cos 30x 未来視
「私の能力、日蝕の日にしか発動しないの。視えるのは“次の日蝕”とか、“そのまた次”とか。そんな“断片的な日”だけ」
日蝕までの間、ユリは自分の能力を説明していた。十分すごいでしょ、とでも言いたげに一々リリスを見ながら。
「つまり、明日や来週は見えない…?」
有馬が質問すると、ユリは頷いた。
「そう。“直線”じゃなく“円”みたいな未来。日蝕から日蝕へ、時間が回る感覚なの」
そう言って、彼女は手元の銀のロザリオ──十字架の演算子を握りしめ、目を閉じた。額に両手を当てる様子はまるで“祈り”だ。
「7月29日、8時19分…日蝕まであと5分です」
静寂が訪れる。
「──未来視を起動しなさい、デルタ!」
《Δe^ix = e^ix・(e^ih - 1)》
瞬間、空間に数百本の光線が走る。ユリはそれらを見つめ、淡々と報告を始めた。
「指名手配犯A、次回日蝕時にオルガ旧市街へ。Bは港、Cは死亡。解析班、データ照合急いで」
続いてプロハンターの一覧へ視線を移す。
「この子、死亡フラグ。任務変更を。こっちは両足欠損。装備の見直しを推奨」
観測ルームに緊張が走る。有馬は固唾を飲んだ。
──命の行方が、ひとつずつ“確定”されていく。
やがて、ユリの声が低くなった。
「……ローク市、崩壊する」
その言葉に、補佐官たちがざわつく。
「火災もある。でも──それだけじゃない。まるで大地震」
スクリーンに映るのは、次回日蝕時のローク市の未来。
崩れた高層ビル、裂けた道路、砂塵に覆われた空。人の姿は見えなかった。
次々と各地域の映像が流れていく。
「……未来視、終了。データ保存完了」
自動音声が響くと同時に、ユリはふらりと椅子にもたれ、肩で息をついた。
「……疲れたぁ。でも、神宮さんのためならまだまだ頑張れるよ!」
そう言って振り返り、無邪気な笑顔でガッツポーズを見せる。
神宮が一歩前に進み、そっと彼女の肩に手を置いた。
「ユリ、よくやった。君の予知が、多くの命を救う」
ユリは頬を赤らめ、嬉しそうに神宮の腕に寄り添う。
神宮はそのまま、有馬に視線を移した。
「有馬の担当は、崩落するローク市の調査だと思う」
「……はい」
有馬が頷く横で、リリスが一歩踏み出した。
「有馬だけ、ですか?」
神宮は頷いた。
「リリスのサイコメトリーで読めるのは、日蝕から次の日蝕までの記録でしょ。日蝕直後じゃ、リセットされてるからね」
リリスが悔しげに唇を噛むと、ユリがふんと鼻を鳴らす。
「ね? 過去視より未来視が凄いって!」
神宮は苦笑しながらも、柔らかく口を開いた。
「なら、ユリにも行ってもらおうか」
「え、ええっ!? わ、私!?」
「さっき頑張るって言ったじゃないか」
有馬は絶句した。
──この人との任務なんて……。胸の奥で、不安がじわりと共鳴した。




