれませんが」


 有馬は周囲を見回しながら言った。


「は? あんなの役に立たないでしょ。過去なんて見て、何になるわけ?」


 傍らで、ユリが小さく鼻を鳴らした。


 白地に薄い黄色を羽織った彼女は、ベンチのひとつに腰を下ろしていた。

 金属製の古びたベンチは、座るたびに軋んだ音を立て、彼女の動作のたびにブーツの金具がカチリと響く。

 ユリはスカートの裾を直しながら、有馬に向けて淡々と毒を吐いた。


「サイコメトリーもすごい能力ですよ」


 有馬は思わずムッとした声で言い返す。


 ユリは口を尖らせる。


「でも私の未来視の方が凄いし。過去と未来じゃ、価値が違うでしょ」


「未来視だって、無制限に観られるわけじゃないでしょう?」


「本来は無制限だもーん」


「本来は?」


 その言葉に、有馬が目を細めた。


 ユリはしばらくロザリオを弄び、静かに答えた。


「……三回先。来年の5月の“日蝕”以降は、見えないの。昔からずっと同じ。“終わり”が変わらないのよ」


 有馬の眉がわずかに動いた。


「未来も、過去も、どちらも大事ですよ」


 ユリは少し黙り込んだあと、しぶしぶとした様子で呟いた。


「崩落の中心は、街の真ん中辺りの海沿いだったわね」


「それは映像で確認できましたけど。あのあたりに活断層はないはずです」


「なら、何かが仕掛けてるんでしょ。自然じゃない揺れ方だったし」


 ホームには誰の足音もなく、電車の気配もない。残響だけが微かに跳ね返る空間のなか、有馬が静かに言った。


「他に、なにか未来の情報は。どんな小さなことでも、お願いします」


 ユリは視線をそらし、ぶっきらぼうに答えた。


「……ビクトル。あんたが倒すんだって」


 有馬は、一瞬言葉を失った。


「え?」


「見えたの。あなたがビクトルを倒して、街で英雄として飾られてる映像。

……絶対関係ないけど。あんたが何でも言えって言うから教えただけ」


 ユリは、そっぽを向いた。その横顔はどこか静かで、瞳の奥には迷いのない輝きが宿っていた。


「……ありがとう。教えてくれて」


 有馬が静かに礼を述べると、ユリは小さく鼻を鳴らす。


「礼なんかいらないってば。……私の未来視なんて、結局は軍の道具なんだから。

せいぜい頑張りなさいよ。未来の英雄くん」

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