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-i  作者: リョーシリキガク
4章 ユリ編

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31/51

cos 31x 嶺'

 有馬たちがローク市へ向かっている最中。

 本部地下、情報解析室。

 薄暗い照明のもと、大型モニターに山岳地帯の地形データが投影されていた。ユリの未来視を元に、衛星データが重ね合わされている。


「これが今の地形です」


 補佐官が指し示したのは、複雑に折り重なる山脈のライン。入り組んだ尾根と谷が、鮮明に描き出されていた。


「そしてこれが、“次の日蝕時”」


 一瞬の切り替えとともに、映像が変わる。

 そこには、なにもなかった。


 尾根も、谷も、山肌の起伏すら──すべてが、平坦な灰色に覆われている。


「……衛星から見えるレベルで、地形そのものが崩落しています」

「強力な悪魔かと」


 しばし沈黙ののち、通信担当が一歩前に出た。


「0番隊 隊長・神宮帝翔に通達。バルナー連峰・地形消失事案、直接調査任務を発令」


 神宮は画面を見つめたまま、静かに頷いた。


「了解」



 激しい風が吹き抜ける山頂に、黒い影がふわりと現れる。

 神宮は風の揺らぎすら乱さぬほど静かに、そこにいた。


 夏空の下には、見渡す限りの雪に覆われた広大な山脈。

 だが──その内部には、空間を喰らい歪ませる何かが存在していた。

 山の一部が、少しずつ沈み、歪んでいる。


 神宮は片手をこめかみに当てて瞳を閉じた。

 ゆっくり目を開け、片手を外す。

 そして指を鳴らした。


 瞬間。

 数百m先でボンっと何かが爆発した。その中心には、羽の生えた人、だろうか、しかしその目は明らかに真っ赤に染まっていた。

 ソレはぐったりとして動かず、しだいに溶けて消えていった。

 空気は一度、止まったように静まり、何事もなかったかのように風が吹いた。


 神宮は再び静かに目を閉じた。




 ──激しい風が吹きつける、雪の嶺。


 薄曇りの空に、稜線が浮かび上がる。

 そこを駆けるのは、二つの影。

 "冬"の嵐の中、黒い軍服の裾をはためかせながら、ふたりの長身の男が斜面を踏みしめて進んでいた。


 後方では爆音と閃光が色付いていた。


「君となら、地獄の底でも構わない」


 ひとりの男──深く被ったフードの影から、かすかに青白い横顔が見える。


「君と一緒なら、傷ついてもいいよ」


 言葉を返すことなく、その男はただ前へと進む。

 だが、ふいに肩を掴まれる。


「……神宮」


 立ち止まった男の名を、彼は確かにそう呼んだ。


「お前は生きろ」


 声は、雪よりも静かであたたかかった。

 そして、決意に満ちていた。


「生きて幸せになるんだ。

 いつか、人を心から愛し、そして、生涯を共にして……」


 雪が風に巻かれて舞い上がる。


「最後は俺のとこに顔見せに来い」

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