cos 31x 嶺'
有馬たちがローク市へ向かっている最中。
本部地下、情報解析室。
薄暗い照明のもと、大型モニターに山岳地帯の地形データが投影されていた。ユリの未来視を元に、衛星データが重ね合わされている。
「これが今の地形です」
補佐官が指し示したのは、複雑に折り重なる山脈のライン。入り組んだ尾根と谷が、鮮明に描き出されていた。
「そしてこれが、“次の日蝕時”」
一瞬の切り替えとともに、映像が変わる。
そこには、なにもなかった。
尾根も、谷も、山肌の起伏すら──すべてが、平坦な灰色に覆われている。
「……衛星から見えるレベルで、地形そのものが崩落しています」
「強力な悪魔かと」
しばし沈黙ののち、通信担当が一歩前に出た。
「0番隊 隊長・神宮帝翔に通達。バルナー連峰・地形消失事案、直接調査任務を発令」
神宮は画面を見つめたまま、静かに頷いた。
「了解」
*
激しい風が吹き抜ける山頂に、黒い影がふわりと現れる。
神宮は風の揺らぎすら乱さぬほど静かに、そこにいた。
夏空の下には、見渡す限りの雪に覆われた広大な山脈。
だが──その内部には、空間を喰らい歪ませる何かが存在していた。
山の一部が、少しずつ沈み、歪んでいる。
神宮は片手をこめかみに当てて瞳を閉じた。
ゆっくり目を開け、片手を外す。
そして指を鳴らした。
瞬間。
数百m先でボンっと何かが爆発した。その中心には、羽の生えた人、だろうか、しかしその目は明らかに真っ赤に染まっていた。
ソレはぐったりとして動かず、しだいに溶けて消えていった。
空気は一度、止まったように静まり、何事もなかったかのように風が吹いた。
神宮は再び静かに目を閉じた。
──激しい風が吹きつける、雪の嶺。
薄曇りの空に、稜線が浮かび上がる。
そこを駆けるのは、二つの影。
"冬"の嵐の中、黒い軍服の裾をはためかせながら、ふたりの長身の男が斜面を踏みしめて進んでいた。
後方では爆音と閃光が色付いていた。
「君となら、地獄の底でも構わない」
ひとりの男──深く被ったフードの影から、かすかに青白い横顔が見える。
「君と一緒なら、傷ついてもいいよ」
言葉を返すことなく、その男はただ前へと進む。
だが、ふいに肩を掴まれる。
「……神宮」
立ち止まった男の名を、彼は確かにそう呼んだ。
「お前は生きろ」
声は、雪よりも静かであたたかかった。
そして、決意に満ちていた。
「生きて幸せになるんだ。
いつか、人を心から愛し、そして、生涯を共にして……」
雪が風に巻かれて舞い上がる。
「最後は俺のとこに顔見せに来い」




