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-i  作者: リョーシリキガク
4章 ユリ編

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30/51

cos 30x 未来視

「私の能力、日蝕の日にしか発動しないの。視えるのは“次の日蝕”とか、“そのまた次”とか。そんな“断片的な日”だけ」


 日蝕までの間、ユリは自分の能力を説明していた。十分すごいでしょ、とでも言いたげに一々リリスを見ながら。


「つまり、明日や来週は見えない…?」


 有馬が質問すると、ユリは頷いた。


「そう。“直線”じゃなく“円”みたいな未来。日蝕から日蝕へ、時間が回る感覚なの」


 そう言って、彼女は手元の銀のロザリオ──十字架の演算子を握りしめ、目を閉じた。額に両手を当てる様子はまるで“祈り”だ。


「7月29日、8時19分…日蝕まであと5分です」


 静寂が訪れる。


「──未来視を起動しなさい、デルタ!」


《Δe^ix = e^ix・(e^ih - 1)》


 瞬間、空間に数百本の光線が走る。ユリはそれらを見つめ、淡々と報告を始めた。


「指名手配犯A、次回日蝕時にオルガ旧市街へ。Bは港、Cは死亡。解析班、データ照合急いで」


 続いてプロハンターの一覧へ視線を移す。


「この子、死亡フラグ。任務変更を。こっちは両足欠損。装備の見直しを推奨」


 観測ルームに緊張が走る。有馬は固唾を飲んだ。

 ──命の行方が、ひとつずつ“確定”されていく。

 やがて、ユリの声が低くなった。


「……ローク市、崩壊する」


 その言葉に、補佐官たちがざわつく。


「火災もある。でも──それだけじゃない。まるで大地震」


 スクリーンに映るのは、次回日蝕時のローク市の未来。

 崩れた高層ビル、裂けた道路、砂塵に覆われた空。人の姿は見えなかった。

 

 次々と各地域の映像が流れていく。


「……未来視、終了。データ保存完了」


 自動音声が響くと同時に、ユリはふらりと椅子にもたれ、肩で息をついた。


「……疲れたぁ。でも、神宮さんのためならまだまだ頑張れるよ!」


 そう言って振り返り、無邪気な笑顔でガッツポーズを見せる。

 神宮が一歩前に進み、そっと彼女の肩に手を置いた。


「ユリ、よくやった。君の予知が、多くの命を救う」


 ユリは頬を赤らめ、嬉しそうに神宮の腕に寄り添う。


 神宮はそのまま、有馬に視線を移した。


「有馬の担当は、崩落するローク市の調査だと思う」


「……はい」


 有馬が頷く横で、リリスが一歩踏み出した。


「有馬だけ、ですか?」


 神宮は頷いた。


「リリスのサイコメトリーで読めるのは、日蝕から次の日蝕までの記録でしょ。日蝕直後じゃ、リセットされてるからね」


 リリスが悔しげに唇を噛むと、ユリがふんと鼻を鳴らす。


「ね? 過去視より未来視が凄いって!」


 神宮は苦笑しながらも、柔らかく口を開いた。


「なら、ユリにも行ってもらおうか」


「え、ええっ!? わ、私!?」


「さっき頑張るって言ったじゃないか」


 有馬は絶句した。

 ──この人との任務なんて……。胸の奥で、不安がじわりと共鳴した。

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