cos 33x 「地下に潜むもの」
ローク市は、外見だけ見れば活気ある先進都市だった。高層ビルが立ち並び、光を反射するガラスの壁面が、晴れた空を鮮やかに映し出している。電動バスが静かに走り抜け、交差点には広告付きのホログラムが流れ続けていた。
──しかし、その足元では、確実に地盤が軋んでいた。
「……液状化ですね」
有馬は舗装の隙間に染み出すような水たまりを見て、しゃがみ込んだ。
足元のアスファルトは、目に見えないほど細かく波打ち、靴の重みでじわりと沈み込む。
「うわ……歩きにくい。ヒールで来なくてよかったぁ」
ユリは不機嫌そうに顔をしかめ、ロザリオをくるくると指に巻いていた。
その足元にも、小さな地割れが広がっている。
周囲には、住民たちがじりじりと集まり始めていた。軍服の二人を見て、声をひそめながらも期待と不安を込めた視線を向けてくる。
「プロハンターか?なんでここに…」
有馬は顔を向け、相手の男性に軽く会釈した。
「すみません。少しお話し伺っても?」
やや痩せた体つきで、作業着姿。近所で工事関係の仕事をしているらしい。
「最近、小さい揺れが多くてね。誰も正式には言わないが……油田のせいだと思ってるんだよ」
「油田の?」
「財閥が地下を掘りすぎてる。あんたたちハンターが来るような事態になってるってことは、隠してる“何か”があるんじゃないか?」
「……いえ、そんなことは」
「油田は俺たちセレス国のもんだ。財閥の連中が勝手に掘り返して、地盤が崩れて、そっちは“自然災害”で済ませようってんだろ? 冗談じゃない」
有馬は静かに頷いた。
「貴重な情報、ありがとうございます。参考にします」
ユリは無言でそのやりとりを見ていた。
ポケットの端末が鳴り、有馬は画面をのぞき込んだ。
本部からの解析データが届いたようだ。
「……震源地の分布が、地下鉄の路線図と一致している?」
画面には、ローク市の地下鉄網が表示されていた。その線上に、ここ数日の地震の震源がほぼピンポイントで沿って並んでいる。
「これ、自然現象じゃない」
「え? 地下鉄に、悪魔でもいるの?」
ユリが軽く目を見開く。
有馬はすぐに操作を切り替え、最も直近の震源が記録された地点を確認する。
「……最も新しい震源は、C-14区画。郊外の駅の地下空間だ」
有馬は立ち上がり、通信機に指を当てた。
「こちら有馬、最終震源地に向かいます。ユリさん、行きましょう」
ユリはため息をつきながらも立ち上がり、有馬の隣に歩を合わせた。
街の空は、快晴のまま。
だが、地下の暗がりには──何かが潜んでいる気配があった。




